第13話 異世界ランチ

 僕はトカゲ亭という小さな店に入った。

 どうやら夫婦でやっている店らしい。


 カウンターと小さなテーブルが4つ並ぶ小さな店。

 清潔感があって、客はほぼ満員。どうやら繁盛しているらしい。

 こういう店ってハズレはないんだ。ふふふ。


 初めての店は心が躍る。

 僕は大学の時から1人暮らしだったからな。

 自炊もしたけど、1人外食は大好きなんだ。

 ラーメン屋を1日で3軒もハシゴをしたことがある。

 そんな感じだからさ。外食にはそれなりのこだわりがあるんだ。

 ネットで店のことを書き込んだりとかまではしないけどさ。

 美味い店をたくさん知っていることが一種のステータスだったんだよな。

 ここは美味い。そんな店をたくさん知っているだけで自己顕示欲が満たされる。知り合った人なんかにポロっとね。会話の端々で「あそこの店美味いですよ」っていうだけで十分なんだ。

 だから、あんまり知られていないような名店を見つけた時の感動は格別だよね。


 さぁ、ここはどうだろうね?

 異世界ランチの始まりだな。


 僕が選んだ料理は店内の看板メニューだった。


 お昼の定食。

 

 雑穀米のお粥に肉の串焼き。

 なんとも不思議な組み合わせだが、それがこの店の売りらしい。


 お粥はシンプルな塩っけだけだった。

 ひえやあわ。麦や米が入っているようだ。

 それを塩と水だけで調理したシンプルな料理。

 緑色の葉っぱが小さく刻んで浮かんでいるのだけども、どうやらハーブのようだ。

 これが雑穀米の雑味を消しているのだろう。嫌味のない主食という感じになっている。

 ふむふむ。悪くはないな。特段、劇的に美味いわけではないが毎日食べれる飽きない味って感じだ。


 さて、続いて副食である肉の串焼きだな。

 ふふふ。やはり肉料理は心が躍る。

 店の奥さんに聞いたところ、『岩トカゲの肉』らしい。


 来たよゲテモノ。異世界らしい料理だよな。

 まぁ、トカゲの肉くらい、元の世界でも食べてるところはあったんだろうけどさ。

 日本じゃまず食べないからな。店名でもおおよその察しはついていたが、トカゲの肉か……。

 なかなかに異世界だな。


 さて、見た目だけれど……。

 調理しているせいか、トカゲの片鱗は見えない。

 鳥や牛といえばそれまでの形だ。

 周囲の客は美味そうに食っている。

 よし、うんじゃあ、僕もいっていますか。


パクリ……!


 う!


「うまっ!!」


 こりゃ、美味い!

 なんの臭みもなくコリコリとした食感。

 肉の旨みだけが口いっぱいに広がるぞ。

 例えるなら、焼き鳥の砂肝だ! それを更に洗練させて一切の臭みを無くした感じか。

 超高級砂肝。そんな言葉がピッタリだろう。


 噛めばコリコリ。

 肉の旨みだけがジュワーーっと。

 癖のないスパイシーな香辛料と塩っけ。


「うまぁああああ……」


 これ好きぃいいいいいい!!

 めちゃくちゃ好きかもしれん。

 ああ、ビール飲みたいぃいいいいいいい。

 これ食べて、ビールの苦味でジュワワワワァっとさ。

 ビール肉、ビール肉のコンボを楽しみたいってば。


 メニューにはエールの表示があった。

 異世界ビール。の、飲みたい……。


 しかし、まだ昼だしなぁ。

 そもそも、ビールを飲んでアーサーを運転したら飲酒運転になるじゃないか。

 この世界に違反運転の罰則があるかは知らないけどさ。マナーから考えればよくはないよな。

 でも待てよ。アーサーは自動運転ができるから……。僕は酒を飲んで、あとはアーサーに……。


 っていかんいかん。

 この世界は楽しいことがいっぱいだからな。

 まだまだやりたいことは山ほどあるんだ。

 ここでビールを飲んだら、その勢いで飲みつぶれてしまうかもしれん。

 ビールは後のお楽しみだな。


 はっと気がつくと、串焼きの串しか残っていなかった。

 

「しまった……」


 お粥が残ったままに肉を全部食べてしまったよ。

 美味すぎるのは罪だ。


「すいませーーん。この串焼きってお代わりもらえますか?」


「あいよ。何本だい?」


「……に、2本で」


 僕は新しくやってきた2本の串焼きに貪りついた。

 うは! 至福の時間、再始動。


「うま、うま!」


 トカゲ亭。最高だよ。

 いい店を見つけてしまったぞ。ふふふ。

 また来よう。次は串焼きでエールだ。クハッ! 楽しみすぎる。


 払った代金は700コズン。

 串焼き2本を追加してこれだからな。物価が安くて助かるよ。


 そうして時間が過ぎた。


 解体場に戻ると、ウネルスネークの死体は見事にバラされていた。


「ウネルスネークの素材は全部売れるんだ。捨てるところは一切無い」


 と、解体屋は嬉しそうに笑う。


「解体費用はいただくがいいよな?」


「もちろんだよ」


「じゃあ、それを差し引いて、素材の売却で30万コズン。討伐依頼のクリア報酬で10万コズン。せめて40万コズンだな」


「え!?」


「なんだ。少ないか?」


「いや……。十分だよ」


 実質、半日も働いてないからな。

 ボロ儲けだよ。


 薬草のクエストと合わせると42万コズンか。悪くないな。

 これなら明日のドライブデートは十分な資金になるだろう。


「ねぇ。モンスターってここに持ってくればいくらでも売れるのかな?」


「そりゃそうさ。モンスターは素材の塊だからな。ウネルスネークみたいなモンスターを持ってきてくれたらこっちも嬉しいよ」


 うむ。

 それならアーサーと亜空間収納箱アイテムボックスがあるから楽勝だぞ。

 異世界は金稼ぎが楽かもしれん。

 あっという間に大金持ちになれそうだぞ。


 僕は車に乗った。


「42万コズンになった」


『それは良かったですね』


「さて午後からはどうしようかな? 再びクエストに挑戦して金稼ぎを楽しむのもいいしな」


『資金があるので、今後の生活水準を上げるというのはどうでしょうか?』


「どういうことだ?」


『10万コズンもあれば庭付きの一軒家を借りることができますよ。冒険をするのにも拠点があるとなにかと便利です。女性の友達も遊びに誘えますしね』


「おおおおおおおお! それいいな!!」


 宿屋をハシゴするより、自分の家があった方が便利だ。

 それに、僕に家があれば、リンさんを遊びに誘えるかもしれないしな……。

 って、あれ?


「もしかして、明日のドライブデートのことを考えてくれたのか?」


『もちろんです。大賢者ナゾットの知能には女性を喜ばせる情報も入っております』


「僕が女の子と交際経験がないことまで知っているのか?」


主人マスターとは、私が以前の姿、軽自動車からの付き合いですからね。 主人マスターが助手席に女性を乗せたことがないのは把握しておりますよ』


「ははは。なんか情けないよな」


『いえ。 主人マスターは機会に恵まれなかっただけです。 主人マスターは異性として素晴らしい男だと思います』


「おいおい。ヨイショがすぎるぞ。ナゾットはお世辞をいう知能まで与えたのか?」


『本当のことを言ったまでです』


「ははは。まぁ、お世辞でも嬉しいよ」


『明日のドライブデートを成功させるためにも、午後は軍資金を使って準備をするのがよろしいかと』


「なるほどな。……僕は女の子のことがまったくわからないからな。おまえのアドバイス、助かるよ」


『全面的に支援いたします』


 うう。

 なんてできた車だ。


「よし。じゃあ、不動産屋に行ってみますか」


『ナビを表示させます』

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