第3話① 喰らわば皿まで

「はい、ミザリーさん。あーん」


「あ、あーん......」


 スプーンでスープをひとすくいして、鉄格子越しの口元に運ぶ。


 ミザリーさんは恥ずかしそうに、小さく口を開けてそれを飲み込む。


 暗闇から姿を表したミザリーさん。その姿は、少なくとも化け物には見えなかった。紫の瞳に、ぼさぼさだけど、ブロンド色の髪。ちゃんと、等身大の女の子だ。


「レイヴ、これは本当に必要なことなのか? 我はもう116歳なのだぞ。こんなことをする年齢じゃないのだが......」


「駄目ですよ、ちゃんと言わないと。僕だってしんどいときはお母さんにこうやって食べさせて貰ってたんですから。辛いときこそ、子供のようにしてみるんです。決まって、気分が楽になりますよ」


「ほら、もう一口。はいあーん」


「ううぅ。あ、あーん......」


「美味しいですか?」


「不味い!」


 即答! なんでだろ、一流のシェフが作ってるはずなのに。恥ずかしがってるだけ?


「何か好きな食べ物ないんですか? 明日シェフに頼んで、持ってきますよ」


「マフィンという焼き菓子が好きだった。ベリーやハチミツが乗っているのを、よく兄が作ってくれた」


「じゃあ、それを......」


「だが、この城のシェフの手にかかれば、何でも不味くなるだろうな」


「どうしてそう思うんです? この城に仕えているのは、トレント中から集めてきた、選(え)りすぐりのシェフたちですよ」


 僕は納得出来なくて、ミザリーさんが不味いと言うスープを飲んでみようとする。


「ならん!」


 カラン......。急な怒声に、スプーンを床におっことしてしまった。


「急に大きな声を、出さないでくださいよ。はぁ、今ので寿命が縮んだ気がします」


「本当に、縮むところだったぞ」


「どういう、意味ですか?」


 咄嗟(とっさ)に口をついたのは、ひどく間抜けな言葉だった。




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