第二話:手奈土家唄羽、京より火村屋敷に降る語[2040/4/6(金)]

 この悲劇の始まりは、今から数時間ほど前に遡る。


 夕暮れの高速道路を一台の車が走っていた。京都から高速道路に乗り、車は東京へと向かっている。


「すみません。うち一人のために、わざわざ迎えを出していただいて……」


後部座席に座る少女がばつの悪そうな顔でそう言った。強い京都なまりの話し方だ。

 栗色のウェーブがかったロングヘアーが、高速道路のフェンス越しに差し込む夕陽に照らされてキラキラ光る。


「いえいえ、電車や飛行機を乗り継ぐんじゃあ、手奈土てなづちのお嬢ちゃんも大変でございやしょう?」


狐面きつねめんを付けた運転手の言葉に、『手奈土のお嬢ちゃん』――手奈土てなづち唄羽うたはは余計にばつが悪くなってうつむいた。Aラインのワンピースのすそが、隣の席に置いたボストンバッグに被さっているのが見えた。


「色々あってお疲れでございやしょう。火村ほむらのお屋敷までまだかかるし、少し眠ってもござんすよ。近くなったら起こしますから」

「はい。ほな、お言葉に甘えさせてもらいます」


唄羽はドアにもたれかかり、すやすやと寝息を立て始めた。


「本当に、手奈土の方は大変な事になってるようで……」


狐面の男が、バックミラー越しに唄羽の寝顔を見てそう呟いた。

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かみよもきかず〜特定怪異対策及ビ指定霊者活動記録〜 鴻 黑挐(おおとり くろな) @O-torikurona

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