第3話 持つべきは金持ちで時間を持て余している協力者

 旦那の不貞証拠を集めるために不倫相手のタワマンに張っていた私だったが、逆に犯罪として連行されそうになったところをギリギリで解放してもらえることになった。


「えー、んじゃ類子さんの旦那って、このタワマン住人と絶賛不倫中なんだ!」


 遠慮なくズバズバと切り捨ててくる青年、佐土原廉(20)は、面白そうに私の話を根掘り葉掘り尋ねてきた。


「うわぁー、気持ち悪! こんな気色悪いハメ動画を証拠として集めなきゃいけないとか、類子さんって前世よっぽど悪いことをしたんじゃない?」

「うるさいわね! 私だって収集したくて収集しているわけじゃないんだから!」

「けど旦那さんって趣味悪いね。めっちゃオバさんじゃん。類子さんの方がよっぽど綺麗なのに、どんまいッスね」


 おい、佐土原! お前、同情するなら笑いながらどんまいって言うんじゃない!


「っていうか、ここまで証拠が集まっているなら探偵とか雇わなくてもいいんじゃないん? さっさと訴えて離婚すればいいのに」


 彼の言葉に私は反論できずに黙り込んでしまった。

 そう、不貞の証拠としては十分なのだが、相手の女性に訴える術がないのだ。

 旦那を問い詰めてから素性を暴いてもいいのだが、最悪言い逃れてしまう可能性も拭いきれない。


 やるなら徹底的に打ちのめす!

 その為には相手の住所、もしくは勤務先を把握しておきたい。


「ふーん、部屋番号を調べるだけでいいんだ。それなら俺が協力してあげようか? 類子さんの旦那がギャフンっていうところを見てみたいからさ」

「ギャフンって、よくそんな古い言葉を知っているわね、佐土原くん。あなた何歳よ?」

「そんなのに年齢って関係ある? って、そんなことよりさ。どう? 無償で協力する代わりに、類子さんの旦那と不倫おばさんがどんな結末になったかを教えてよ」


 無償で手伝ってくれるの?

 ははっ、そんな上手い話があるわけがない。そもそもタダより高いものはないって言葉、最近の若い人たちは知らないのだろうか?


「えぇー、逆だよ逆。本来だったら金を払ってでも知りたい結末じゃん? だってこんなタワマンに住んでいる人間が社会的信用を失うんだよ? そんな転落を間近に見れるなんて面白いじゃん」

「は……?」


 転落人生……?

 恐っ、この子の思想が恐いわ!


 だが、それと同時に自分がしていることの重要さに怖気ついた。

 私は旦那と不倫相手を地獄に突き落とすことができる、重要な証拠を手にしているのだ。二人の運命は私が握っていると言っても過言ではない。


「不倫の場合の慰謝料の相場は高くて三百万くらいなんだっけ? 俺ならもっとふんだくる為に脅迫するけどなー。金を払わないとネットに公開するぞって」


 確かにその方が相手にはダメージも与えられるだろう。だが、それでは自分たちが犯罪者になる可能性が高い。盗み見も十分犯罪だっていうツッコミはスルーして、私は正当法で戦いたい。


「もったいないね。そんな善人だから浮気をされるんだよ、類子さん」

「こんな私を嫌っていう奴に、いつまでも縛られたいと思わないから、浮気をするならそれで結構。むしろこっちから切り捨ててやるわよ!」


 こうして私は強力な味方を仲間にすることに成功したのだ。

 あとは旦那と浮気相手に現実を突きつけてやるだけだと思って浮かれていた私達に、アイツらは思いもよらない爆弾を落としていったのだ。


 ———……★


「ねぇ、類子さん。この旦那の趣味動画だけだと言い逃れされる可能性があるから、自分達でも証拠を残した方がいいと思うんだけど、どうかな?」


 佐土原くんと出会ってから数日後、打ち合わせをする為に近くのファミレスで食事をしている時だった。

 言い逃れされる可能性ってどういう意味だろう? 眉を顰めて首を傾げていると、佐土原くんはあるサイトを見せてくれた。


「旦那さんの浮気相手、日和さんだけど、風俗で働いているみたいだよ。ギリギリな行為までOKみたいだから、仕事での行為って言われたらそれまでかなって思って」


 まさかの新情報に、私は食い入るようにスマホ画面を眺めていた。


 バムミ系熟女デリヘル……? あの男、こんなお店に通っていたのか!


「ちなみに日和さんは昼間は普通の会社員。週に1、2回ほど働いている感じみたいだよ」

「あんなタワマンに住んでおきながら、掛け持ちで働いているの?」

「あんなタワマンに住んでいるからじゃないの? 金掛かりそうだしさ。もしくは性癖満たすためとか? この店、そうとうマニアックだよ?」

「っていうか、そもそもそういう仕事って自宅にお客を呼んで行為をしたりするものなの? 普通はホテルとかに行くんじゃないの?」


 あまりの衝撃に思わず二十歳の青年に訪ねてしまったが、彼が知っていたらそれはそれでショックだ。


 何がともあれ風俗で働いているのなら、色々と事情が変わってきてしまう。確かに完全に肉体行為を証明しなければ、営業の一環として逃れられてしまう可能性があるのだ。


 相手の女性にダメージを与えることはできても、旦那にまでダメージを与えられるかと聞かれたら微妙である。


「くっ、だから堂々と連絡を取ったり、動画を撮ったりしていたのね。ムーカーツークー!」

「だから新たな証拠を取るために行動しようよー。尾行して探ってみない?」

「アンタは楽しみながら提案するな! 名前の通りサド野郎ね、本当に!」

「うわっ、類子さん。全国の佐土原さんに土下座をして下さい! 名前で判断するなんて最低っすよ?」


 この男、時々面倒臭い!

 とはいえ彼のおかげで早まらずに済んだのだ。ここは悔しいけれど佐土原くんの言うとおりにするのが得策だろう。


「今度、旦那が飲み会か外泊する時に尾行しよう! 楽しみだねー、類子さん!」

「全然面白くない……! あー、もう! 誰か私を助けて下さい!」


 ———……★


 次回『クソ夫の知らなかった性癖(知りたくもなかったけどね)』

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