第12話 クエスト達成


 ギルドは騒ついていた。


「すげぇな。あの世那火せなかって冒険者」

「もう薬草を採ってきたんだってよ」

「ウナリ山に行くのにたった10分で行けるらしいぜ」

「信じられんな……」


 やれやれ。

 目立つのは困るなぁ……。

 今朝は盗難未遂があった。賊がアーサーを狙ったんだ。

 そんなやつらが、このギルドに紛れているかもしれないからな。

 あんまり目立つのはよくない。

 とはいえ、真っ赤なスーパーカーだからな。

 クエスト達成の有無に関わらず、目立ちまくってしまうのは事実だ。

 早く、変化の魔石を手に入れて軽自動車にモードチェンジさせたいもんだよ。

 そうすれば目立つことも少なくなるだろうしな。


「こ、こんなにたくさんの薬草……。しかも全部良質です。世那火せなかさんは薬師の資格を持たれているのですか?」


「あ、いや……」


 三流大学卒で、資格は運転免許だけです。


「良質な薬草を採るには目利きが必要なんですよ。素人ではこうはいきません」


「は、ははは。まぁ、偶然かな」


 本当はアーサーに聞いたんだ。

 大賢者ナゾットの知識は薬草にも精通しているらしいからな。


「全て売却ですね! 計算いたしますので少々お待ちください」


 背中に視線が刺さる。


「すげぇぜ。世那火せなかは薬師にも精通してんのか」

「他の国じゃあ名の知れた冒険者なのかな?」

世那火せなかなんて聞いたことがないぜ?」

「星はいくつ持ってんだろうな?」

 

 ああ、変な噂が広まらなければいいが……。


「薬草が1万コズン。クエスト達成で1万コズンです。全部で2万コズンになりました」


「へぇ。結構な額になったな」


「薬草が良質でしたからね。倍以上の値段で売れたんですよ」


 よしよし。

 これで明日のドライブデートの資金は稼げたな。

 あ、そうそう。


「あのさ──」


 と、モンスターの素材売却の件で相談する。


「えええええええええええええ!? ウネルスネークを倒しちゃったんですかぁあああ!?」


「ははは」


 声が大きいなぁ。


「ウネルスネークはC級のクエストで討伐依頼が出ているモンスターでした。とても初心者冒険者では倒せないモンスターですよ」


「そうなんだ。僕はD級だからクエストは受けれないよね」


「でも、討伐したモンスターがクエスト依頼に該当する場合は半額が支払われる決まりです」


「半額でももらえるのはありがたいな」


「ウネルスネークの討伐なら20万コズンですからね。半額の10万コズンになってしまいますがよろしいでしょうか?」


「そんなにもらえるの?」


「はい。討伐の証明にはモンスターの部位が必要なのですが、お持ちでしょうか?」


「ああ、それなんだけどさ。素材を売りたいからウネルスネークの死体は亜空間収納箱アイテムボックスに入れてあるんだ」


「ええええ!? ア、亜空間収納箱アイテムボックスを持っているんですかぁ!?」


 こ、声が大きい……。

 案の定、彼女の声に反応して、周囲の視線が僕の背中に向けられていた。

 なんか異様に目立っている気がするぞ。


亜空間収納箱アイテムボックスは上位魔法です。せ、世那火せなかさんは他国では高位の魔法使いなのでしょうか?」


「いや。普通の人だよ」


「星はいくつ所持されていますか? まさか三つ星?」


「…………」


 星の数が身分証明になるんだったな。

 アーサーは大賢者ナゾットの星を持っているから五つ星だった。

 とはいえ、僕は持ってないからな。


「ははは。星なんか持ってないよ」


「…………そ、そうなんですか? そんな方が亜空間収納箱アイテムボックスの魔法を所持されているのですか??」


「……まぁ、色々とね」


「……ふはぁ。世那火せなかさんて謎が多いんですね」


 と、緑色の瞳をキラキラさせる。


「明日のドライブが楽しみです」


「ははは。別に大した人間じゃないよ」


「えへへ。私、料理が得意なんですけどね。明日は、お弁当作っていきますね」


「そ、そうなんだ」


「あ、手作り弁当……嫌ですか?」


「めちゃくちゃ楽しみです」


「あは! 良かったぁ。ふふふ」


「「 ………… 」」


 僕たちは見つめ合う。

 いかん。幸せすぎるぞ。この展開。


「あのよぉ。後ろが混んでんだけどさぁ。早くしてくんねぇかなぁ?」


「す、すいません!!」

「僕もごめんなさい!」

「じゃあ、世那火せなかさん。モンスターの解体は専門家がいますので、ギルドの裏に回ってください。話は通しておきますので!」

「あ、うん。ありがとう」

「じゃ、じゃあ明日。10時に中央広場の噴水前でお願いします」

「了解! 赤い魔導車で迎えに行くよ」


 ふはぁ……。

 明日が楽しみだなぁ。


 周囲の男たちは僕をジト目で睨みつける。

 でも、そんなことが気にならないくらい嬉しかった。


 ギルド裏の解体場に行くと、解体屋のおじさんが目を丸くした。


亜空間収納箱アイテムボックスを使えるのか!? 若いのにすごいな」


 僕はアーサーに命令を出してウネルスネークを亜空間から出現させた。


「ほぉ……。こりゃあ、綺麗な死体だな。バラし甲斐がある。解体するのに1時間ほどかかるがいいかい?」


 丁度、時間は昼だった。

 昼食を食べてからでも十分だろう。


 僕は適当な店を見つけて腹を満たすことにした。


 目についたのは、小さな小料理屋だった。


「トカゲ亭か……」


 看板には可愛いトカゲの絵が描かれている。

 店内からはいい匂いが香ってきた。


 炭火と肉の焼けた匂いだ。

 空腹を満たすような香り。

 いいね。ここにしよう。

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