第8話 可愛い受付嬢
僕は武器屋にいた。
そこで小さなナイフを買う。
お値段3500コズン。
これでゴブリンの耳を切るのが楽になった。
他にも、道具屋でバケツを買ったり、防具屋で冒険者らしい服を買ったり。
2万コズンあった所持金をほとんど使ってやった。
「よし。次はギルドに行こう」
情報収集と金稼ぎだな。
知りたいのは変化の魔石のことだ。
この石があればモードチェンジが可能になる。
スーパーカーから軽自動車になればやりたいことが増えるぞ。
ギルドに入るやいなや騒めきが起こった。
「赤い魔導車持ちだ……」
「見ろよ。赤い魔導車の
「赤い魔導車だ……」
「魔導車から炎を出すんだってよ……」
「すげぇな。一体何者だ?」
なんだなんだぁ?
共通して聞こえてくるのは『赤い魔導車』って単語だ。
どうやらアーサーのことらしいな。
ってことは、ギルドには賊と関係している者がいるんだ。ギルドに配属しているのか、それとも単なる関係者か。
どちらにせよ、クリーンでやってる営利団体ではないようだな。
悪人も混ざるのが冒険者ギルド。舐めてると足をすくわれそうだよ。
とはいえ、これだけ色々な人種が集まると所だ。情報収集と金稼ぎにはうってつけの場所だろう。
僕は受付嬢に話かけた。あ……。このポニーテールは、
「昨日の人だ」
「リンです。
リンさんか……。
女子アナみないな可愛い人だな。
受付嬢は顔でも採用されているのだろうか?
年下かな? 10代でも通る感じだけど、20歳くらいかもしれない。女の人って歳がわからないからな。
「新しい装備を買われたのですね。見違えるようです」
「ははは。まぁね。昨日の報酬でさ。もうスッカラカンだよ」
「ふふふ」
笑顔が可愛いな……。
あ、いかんいかん。
えーーと。
「お金を稼ぎたいんだけどさ。モンスターを狩って、その遺体の部位を売るのが手っ取り早いのかな?」
「冒険者の収入は2種類あります。クエストの達成と素材の売買です。
「へぇ……。どっちが効率がいいんだろうか?」
「どちらも冒険者次第ですね。クエストは安全なものが多いかもしれません。モンスターを狩るのは手間と命の危険性が高い仕事です。また、両方をこなすのがほとんどの冒険者ですね」
「両方?」
「クエストの依頼を受けて、その道中にモンスターを討伐して、その部位を素材として売るのです」
「ああ、クリア報酬ももらえるってことか」
「そういうことですね。クエストの依頼は掲示板をご覧ください。高い報酬のものもあれば安いものもあります。報酬内容は危険度や難度によって変わります。ですが、
掲示板をチラリと見ると、そこには張り紙がたくさんしてあった。
あの紙が依頼内容なのだろう。
「ランクの昇級は達成回数が基準になっております。D級ならば30回以上はクリアしないとC級に上がれません」
「なるほど。その辺は地道にやるのがいいのか」
「あとは王族からの指名ですね。上位ランクになりますと、王族がらみのお仕事もあります。王族に対して役に立てば大きな出世となります。身分証明としての星を授かり、同時に冒険者のランクも上がるのです」
「ふーーん」
アーサーは大賢者ナゾットの記憶を持っているからな。
すでに五つ星の身分証明ができるんだ。このギルドでも星を表示させたら僕のランクは上がるのだろうか?
……まぁ、あんまり楽することばっかり考えていてもしょうがない。地道にランクを上げるのも楽しいからな。
じゃあ、依頼を受けながらモンスターを倒すのが効率が良さそうだな。
あ、そうそう。
「変化の魔石を探しているんだけどさ。なにか情報がないかな?」
「変化の魔石ですか? 少々お待ちください」
そういって、受付嬢は大きなファイルを出して来た。
広辞苑より太いファイル。そんなのを3冊も。
「ここ10年ではそんなアイテムの依頼はありませんね」
「10年よりもっと前なら?」
「はい。このギルドは200年間続いています。膨大な資料があるのですが、10年より前となりますと、倉庫から探さなければならないのです。これで10年分ですからね。倉庫で探すとなると時間がかかります」
そりゃ大変だ。
「私も聞いたことがありませんから10年以上前に存在していたレアアイテムかもしれませんね」
「レアアイテムか」
地道に人から聞いて回るのがいいかもしれないな。
「クエストで出せればいいのですけどね」
「え?」
「レアアイテムに関する情報収集をCランクのクエストとして出すことができるんですよ」
「へぇ。僕でもクエストを出せるのかな?」
「もちろんです。クエストの依頼はどんな人でも出すことが可能です。ギルドは仲介手数料をいただいて経営を維持しているのです」
「ふむ」
「後ろの掲示板に『変化の魔石の情報を知りたい』とクエストの紙を貼れば、魔石の情報を他者から買うことができるんですよ」
「便利だな。やろうかな」
「あ、でもCランククエストですからね。報酬は最低でも10万コズン以上ですよ?」
「高いな」
「レアアイテムですからね。入手ができる確定情報ならば100万以上はします」
「高すぎる……」
「はい。なので、レアアイテムの情報収集は王族や貴族の方が中心ですね。ガセネタの精査は個人ではできませんしね」
「なるほど」
ガセネタもあるのか。そんなのに10万コズンも払うのは嫌だな。
「とりあえずはDランクのクエストをやるよ。金を稼ぎながら情報収集をやればいいしね」
「はい。がんばってくださいね。私も魔石について調べてみますから」
「ああ。ありがとう」
「あ、あの……」
「ん? なに?」
「せ、
やれやれ。
彼女にまで噂が広まっているのか。
「僕の魔導車は赤いボディだけどね。それがどうかした?」
「あ、いえ……」
「ふふふ。炎を吐く恐ろしい車だよ」
「ひぃえ! ほ、本当に吐くのですか?」
「どうだろうね。秘密」
「うう……………」
「ふふふ。まぁ、怖い車じゃないよ」
「そ、そうですよね。
「そうかな?」
のんびり屋なところがそう見えるのかもしれない。
「真っ赤な魔導車は……。ふ、2人乗りという噂です」
「え?」
彼女は真っ赤な顔で僕の顔をチラチラと見ていた。
なぜ2人乗りのことを気にするんだ?
ま、まさか……。乗りたいのか!?
僕の車に……。僕の隣に……。
僕の車の助手席に……乗りたいのか?
いやいや。待て待て。
早まるな。
過去にも、こういう展開がなかったわけではない。
だが、女は魔性の生き物だ。平気で嘘をつく。
男心を弄ぶ悪い生き物なんだ。
ドライブに誘った途端に笑顔でこう言われるんだ。
『ごめんなさい。私。彼氏いるんです』
みたいな展開が平気であった。
可愛い子には彼氏がいる。
こんな女子アナチックな美少女。
彼氏がいるに決まっている。
それに、どうせ縁がないだろうとスルーしていたが……。
この子。めちゃくちゃ可愛いぞ。白い肌に茶色の輝く髪の毛。
翡翠色の瞳はパッチリと大きくて。スタイルは抜群にいい。
童顔で清楚で……。でも色気があって……。
さ、誘うのは罠だ。傷つくのは僕なんだからな。
「ご、ごめんなさい。余計なことを聞いてしまいました」
「いや。別にいいけどさ」
「「 ………… 」」
僕たちは見つめ合った。
真っ赤な顔で。
ドキドキ……。
いかん。鎮まれ鼓動。
こういうのは本当にダメなんだ。
彼女いない歴が年齢の僕にとって、こういう展開はトラウマしか残らない。
別に好きな人がいなかったわけじゃない。ただ単純に惨敗してきただけだ。
僕みたいな冴えない男に、女の子はときめかないんだよ。
ドキドキドキ……。
ダメだというのに、勝手に声が出ていた。
「僕の車……。興味あるの?」
彼女はコクリと頷いた。
こ、この展開は……。
いやいや。そんなまさかだ。
し、しかし……。
「じゃ、じゃあ、機会があったら乗せてあげよっか?」
「い、いいんですか?」
なにぃーーーーーーーーー!?
いやいや、まだわからんぞ。
「ははは。でもダメか。彼氏に悪いもんな」
「か、彼氏なんていません!」
「え?」
「か、彼氏なんてできたこと……ありません」
「そ、そうなんだ……」
「「 ……………… 」」
僕たちは再び見つめ合った。
ドキドキドキドキドキドキドキーー!!
「じゃ、じゃあ、休みの日とか……。一緒にドライブとか……する?」
「私、明日は休みです!」
「え……?」
「あ、急すぎましたか。ごめんなさい」
「いや……。別にいいけど」
「では、明日。
「あ、うん」
なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?
なんだこのトントン拍子はぁああああああああああああ!?
こんな可愛い子が、僕の車の助手席にぃいいいいいいいい!?
ドキドキドキドキドキドキーーーーーーーーーー!!
落ち着け僕!
落ち着くんだぁあああああああああああああああああ!!
中嶋
異世界、漫喫してます!
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