3日目 夢の中

 僕がイジメられるようになった頃、お姉ちゃんはちょっとだけ僕に対して過保護になったように思う。それまでは優しくも、少しサバサバとした強いお姉さんという印象だったけど、ベタベタと甘々と接してくるようになった。励ましてくれてるのが嬉しいのと同時に、彼女もまた弱い一人の人間なんだと思ったのを覚えている。


 目の前にいる昔のお姉ちゃんも、今見れば顔に影があるように感じる。夢の中で見る彼女の顔は、まるで救いを求めているようだった。


 きっとお姉ちゃんは、僕を甘やかすと同時に自分の心の傷も癒そうとしていたんだろう。僕もまた、お姉ちゃんを甘やかすと同時に自分の心を癒そうとしてたから。こういうのを共依存というのだと、後から知った。


 この日はそう、僕がお姉ちゃんに泣きついたんだ。


 夢の中で、彼女の胸の柔らかさと温かさを感じる。冬の外気との対比なのか、より温かい。ああ、この柔らかさと温かさが僕は本当に好きだ。これさえあれば、僕は他に何も要らなかった。


 だから……いなくなったのかな。


「ねえ、凪くんはやり返さないの?」


 イジメに耐えきれそうにないと泣きわめく僕に、彼女が問う。


「できないよ」

「どうして?」

「やり返しても、もっとひどくなるだけだから」


 僕が言うと、お姉ちゃんが頭を撫でてくれた。


「もうイジメる気持ちが起きないほど徹底的にやり返したらいいんだよ」

「……まあ、そうかもしれないけど」


 なんか、それって結局、変わらないんじゃないか。昔の僕は、そう思った。今、夢を客観的に見ている僕もやっぱりそう思う。そんな僕の気持ちを見透かしているのかどうか、彼女はふうと息を吐いた。


「君は優しすぎるのよ」

「そんなことないよ」

「ううん、私みたいなのにすごい優しいしね」

「お姉ちゃんは好きだからそうなんだよ」

「おー、かわいい」

「からかわないでよもう、真面目な話だったのに」


 そう言いながら、昔の僕は笑っている。頬に涙の跡を光らせながら。

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