第6話 車比べ 【ざまぁ】
冒険者のジャレルは自信満々に笑う。
「おい
「は、ははは……」
こういう時って苦笑いしかできないんだよなぁ……。
人付き合いは苦手なんだ。
まぁ、とはいえ、はっきり言わないと伝わらないよな。
「あ、あの悪いんだけど──」
「現在のメンバーは7人だ」
うう、遮られた。
ジャレルの後ろには6人の男女が現れた。
男はタトゥーとモヒカンで、女は厚化粧でアミタイツという、なんとも柄の悪そうなメンバーである。
不良を絵に描いたようなやつらといえばわかりがいいだろう。
「ふぅん。
「貧乏確定って感じぃ」
「弱そうなやつだな。どうせ魔導車もしょぼいだろうよ」
「ヒャッハーー! 荷物持ち決定だなおまえ!」
ああ、絶対に関わり合いたくない連中だ……。
「さっきも言ったが、リーダーは俺様だ。パーティーは能力に応じて仕事を割り振っている。貴様はD級だからな。初めは荷物持ちでもやってもらうさ」
「あ、ありがたいんだけどさ。仲間にはなれないよ」
「な、なんだと!?」
「1人で冒険するのが性に合っていると思うんだ」
「ふん。そんなことは俺様が決めてやる。無能ならばパーティーを追い出すだけだ」
「ははは。追い出されるのが目に見えているよ。じゃ、じゃあね」
「あ、おい待て! この恩知らずのボンクラが! すっとろそうなおまえを俺様が誘ってやっているんだぞ!!」
「だから、遠慮するってば!」
僕は足早にギルドから出た。
すると、ジャレルたちは追って来た。
「このボンクラが! 貴様に俺様の魔導車を見せてやる!!」
いや、いらんって。
ジャレルは脇に止めていた魔導車にエンジンをかけ、僕に前へとやってきた。
「クハハハ! 見ろよボンクラぁああ! これが最新式の魔導車だぁああああ! 星二つの名車、マッハタイガーよ! グハハハ!!」
排気口からは真っ黒いガスを出し、バシュンボシュンギュルルと雑味のあるエンジン音で僕をつけ回す。
座席は2席。本当に2人が乗るのが精一杯の小さな車だ。
「しつこいなぁ……」
「ギャハハハ! 貴様の魔導車を見てやるよ! 冒険者の価値は魔導車で決まるんだ!」
勝手な持論をベラベラとよく喋るなぁ。
えーーと、アーサーは……。
ああ、赤いボディだからすぐにわかるな。
「どうせ貴様の身なりだ。大した魔導車には乗っ取らんだろう。今更後悔したって遅いからな! ギャハハハ! 貴様はもう遅いのだ! なにせ俺様のスカウトを断ったのだからなぁあああ! この失態は取り返しがつかないのさ!! ギャハハハ! このマッハタイガーを見て後悔してるんじゃないのか? でももう無理だぞ。貴様は仲間にはしてやらん! 絶対にだ!! 貴様は判断を見誤った!! ボンクラ
後悔なんか微塵もしてないっての。
「ギャハハハ! ハ──!?」
ジャレルの笑いが止まる。
どうやらアーサーが目に入ったらしい。
『お帰りなさいませ
「ああ」
ウィイイイイイン。
アーサーはシザーズドアを開けてくれた。
自動でやってくれるのは本当に便利だ。
ジャレルは顎が外れたかの如く、口をあんぐりと開けたまま震える。
「あが……あがが……」
丁度、その時、ポツポツと雨が降ってきた。
夕立ってやつだな。
マッハタイガーは屋根無しのオープンカーだ。
こういう時に困るよな。
『無事に売れましたか?』
「ああ。それなりの金になったよ」
『それは良かったです』
僕はエンジンのスタートボタンを押した。
ドゥルンドドドドドドド。
ふふふ。
洗練されたエンジン音。
やっぱりいつ聞いてもいいよな。
窓越しにジャレルが固まっているのが見えた。
ウィイインと窓を開ける。
「雨降ってきたからさ。早く帰った方がいいぞ」
「は、はが……はがはが……」
「おーーい。大丈夫かーー?」
「そ、そ、そ、それが……。お、おま……、おまえの……く、く、車か?」
「ああ、アーサーっていうんだ」
「……………」
ジャレルは、雨に濡れることも忘れてアーサーに目が釘付けだった。
まぁ、一応は謝っておくか。
「誘ってくれたのに。なんだか悪かったな。僕は1人が気楽だからさ」
「…………」
あれ?
なにも答えないぞ??
さっきまで饒舌だったのにさ。
あ、ちょっと雨が強くなったか。
僕がワイパーを動かすと、ジャレルは再び目を見開いた。
「あ、あ、雨粒を……。よ、避けるだとぉ……?」
「あ、じゃあ、僕は行くから。風邪ひかないようにな」
バックミラー越しにジャレルの姿を見る。
すると、彼はその場に立ち止まって、アーサーが去って行くのをずっと目で追うだけだった。
やれやれ。
変なのに絡まれちゃったな。
『
「とりあえずゆっくり寝れる所。あと飯も食いたいな」
初めての異世界の宿だからな。
「清潔なベッドで美味い飯が食いたいよ」
『でしたら、あの宿屋などはいかがでしょうか』
そこは店の看板に二つ星を描いていた。
『星の数は店の評価を表します。少しだけ値は張りますが清潔で美味しい食事を出す証拠です』
星の横にはうさぎの絵。
屋号は『ウサギ亭』というらしい。
「よし。じゃあ、ここにしよう」
初めての宿だ。
ふふふ。こういうのも楽しいよな。
『
「ああ、良かった」
アーサーは駐車場に止まることになった。
そこは馬小屋と合体したスペースだった。
馬車の籠を置いたりしている空間。
この世界には魔導車があるから、こういう馬車と混在する駐車場が主流らしい。
僕が宿に入ったころには、外は真っ暗になっていた。
良かった。暗くなる前に入れた。車中泊しなくて済む。
宿屋の女将に値段を聞く。
「素泊まりで1千コズン。食事つきなら2千コズンだよ」
手持ちが2万コズンだからな。
余裕だよ。
なんだ、値が張るっていうから心配してたけど大したことないな。
日本ならビジネスホテルで7千円くらいはするだろうから物価は相当に安いのかもしれない。
さっそく、夕飯の時間。
異世界の食事はどんなもんだろ?
そこは小さな一室の食堂だった。
宿屋の店員がトレーに料理を乗せて運んでくる。
異世界料理か。
ワクワクが止まらん。
めちゃくちゃいい匂いがする!
これは当たりの予感。
────
面白いと感じた方だけで結構ですので、
⇩の⭐︎評価をしていただけると助かります。
作者の意欲が上がって、より多くの作品を提供できるようになります。
なにとぞ、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます