第4話 旅の目的


「ゴクゴクゴク……。プハーー! 美味い!!」


 僕は湧水を飲んでいた。

 僕の愛車、アーサーの言うとおり、美味しい湧水だったよ。


 ここに来る途中でゴブリンを遭遇して狩りまくってやった。

 おかげでトランクスペースはゴブリンの耳でいっぱいだ。


『ギギギ!』


「あ、またゴブリンか。もう耳は必要ないんだよな」


『では燃やしてやりましょう。 火炎魔法イグニッション


『ギャァアアアアアッ!!』


 ふむ。魔法は便利だな。


「レベルは上がらないのかな?」


『レベル3になるまでには、もう少しだけ経験値が必要なようですね』


 この場所を起点にして、モンスターを狩りながら食料を集めてサバイバルを楽しむという手もあるか……。レベルを上げるのも楽しいしな。

 夜はアーサーの中で寝ればいいし……。


「あ、待てよ?」


『どうされました 主人マスター?』


「シートが倒れる角度をさ。ちょっと見たいんだ」


 僕はレバーを引いてシートを倒した。

 その角度は50度前後だろうか。


 う!

 やっぱりだ。


「思ったよりシートが倒れないな」


『スーパーカーは快適に走ることが目的とされております。シートの設計もそのためですからね』


「だよなーー」


 これだと寝るのは疲れるか。

 スーパーカーで車中泊なんて聞いたことがないしな。


「…………」


『あれ? どうされました 主人マスター?』


「ん。ちょっとな。昔のおまえを思い出してた」


『ああ。軽自動車のSUV(スポーツ用多目的車)ですね』


「うん……。覚えてるか? 車中泊したの?」


『ええ。独り温泉旅行ですね。 主人マスターは私の中で一泊されました』


「ははは。節約だよ。金がなかったしね……。あの車、軽なのに大きくてさ。後部座席が広かったな。170センチの僕でも足を伸ばして寝れたんだよね」


『そう言っていただけると嬉しいです。私はお役に立てていたんですね。……申し訳ありません。今はスーパーカーになってしまいましたから、そういう面では役不足かもしれませんね』


「あ、いや……。今の姿はめちゃくちゃカッコいいからさ! 役不足なんて思ってないからな!!」


『……車中泊などを目的としますと、スーパーカーより以前の軽の方が分があるでしょうね』


「車は目的に応じてだからな」


『では、変化の魔石を入手するのがよろしいかと』


「なんだそれ?」


『持つ者を理想の体型にするレアアイテム『変化の魔石』です。そのアイテムさえあればモードチェンジが可能になりますよ』


「モ、モードチェンジ??」


『変化の魔石があれば、スーパーカーから軽自動車にモードを変えることが可能なのです』


「おお! そんなことができるのか!?」


『戦闘や移動ならばスーパーカー。車中泊や買い物ならば軽自動車がいいかもしれませんね』


「用途によって変形するのか! 最高じゃないか!! そのアイテムはどこにあるんだ?」


『大賢者ナゾットの記憶では荒海の洞窟、火山高の中と、様々な場所にあるようですね。しかし、どれも百年前の情報で、現在の場所までは把握していないようです』


「情報収集が必要ってわけか」


 そうなると、人が多い場所だよな。


「よし。やっぱり街に向かおう」


『了解しました』


 僕はアーサーを走らせた。


「そういえばさ。ここって鋪装されてない道なのに快適に走れるんだな」


『私の動力源は魔導石です。魔導石は魔力を発します。なので、走行中は薄い魔力を機体に纏って走っているんですね。その影響で小さな砂利の影響などは受けなくて済むのです』


「すげぇ。アーサーは優秀だな」


『…………あ、ありがとうございます』


「あれ? 照れたのか?」


『揶揄わないんでください。恥ずかしいです』


「ははは!」


 可愛いやつだな。


「ちょっと窓を開けてみるか」


『了解しました』


ウィーーーーン。


 ふふふ。

 スイッチ操作をしなくても口頭だけで開けてくれる。

 便利すぎるだろ。


「ふはーーーー。いい風だ。気持ちいいな」


 異世界って自然が多いから景色もいいしドライブには最高だよ。

 それになんていうか、走行の安定感っていうのかな?

 軽自動車とは比べ物にならないくらい車体がドッシリとしてるんだ。

 カーブだって、クンクン! って快適に曲がるしな。

 表現が難しいんだけど、とにかく軽快。無駄と雑味がまったくない。


「やっぱドライブはスーパーカーだな」


 しばらく進むと馬車とすれ違った。

 御者は目を丸くして僕の車に視線が釘付けだ。


「異世界だもんな。スーパーカーは珍しいだろう」


 日本でも目立つもんな。

 異世界なら尚更か。


 すると、向こうの方から四輪の物体が黒い煙を出してこちらに近づいてくるのが見えた。

 汽車?? それとも馬車か?? 馬はないようだが……。


「ありゃなんだ?」


『魔導車です』


「ま、魔導車?」


『この世界には車が存在するのです。もちろん、動力源は私と同じ。魔導石によって動いています』


「へぇーーーー!」


 対向車線を走るそれは、中に運転手がいて、その人は僕のことを目を丸くして見つめていた。

 

『魔導車でも、私のようなスーパーカーモデルではありません。そもそもこの世界に石油が存在しませんからね。そのデザインは、18世紀ごろのヨーロッパに存在した蒸気機関車や、馬車カゴ。オープンカーのようなモデルが主流となっております』


 ほえぇ……。

 そんな世界にスーパーカーか。


 ふふふ。

 悪くないな。


主人マスター。見てください。あれが王都グランデルモです』


 それは鉄で囲まれた要塞のような街。

 あちこちに煙突があって、プシューと水蒸気を噴き出している。


「ちょっと、想像していた異世界の街とは違うかな?」


 モンスターがいる世界だからな。

 もっと、ファンタジーRPGに出てくるような街を想像していたよ。


『入り口に検問所があるようですね』


 門番が2人か。

 槍を持った鎧の兵士だ。

 うん。この辺は中世ヨーロッパな感じだよな。


「ここって、異世界人の僕でも入れるのかな」


『身分証明が必要のようですね』


「え!?」


 僕は財布がないんだぞ!


「免許も持ってないよ!」


『お任せください。私がおります』


 よし。

 んじゃあ、アーサーを信じて行ってみるか。

 ちょっと怖いけど……。


 車を兵士たちの前につける。

 2人の兵士は顔を歪ませた。


「う! な、なんだこの魔導車は!?」

「す、すごい……。見たこともない形状だ……」


 ははは……。

 早速目立ってる。


「あ、あなたは、何者ですか?」


 えーーと。


「た、旅の者です」


「身分証を見せてください」


 ほら来たよ。

 どうするんだ??


 すると、アーサーはヘッドライトを光らせた。

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