第7話 異世界飯と快適宿

 さぁ、異世界の飯だぞ。

 どんなもんだ?


 テーブルに乗せられたのは温かいシチューとパン。それとサラダだった。


「はい。ウサギ亭自慢のうさぎ肉のシチューさ」


 うは! うまそう!!


「この周辺で獲れる野うさぎは癖がないんだ」


「へぇ」


「はじめてのお客さんには、必ず食べてもらうようにしているのよ」


 野うさぎとは、異国って感じだな。

 これは期待ができるぞ。


 さっそく一口……。


ズズ……。


 甘味と酸味がブワッと口の中に広がる。


「うは! うまっ!!」


 酸味はトマトかな?

 トロッとして、肉汁の濃くと旨みがしっかり出てる。

 野菜はサイコロ状に切ってあって食べやすい。口で噛むとちょうどホロリと崩れるくらいの柔らかさ。

 うん! しっかり煮込んであるな。

 ウサギの肉は癖がなくていい。鳥に近い牛って感じ。パンとよく合うよ。


 シチューの香辛料は胡椒かな?

 この辺はよくわからないけど、ややスパイシーで食欲を唆る。

 めちゃくちゃ日本人好みかも。

 パンはやや硬めだが、小麦の匂いがしっかりしている。

 噛めば噛むほど旨味が出るんだ。


「ふふ。シチューとよく合うね」


 シチューを食べて、パンを食べる。

 シチューパン。シチューパン。その繰り返し。

 そういえばサラダもあった。

 レタスとキャベツの間を取ったような葉野菜。

 癖がなくパリパリとした食感。そこにレモンみたいな柑橘系のドレッシング。うん。美味い。シチューの付け合わせには抜群の相性だろう。


 ああ、異世界の料理。最高かも……。


 瞬く間にシチューがなくなる。

 

「お代わりありますよ」


 店員さんの声かけ。

 では、甘えさえていただいて。


「お代わり!」


 再び始まるシチューパンのダブルコンボ。

 異世界飯。美味すぎる。

 皿の淵にについたシチューはパンで拭き取るようにしてね。グィーーッと。

 これで皿を洗う人が楽になるでしょ。

 シチューがたっぷりと染み込んだパンをパクリ。

 うん。美味い。


「ごちそうさまーー」


 ああ、お腹いっぱいだ。

 めちゃくちゃ美味しかった。満足満足。


「後でお湯をお持ちしますね」


 お湯?


 案内された部屋は6畳くらいの個室だった。

 清潔なシーツのベッドがあって、机と、その上にはランプが光る。

 ランプの淡い灯りが部屋の光源だ。


 このランプ……。


「電気じゃないぞ?」


 火も点いてないしな。

 電球のようなガラス球があって、その中には煌々と光る物体が……。


「おそらく魔導石」


 この世界には電気がない。

 代わりに魔法や、魔導石があって、それが電気の代わりをしているんだ。

 街中の信号機もこれが動力源なんだろうな。

 うーーむ。異世界って感じだ。


 コンコン……!


「お湯。お持ちしました」


 それは桶に入ったお湯だった。

 タオルを2枚添えてある。


「こっちは下のタオルです」


「ども」


 なるほどね。

 つまり、これで体を拭けってことか。

 下のタオルってのは下半身を洗う用だな。


 この世界は中世ヨーロッパな感じ。

 やや18世紀ごろの車があるが、基本のティストは14世紀ごろの中世だ。

 そんな頃にお風呂やシャワーの概念はない。そういった浴場は施設だけで、宿屋や普通の家には常備されていないんだ。

 だから、体の汚れはこの桶のお湯で洗い流すわけだ。

 

「シロップみたいな瓶がいくつかあるけど……」


 クンクン。

 鼻を近づけると花のいい香り。

 シャンプーとかリンス。石鹸の類だな。

 ふふふ。異世界だなぁ。


 僕はお湯で体を拭いて、適当に石鹸も使った。


「うん。さっぱり」


 ベッドの上に寝転がる。


 ここの宿代を払っても、まだ2万コズンはある。

 明日は買い物がしたいかな。

 服を買って、服装をこの世界に合わしたい。

 黄色のパーカーはちょっと目立つんだよな。

 ナイフや、ちょっとした道具も欲しい。

 モンスターの部位を切るのでも小さなナイフより大きい方が楽だ。

 バケツや、袋的な物の欲しい。ふふふ。とにかく道具は必須だな。


 それからギルドにいって情報収集かな。

 知りたいのは変化の魔石。

 この石があればアーサーを軽自動車に変化させられるんだ。

 そしたら目立つことは少なくなるし、買い物した物を多く運べるようになるよな。

 

 アーサーがいればモンスター狩りは簡単だ。

 モンスターが狩れれば金に困ることはない。

 毎日、宿屋に泊まることができるだろう。

 アーサーにはレベルアップのシステムがあった。

 まだ、レベル2だが、レベルを上げて性能を向上させる楽しみもある。

 レベル3はどんな魔法を覚えるんだろうか?

 考えると楽しくなるな。


 アーサーのレベルアップや、金稼ぎは変化の魔石を探す道中でやればいいだろう。

 うう。楽しい。楽しすぎる。

 異文化に触れながら楽しい旅行。そしてゲーム感覚で金稼ぎだ。


 なんだここ。天国かな?

 いや、そんな場所よりもっといいぞ。

 こりゃ女神ヌラに会ったらお礼を言わないとバチが当たる。

 ミスをしてくれてありがとうって、言わないとな。

 ふふふ。まさか手違いで死亡して、別の世界に行くとは思いもしなかった。でも、最高の異世界だよ。


 僕はワクワクしながら眠りについた。

 こんな気持ちは久しぶりだ。

 小学生だった時のクリスマスイブとか、お正月。夏休みがこんな気分だったな。

 ははは。まさか、27歳でこんな生活が送れるなんてな……。

 憧れのスーパーカーも所有できたし……。とにかく最高だ。



 次の日。

 僕は爽快に目が覚めた。

 宿屋の天井をしっかりと確認する。


「ふは。良かった。夢じゃない」


 もしかして、なんて思っていた節がある。

 目が覚めて日本だったら、げんなりしちゃうよね。

 でも、大丈夫。これは夢じゃない。

 ここは異世界。僕は王都グランデルモの宿屋に泊まっているんだ。


 宿屋には朝ごはんもついていた。

 牛乳とチーズとパン。中世ヨーロッパって感じの朝食。

 ちゃちゃっと食べて宿を出ることにした。

 もちろん、朝食もすさまじく美味しかったよ。

 看板にある二つ星は伊達じゃないね。


 駐車場に向かう。

 馬車籠や魔導車の中に真っ赤なボディが目立つ。

 やっぱり僕のスーパーカーは一番格好がいい。


「アーサー。おはよう」


『おはようございます。 主人マスター


 すると、車体の前に真っ黒い物体が4つ。無造作に転がっていた。


「な、なんだこれ!?」


『賊です』


「賊ぅ?」


 よく見れば人だった。


『深夜に私を奪おうとやって来たのです』


「え!?」


 それは真っ黒焦げの遺体のようだった。


火炎魔法イグニッションで燃やしてやりました』


 なるほど。

 街を走ると目立つからな。

 賊に目をつけられたわけか。

 アーサーを奪おうとするのは当然か。

 

「えーーと……殺したの?」 

 

『威力は最小限にとどめましたからね。辛うじて息はあるかと』


 見ると、賊は気絶しているだけで、僕が足のつま先でチョンとやると目を覚ました。


「ううーーーーん。は!?」


 賊は目を覚ますなり、アーサーを見て悲鳴を上げる。


「ぎゃああああああああああああああ!! 化け物ぉおおおおおおおおお!!」


 大声を出しながら、ほうほうの体で逃げていった。


「やれやれ。困ったやつらだな」


『殺しても良かったのですが 主人マスターのことを考えました。今後はどういたしましょうか?』


「ははは。まぁ、流石に殺すのは可哀想だよ。十分に懲りただろうしさ」


 うーーん。

 これだけの高級車だからな。賊に狙われるのは当然か。

 でも、アーサーのセキュリティは完璧だったな。

 しかも、僕の気持ちを配慮して手加減までしてくれた。

 流石に殺人までやっちゃうと気分が悪いもんな。


「うん。よくやった。偉いぞアーサー」


『…………あ、ありがとうございます』


「あれ、照れたのか?」


『はい』


「ったく。可愛いやつだな」


『揶揄わないでください』


 ふふふ。

 最高の車だ。


 僕はエンジンのスタートボタンを押した。


『本日はどこに行くのでしょうか?』


「買い物したいからさ。物品販売があるような場所だな。服とかナイフとか欲しいんだ」


『ではナビに表示させますね。近くに市場があるようです』


 よぉし、今日も楽しい異世界生活の始まりだ!

 

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