第5話

「みんなフラッシュ使うよ。アキラとヨウコは後ろにまわって尻尾を切り落として。ヒトエとフタエはタゲ取りよろしく。」

 「「「「了解。」」」」 

 「いくよ。フラッシュ。」



今俺たちは80階層のボス戦攻略中。10階層毎にあるボス戦は必ずドラゴンが相手になるのだが80階層は2体出現した。各個体の属性を見極め、どちらから倒していくのかを判断する。火属性と地属性のドラゴンであることが確認できた。80階層のボスだ弱くはないだろうが一つの属性持ちで良かった。




火属性のドラゴンを早々に倒し2体目の地属性のドラゴンを相手にしている。タゲ取りさえしっかり出来ていれば尻尾を切り落として後はタコ殴りだ。簡単なことではないが状態異常属性持ちではないならこちらのものだ。71-79階層はそれまでと一転して状態異常属性持ちのモンスターが次々と出てきた。他の属性持ちがいなかったことを考慮するとかなり嫌らしい設定だ。

事前情報で理解していたつもりだが組み合わせた攻撃がえぐい、71-79階層のモンスターはそれまでより知能が高い…高い?狡猾と言ったほうが正解か。状態異常をかけることに特化した思考ルーチンを備えていそうだ。

自分も含めて5人ともが多大なフラストレーションを抱えていた。状態異常属性ドラゴン2体を相手にすることも覚悟して作戦を練ってボス戦に挑んだが、5人の内の誰かの幸運が良い仕事をしたようだ。ヨウコじゃないかとアタリをつけているのだが本人は全力で否定している。




ミツコの指示に従い目眩しの魔法を合図にドラゴンの後ろにまわる。ドラゴンの悲鳴らしきものが聞える、「目がーー、目がーー。」等と言っているのだろうか。思わず笑いそうなるが腹筋に力を込めて我慢する。大剣を振りかぶりながら身体をねじり力を溜め、太い尻尾目掛けて振り下ろす。

”ブツリ ” と音がして振り下ろした大剣が尻尾を切り落とす。力を込めすぎたためか床に叩き付けてしまい、両手が激しく痺れ大剣を取り落としてしまう。

 「ぐわぁ、痺れる。うおぉ……」 

感電したかのようなしびれが両腕に走る。

 「ヨウコ。頼む、状態異常回復薬を使ってくれ。腕の痺れが酷い。」

 「よく一撃でぶった切れたね。すっっっごい音したよ。一応状態異常回復薬使うけどただ痺れているだけじゃないの?」

 「早く、頼む。」

 「はいはい。セット、えい、と大丈夫?」

 「あぁ、すまない。・・・駄目だ、どうやらただ痺れているだけのようだ。」

間抜けなことだ、残心を取れるように鍛え直さないといけないな。折角攻撃成功したのにしばらく戦線離脱しなきゃいけなさそうだ。

 「ヨウコ。ミツコに声をかけてくれ。痺れが取れるまで隅っこに退避してる。すまんな。」

 「了解ーー。ミツコ、尻尾は切り落とせたけどアキラがしばらく戦線離脱だってさ。

 「了解。戦線離脱てケガ?どうしたの?」

 「剣で床叩いて、両腕痺れて武器が持てないって。間抜けだねーー。」

 「了解。後で説教だな。ヒトエ、フタエ、聞いた通りだ。バカが戦線復帰するまでタゲ取り頼む。ヨウコはこちらに戻って援護頼む。」

 「「了解。」」

 「了解。魔法多めでいくよ。」



遂にバカ呼ばわりされてしまった。大剣は切り落とした尻尾のそばで回収出来ないし仕方ないか。回復するまで気配を消してじっとしていよう。力が上がったのかな?火事場の馬鹿力か?ステータス表示がないのがツライ。プレイヤースキルがどれだけ上がっているのか知りたいよな。神様に頼めないかな。意見箱でも有ればいいのに。


あれから3分経過、ドラゴンはまだ健在だ、ダメージソースが足りないのが響いているな。両手を握りこむ、ぐーぱーぐーぱーしてみると握力が戻ってきたようだ。


良し。気配を消したまま抜き足差し足で大剣に忍び寄る。拾い上げ、柄を握り込む後ろから切り込んでやろうとドラゴンの右脚をターゲットに走り出す。


尻尾を切り落とした時は上手く刃筋が立ったのだろうか。普段は叩き潰すような使い方をしているのに、同じことが出来るとは思えないので右脚後ろから叩き付けて足払いするようにしてやろう。左脇にねじるように大剣を構え疾走する勢いそのままに膝裏の関節に叩き付けた。

”ガガン ” 肉に叩き付けたとは思えない音がした。上手く関節に入って骨を直撃出来たようだ。そのまま走り抜けて戦線復帰する。

”ギャオォーー ” ”ズズン ” 尻尾がないところに足払いをされたからかそのままひっくり返ってしまった。へそ天?青天とは言わないよな。後頭部を打ったらしく頭を抱えて痛がっているようだ。


 「すまん。遅くなった。詫び代わりにドラゴンへそ天させてみた。」

ドヤ顔、サムズアップしてミツコに声をかける。3人は呆けたようにドラゴンを見ている。

 「あれ、ヨウコは何処にいった?」

周りを見渡した時いきなり ”スパーン”と音がして後頭部に衝撃がきた。

 「ん?」

 「戻ってきたと思ったら何やってんの?ついハリセン取り出して引っぱたたいちゃったじゃないか。責任取れ、じゃない、止めさしてこい。」

 「痛くはないが、ビックリした。何でハリセンが出てくるんだよ。武器扱い?アイテム扱い?どこで売ってたの?初めて見た。」


何で殴られたかと思ったらハリセンだった。どこの誰だよ攻撃力皆無のハリセンなんて作ったの。地球ではもう使われていないって聞いたことあるぞ?日本では使用禁止なのに迷宮世界次元で使うのは "OK” なのか?


 ”ハリセンの作成仕様は許可されています ” 


いきなりワールドアナウンスが流れた。うわぁ、神様俺たちの戦闘見ていたのかよ。ハリセンOKなのかよ。今頃爆笑してんじゃないだろうな。


 「「「えぇ……」」」 

他の3人もドン引きしているようだ。

 「お笑いコントのようになってすまん。取り敢えず止めを刺して戦闘を終わらせよう。」

 「そうね。そうしましょう。ドラゴンも起き上がったようだし。仕留めるよ。」

 「「「「了解。」」」」



タンクのヒトエを真ん中に俺とフタエが左右に付く。少し離れてミツコ、ヨウコは姿が見えないのですでに配置についているのだろう。


 「いくよ。」 「「「了解。」」」


ミツコの弓による攻撃が始まる。俺たち3人はドラゴンに向けて走り始める。ドラゴンの右脚にファイア系の魔法が炸裂する。ヨウコの魔法だ。そのまま走りヒトエがドラゴンの前に立ち「挑発」スキルを使う。巨大な盾を構え、右手に殴られたらタダじゃすまなさそうなトゲトゲ付きの棍棒を持つ。

俺とフタエは左右に分かれそれぞれ目の前の巨大な脚に。脚を潰し頭を下げさせると首を落としにいく。邪魔な腕を躱し目を潰し噛みつきに来たところを体を駆け上がり脳天に大剣を突き入れる。フタエは顎下に入り込み喉元に向けて長剣を突き上げ、素早く引き抜き駆け抜ける。

往生際が悪ければ俺が魔法を叩き込もうとセットするが、そのまま絶命したようだ。頭が力なく下に落ちて遅れて体も崩れ落ちる。




 ”戦闘終了です。ボスの討伐を確認しました。”


 ”ゲートが開きますので、速やかに通過して下さい。”


 ”残り時間5分です ” 




最後バタバタしてしまったが80階層クリアだ。死亡者(ロスト)を出すことなくて良かった。

 「お疲れ様。待機者いるかもしれんしとっとと移動しようぜ。」

 「お疲れ。そうだねケガ欠損もないし帰って反省会と打ち上げしよう。」

 「え?打ち上げと反省会じゃないの?」

 「何言ってるの。反省会しっかりやってから打ち上げじゃない。」

 「動画も上がってるだろうし、反省会だな。」


4人とも俺の顔を見ながら会話を進める。

 「ごめんなさい。」

肩を落とし頭を下げる、ゲートに向けてスキルを発動、逃げ出すことにした。


 「「「「あ、逃げた。」」」」


 「ここで逃げてもしょうがないのに、相変わらずバカだね。」

 「アキラだししょうがない。」

 「「そうそう。」」



無事80階層を突破した俺たちは迷宮を出て、四姉妹の亜空間で長い永い反省会をするのだった。次はもっと上手くやろうと心に誓った。

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