第二話:手奈土家唄羽、京より火村屋敷に降る語[2040/4/7(土)]

 この悲劇の始まりは、今から数時間ほど前に遡る。


 夕暮れの高速道路を一台の車が走っていた。京都から高速道路に乗り、車は東京へと向かっている。


「すみません。うち一人のために、わざわざ迎えを出していただいて……」


後部座席に座る少女がばつの悪そうな顔でそう言った。強い京都なまりの話し方だ。

 栗色のウェーブがかったロングヘアーが、高速道路のフェンス越しに差し込む夕陽に照らされてキラキラ光る。


「いえいえ、電車や飛行機を乗り継ぐんじゃあ、手奈土てなづちのお嬢ちゃんも大変でございやしょう?」


狐面きつねめんを付けた運転手の言葉に、『手奈土のお嬢ちゃん』――手奈土てなづち唄羽うたはは余計にばつが悪くなってうつむいた。Aラインのワンピースのすそが、隣の席に置いたボストンバッグに被さっているのが見えた。


「色々あってお疲れでございやしょう。火村ほむらのお屋敷までまだかかるし、少し眠ってもござんすよ。近くなったら起こしますから」

「はい。ほな、お言葉に甘えさせてもらいます」


唄羽はドアにもたれかかり、すやすやと寝息を立て始めた。


「本当に、手奈土の方は大変な事になってるようで……」


狐面の男が、バックミラー越しに唄羽の寝顔を見てそう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る