第9話 初めてのクエスト

 明日はリンさんとドライブだ……。

 細かいことは決めていないが、ドライブデート、といってしまってもいいのだろうか?


 うう。

 ど、どちらにせよ金がいる。

 今は文無し。デートでお金がないんじゃ格好がつかないよな。

 

 変化の魔石の情報も聞きたいけど、まずは金稼ぎだ。

 

 えーーと。


 僕は掲示板を見た。


 まずは、Dランクで簡単なクエストを……。


「薬草採取! これだ!」


 僕はその紙を持って受付に行った。


「リンさん。これ。このクエストを受けたい」


「はい。ウナリ山の薬草採取ですね。登録しました。期間は3日。距離がありますので気をつけてくださいね。今からならギリギリ日暮までには帰って来れると思いますが……」


「ありがとう。がんばってみる」


「あ! 待ってください。や、薬草の資料をお渡ししましょうか!? 薬草は見分けるのが難しいのです!」


「大丈夫! わかると思う」


「は、はい。では、お気をつけて」


 よぉし。

 初めてのクエストだ。

 

 僕は魔導車に乗り込んだ。

 シザーズドアを開けて乗り込む姿はなかなかにさまになっている。


「アーサー。ウナリ山だ。ナビを出してくれ」


「了解しました」


 えーーと、距離はっと……。

 なんだ、たったの30キロか。

 王都を出れば信号がないからな。

 こんな場所、楽勝だよ。


 僕はアクセルを踏んだ。


「見晴らしの良い道なら、もっと速度は出せるんだけどな」


 衝突が怖いんだ。

 ここは、馬車や魔導車が存在する世界だからな。

 普通に旅人が歩いている可能性がある。

 

「万が一にも接触事故なんてあったら大変だよ」

 

『それでしたらご安心ください。私は、1キロ先くらいまでなら感知スキルで把握することが可能です』


「へぇ……。そんなスキルを持っていたのか」


『はい。元々は車体が障害物に当たるのを避ける能力のようですね。スーパーカーとして標準装備されていたものが 主人マスターが女神ヌラに出して願い『超人的な力』によって強化された模様です』


「そういえばゴブリンと遭遇した時も先に見つけたもんな」


『はい。ですので、最高速度の移動は可能ですよ。ぶつかる前にお伝えはできますので』


「うは! 便利だなぁ」


『衝突を避けるために、接触前のハンドル誘導、および、ブレーキの操作は自動でさせていただきます』


「至れり尽くせりじゃないか」


主人マスターの車です。当然でしょう』


「うは! 優秀だなぁ」


『…………ありがとうございます』


「あれ? もしかして照れたのか?」


『…………はい』


「可愛いやつだな!」


『揶揄わないでください』


 ふふふ。

 愛おしいなぁ。


「よぉし。んじゃあ、アクセル全開で行ってみますか!」


『了解です』


ドドドドドドドドドドッ!!


 すごい……。

 アクセルの分だけエンジンの激しさが増す。

 でも、機体は全然ブレないぞ。凄まじい安定感だ。

 以前の軽自動車なら120キロも出せば横風に揺られて不安だったけどさ。

 160キロでも全然ブレない。ドッシリとして、安心できる。

 170……180……。

 なんだこの感覚……。これが車に乗っている感覚か?

 軽自動車じゃあ絶対に経験できない感覚だぞ。


「200キロ! すごい! 初めてこんなスピード出したよ」


主人マスター。カーブが続きます。速度を50キロくらいまでに落とされることをおすすめいたします』


「了解」


 そうか。もっと速度を出したいが、直線じゃないからな。

 レース用の道じゃないから仕方ないか。


 それにしても、カーブを曲がるのは快適だよな。

 以前の軽自動車じゃ体験できないくらいノンストレス。

 クンクン! って。キレッキレなんだ。

 気持ちがよくて疲れない。車体が安定しているからスムーズに曲がってくれるんだ。


「うう。気持ちいい。最高」


 移動が楽しすぎる……。


主人マスター。目的地に到着いたしました』


「もう着いたのか!? 早すぎるだろ!?」


『信号機のない山道でしたからね』


 30キロを15分かかってないよ……。

 早すぎだろ。


 もっと乗っていたい気もするが、帰り道に楽しめばいいしな。


「よし。薬草を採ろう!」


『上質な薬草が目の前に自生しているようですね』


 僕は車を降りて薬草を刈った。

 買ったばかりのナイフが機能してくれる。


主人マスター。それは薬草ではありません』


「葉っぱが似てるから間違えるな」


『少しだけ茎がピンク色になっているのが見分けるポイントのようですね』


「アーサーってなんでも知ってるんだな」


『大賢者ナゾットの知識です。彼は薬草や魔法、様々な事象に精通していたようですね』


「すごい助かるよ」


『よろこんでいただいて光栄です』


 道具屋で麻袋を買っておいたんだよな。

 薬草を袋の中に目一杯詰め込んでっと。


「これだけ採れればいいだろう。帰ろうか」


『はい』


 ふふふ。

 楽しいドライブの再開だ。


 と、車に乗り込んだ時である。

 草原がササササーーっと動いたかと思うと、大きな蛇が顔を出した。

 それは鎌首をもたげて、その高さだけでも10メートルは超えているだろう。


「デカ……」


『ウネルスネークです。1体だけのようですが、ゴブリンより強いモンスターですね。鱗が固く、防御力があります。人喰いの蛇として有名なモンスターですね。どういたしましょうか? 逃げることも可能ですが?』


 車に乗っていて良かったな。

 車内ってガラス越しだから落ち着けるんだ。

 外で出会ってたらヤバかったよ。

 

「アーサーの力で倒せそうか?」


『噛まれると厄介ですね。蛇の毒は私に通じませんが機体に穴が開いてしまいます』


「ああ、それは問題だな」


『ですが、火に弱いモンスターです。 火炎魔法イグニッションなら一撃でしょう』


「よし。じゃあ、距離を取って遠距離から魔法で──」


 って待てよ……。

 リンさんが言ってたな。

 モンスターの素材は売れるって……。


「この蛇ってどこの素材が売れるのかな?」


『そうですね……。肉は食用。鱗は防具屋。牙は武器屋。毒は魔法屋にそれぞれ売却が可能ですね』


「おいおい。素材の宝庫じゃないか」


『ですが、 火炎魔法イグニッションで燃やしてしまうと、ほとんど売ることはできません』


「なるほどな」


 んじゃあ……。


 僕はエンジンを吹かしてアーサーを動かす。

 

ギュルンドドドドドドド!!


 蛇から離れて距離を取った。


『逃げるのですか?』


「いや──」


 車体をギュインとUターン。


「──噛まれないように、倒す!」


 ウネルスネークは大きな舌を出して僕たちを威嚇した。


『シャァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 さぁ、戦闘だ。

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