第11話 どっちの魔法を選択する?

『レベルが3になりました。取得魔法の選択が可能です』


 僕の眼前には2つの魔法が表示された。


上級ハイ 回復ヒール亜空間収納箱アイテムボックスの魔法です。どちらを選択いたしましょうか?』


 ふーーむ。


上級ハイ 回復ヒールって回復だよね?」


『はい。 主人マスターが怪我をすれば治すことが可能です。骨折くらいならば瞬時に回復が可能ですね』


「めちゃくちゃ便利だな」


亜空間収納箱アイテムボックスは亜空間にアイテムを収納して持ち運びができます』


 うわぁ。

 2つとも便利だなぁ。


「両方欲しいな」


『残念ながら選択は1つだけしかできません。大賢者ナゾットの知能が影響しているようですね。彼も選択制で魔法を習得していったようです』


 なるほど。

 

「選ばれなかった魔法は2度と取得できないのか?」


『いえ。またレベルが上がれば表示されるようですね』


 ふむ。


「じゃあ、その場の最適解で魔法を選択するのが良さそうだな」


『選択の保留も可能です。保留期限は次のレベルアップまでです』


「よし。まずは保留か」


 と、ウネルスネークの死体に目をやる。


「バカデカい蛇だよな。20メートル以上もある……」


『重さでいえば1トンは超えているでしょうね』


 とてもトランクスペースには入らないか。

 助手席に入れるのも無理……。

 ってことはロープで牽引することになるが……。


「車で引きずるのは大変だな」


『肉がボロボロになっては売り物になりませんね』


 なるほど。

 これなら収納魔法が有用か。


亜空間収納箱アイテムボックスの亜空間ってどれくらいまで入るんだ?」


『重さでいえば100トンくらいまでの容量となっておりますね。ウネルスネークならば、あと70匹は収納が可能です』


「そんなに倒さないけどな……。まぁ、1匹なら余裕ってことか」


 よし。


「決めた。さっきの選択。亜空間収納箱アイテムボックスを選ぼう」


『承知しました。亜空間収納箱アイテムボックスを選択します』


「どうやって使うんだ?」


『私に命令していただけますと、作動いたします』


「よし。じゃあ、このウネルスネークを収納してくれ」


『了解』


 アーサーはヘッドライトを光らせてウネルスネークの死体を包み込んだ。

 すると、その体は亜空間へと消えた。

 

 最高のタイミングでの魔法取得だったな。便利すぎる。


 でも、これからの旅がもっと快適になるな。

 ふふふ。好調すぎる。


「よし。それじゃあ腹も減ったしグランデルモに戻ろうか」


『承知しました』


 快適なドライブだ。

 軽快に走ること10分。

 あっという間に王都に到着。


 ギルドの中に入ると、リンさんの前には行列ができていた。

 この時間の受付は混雑するらしい。

 こればっかりは並ぶしかないよな。


 仕方がないので並んで待っていると、リンさんが僕に気がついて手を振ってくれた。

 僕だけにわかるような笑顔で小さな声を出す。


「わぁ。世那火せなかさーーん」


 って、可愛すぎるだろ。

 リンさんの動きは心なしか早くなった。


「はい。資料はこれです。お気をつけて」

「お、おいリン。もっと冒険のアドバイスをだな」

「剛剣使いのマッグさんなら大丈夫です。混んでおりますので。次の人」

「ほっほっほっ。リンちゃんよ。わしはC級のダンジョンをじゃな」

「はい。資料はこれです。お気をつけて」

「いや。早っ! いつものアドバイスはないのかのぉ? 世間話もしたいしのぉ」

「混んでいるんです。ヘッピリィさんはB級の魔法使いなので探索は問題ありません。では次の人」

「でへへぇ。リンちゃーーん。そろそらオイラの魔導車に乗ってくれよぉ」

「お断りです。次の人」


 リンさんって人気なんだな。

 冒険者の男はリンさんの受付ばっかりに並んでるよ。

 あの見た目だもんな。競争率は高そうだ。


 20分ほど待つと、ようやく僕の番が回ってきた。

 車の移動時間よりこっちのが長いや。


世那火せなかさん。お待たせしましたーー!」


「あ、うん。混んでるのに悪いね」


「いえいえ。全然大丈夫ですよ! えーーとですね。地図ですよね? あと、いい薬草を見分ける資料。生息するモンスターも知りたいですよね。えーーと、うわ。ウネルスネークの討伐依頼が出てる……」


 と、テーブルに資料を置き始めた。


「アドバイスは受付嬢の仕事なんです。冒険者さんには快適に仕事をこなしてもらわないといけませんしね!」


 う……。

 なんだか周囲の視線が痛いな。

 並んでいる男たちは僕をジト目で睨んでいた。

 これはいかん。


「アドバイスは混んでるから省略してるのでは?」


 すると、リンさんは全身を真っ赤にした。


「せ、世那火せなかさんは新人だからいいんです!」


 そういうことか。

 そういうことなので、変なやっかみはやめて欲しい。


「慣れない冒険にはやっぱり資料が必要ですよね。道に迷うのも当然です。ウナリ山までの地図を渡さなかった私のミスですね。すいません。気が利きませんでした」


「あ、いやいや。もう終わったらからさ」


「え?」


「あ、終わったから。薬草採取」


 そう言って、薬草がパンパンに詰まった麻袋をカウンターに置いた。


「買い取り。お願いできるかな?」


「ええええええええええええええええ!? 世那火せなかさんが出発してから、まだ2時間しか経っていませんよ!? 道に迷って戻ってきたのではないのですか!?」


「あ、いや……。片道は10分くらいで行けるからさ。ギルドの受付で待ってる時間のが長いかもね。ははは」


「えええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 リンさんの叫び声と同時。 

 ギルドの中が騒つく。


「マジか。赤い魔導車持ちがウナリ山に10分で行ったってよ」

「速ぇえ……」

「嘘だろ?」

「馬でも1時間以上はかかんだぞ??」

「最新の魔導車でも30分はかかるだろう」

「でも、薬草を持ち帰ってんぞ?」

「ど、どんな走り方したんだ?」

「い、一体どんな魔導車なんだ!?」


 あれ、なんか目立ってる?

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