第3話

亜空間から出た俺は昨日トレインした連中の情報収集をしようと迷宮管理棟(ギルド、交換所、食事処とも呼ばれる)に向かう。中に入ると喧騒に包まれる。ここはいつ来ても騒がしいな、まぁそれだけ情報交換に熱心でもあるんだろうが。

カウンターに向かい、受付に昨日のことについて尋ねてみる。

 「アキラと言います。昨日23階層でトレインされかけたのだが、何か抗議か謝罪が管理棟に来ていませんか?」

 「アキラ様ですね。少しお待ちを……、確認しましたが何もありませんでした。相手の確認が取れ次第連絡をいたしましょうか?」

 「いや、何もないならそれでいい。面倒かけたね、ありがとう。」

管理棟のほうには何も来てないようだ。カウンターから離れテーブルの並んだほうに向かう、誰か情報屋がいればいいんだが。いたいた、右奥のテーブルに目的の人物が居たことを確認する。

 「ようギド、久しぶり、ちょっといいかい?」

 「アキラか、いいぜ。」

空いている椅子に座り、テーブルのタブレットを起動させる。

 「ビールとソフトドリンク、どっちがいい?一杯奢るよ。」

 「ビールがいいな。」

ギドの返事を聞き、自分の分と併せて注文、支払いをすませる。すぐさま飲み物が届き、杯を合わせて一口飲む。

 「ハー、うまい。」

 「ゴチになるぜ。で聞きことは何だ?」

 「あぁ、昨日23階層を探索していたんだが3人パーティーにトレインされかけたんだ……」

昨日のことを一通り話した、で死に戻った連中が何か騒いでいないか聞いてみた。

 「んー、特別騒いでいた連中はいなかったな。大体自分達で戦線崩壊して逃げ出したあげくに突っ転んで死に戻ったんだろ。恥ずかしくて騒ぎようがないと思うがなぁ。」

 「そうなんだが、変に逆恨みしたり突っかかるやつはいるだろう?」

懸念を示す。自己中心的なのはその辺でよく見かける。

 「でも迷宮内ならリアルタイムで中継されてるから大丈夫だろう。」

 「そう願いたいね。」

話題を変えて世間話をしていく。



 「そろそろ帰るとするわ、ありがとうな。」

 「あぁ、またな。」

ギドに情報料を渡し管理棟を出る。まだしばらくは金稼ぎをしなきゃいけないし探索の準備をするために亜空間に戻ることにする。

台所に立ちタブレットを起動させ食材を購入していく。出来合いのものを購入してもよいのだが、自分で調理したものを食糧として迷宮に持って行くことにしている。

そういうことがしたくて地球にいる時に料理の勉強、いやあれは修行ではなかったか?べんきょうベンキョウあれは勉強、修行ではない。ないったらない。過去の嫌な記憶が浮かび上がるのを無理矢理押し込め、無心で料理を進めていく。


出来上がったさきからランチボックスに詰めていき、アイテムボックスに放り込む。気が付けば5時間が経過していた。

 「ふう、これだけあれば十分だろう。多めに作って持っていても交渉に使えるからな。」

料理を切り上げて、風呂に入って寝ることとする。

 「あぁーーー生き返る。風呂は最高だな。」

毎回入る度に呟いているが迷宮世界は娯楽が無いからしょうがない。100億Gが欲しくて参加したんだが、娯楽の無さに嘆くことになろうとは。そんなモノに現を抜かすなら一つでも階層攻略しろってことだよな。攻略失敗20回をカウントしてしまった身としてはこの先階層が上がってどれだけの強敵が立ちはだかるのかを考えると、もっともっと頑張らなくてはと意気をあげる。

風呂を上がるとゆっくりとストレッチを行い寝ることにする。時間的余裕はあるが起きたら探索再開だ。





翌日、気分良く目覚めた俺は装備を整え迷宮前に立つ。前回の続き23階層からだ、目標額稼いで装備を整えないと26階層に行けないからな。よし行くぞ。


探索開始から6時間経過、今はセーフティエリアで昼飯中だ。昨日作った料理をアイテムボックスから取り出し、ホカホカと湯気を上げるランチボックスに舌づつみを打つ。

 「美味い。」

思わず自画自賛してしまう。ガツガツと食いすすめていくと、少し離れて休憩していたパーティーが声をかけてきた。

 「湯気が立っていて美味しそうな食事だね。俺はタツヤ、メンバーはコータローにユウリ。3人で組んでる。よろしく。」

 「「よろしく」」

 「俺はアキラだ、よろしく。出来合いモノは味気ないんでね、自分で作ってアイテムボックスに入れている。温かい食事のほうが探索に遣り甲斐がでるからな。」

 「自分で料理してるのか。俺たち料理出来ないからなぁ、自ずと出来合いモノになる。迷宮内でレンチン出来れば温かいものが食べられるんだが。」

 「そうそう、地球にいた頃に迷宮内で美味いものが食いたいと思って探索者に選ばれた時に備えて料理修行したからな。武道の鍛錬もしたが、料理の方にもそれなりに時間をかけたよ。」

 「俺たちは鍛錬ばかりで食事のほうは気にかけなかったな。なぁ?」

 「「そうだな。食べられればそれでいいと思っていたからな。」」

 「でも料理修行?料理の学校でも通ったのかい?」

 「いや本当に修行さ。一日中野菜の皮むきから始まり料理人になれるんじゃないかというような作業量だった。おかげで一通りのものは作れるようになったよ。」

修行の中身を話すと3人ともドン引きしているようだった。まぁそうだよね、たまに夢に出てきてうなされるもの。

情報交換して食事休憩を終わらせると、装備を確認してお互いの健闘を祈ると別れて探索を再開した。




昼休憩から8時間、順調に探索を進め25階層まで階層を上がってきた。目標額を超える稼ぎを得て装備の向上を図れるとホクホクの気持ちでゲートを通過する。

迷宮前に帰還、管理棟周りのざわめきが聞こえてくる。無事戻って来られた喜びが沸き上がってきて、ほっと一息をつく。

亜空間を開き中に入る。装備を外しシャワーで汗を流すと少し遅めの夕食を食べる。腹がくちくなるとコーヒーを淹れ、飲みながらタブレットを起動、次の装備を吟味していく。装備の向上を図れたから明日は管理棟にある訓練場で武器の練度を上げなくてはいけない。

 「50階層まで一気に行けるようなモノを選びたいな。魔法関連もワンランク上げたいし、んー回復薬系で欠損回復はまだ無理か。ちょっと手が出せないよな。60階層からの稼ぎなら買えるようになるのかな。」

まとめサイトを眺めてみる、2時間程情報を集めるとタブレットから装備の更新を行った。

 「良し。これで50階層まで行けそうだな。51階層からはパーティーを組むことも視野にいれなければならないから、ギドに情報を集めてもらおう。」


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