第一話:手奈土唄羽、丑三時に李下太樹と会う語[2040/4/8(日)]

  チャクラムの刃が月明かりに光る。


「やめて……やめてくれ……!」


少年が泣きそうな声で懇願こんがんする。


「コイツは……泰樹しんじは、俺のきょうだいなんだ!家族なんだ‼︎」


少年が『家族』と呼んだソレは、異形いぎょうの怪物だった。


『たぁ、イ、じぃ……』


 脚が2本に胴体1つ、そこに腕が4本と頭が2つ。人間のミイラが、ちょうど腰のあたりから二股に分かれているような見た目だ。

 手足が異様に細長くて、なのに胴体は丸々と太っている。月夜の住宅街を四つん這いで這いずり回っている様子は、巨大な昆虫にも見えた。


「でも、ソレは……」


少女が怪物を見上げる。


「ねえ、助けて……、助けてよ……。家族なんだ、俺の、俺の命よりも大事な……」


少年が地面にひたいこすりつけてすすり泣く。


(あの『モノノケ』を倒さんかったら、町がめちゃくちゃになってまう。でも、あの『モノノケ』はこの人のきょうだいで……)


 『モノノケ』。それは生命の循環じゅんかんから生まれるバグ、常人には見えない領域に棲む怪異たちの総称。

 大抵は人の目に触れない暗がりでひっそりと存在しているが、極度の飢餓きが状態におちいり凶暴化したモノノケはこちらの領域――つまりは現世にい出てきて人を喰う。


(でも……このモノノケ、何かを伝えようとしてはるような……?)


少女が迷っている間にも、チャクラムは怪物をめがけて飛んでいく。一度放った攻撃を戻す事はできない。口にした言葉が再び口に戻らないように。


 丑三うしみつ時の田園でんえんに悲鳴が響いた。

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