第2話 それは一目惚れというには、あまりにも衝撃的で
――意味が、わからない。
いや、冷静になれ。状況だけを見れば理解はできる。
足元に描かれた魔法陣、頭上から降り注ぐ淡い光。
周囲には、甲冑に身を包んだ時代錯誤な騎士たちがずらりと並び、
玉座の上には――白銀の王冠を戴いた男が、悠然と座っている。
そう、これは――
「異世界転生……だな」
死んだ後にありうる可能性のひとつ。
ラノベで散々読んだ設定。十分に想定範囲内のはず、なのに。
「……な、なんだこの気持ち」
心臓が――高鳴っている。
目の前にいる、見知らぬ少女。
その姿を見た瞬間、頭の中が真っ白になった。
輝く金髪、白磁のような肌。
くびれたウエスト、柔らかそうな胸元と丸みを帯びた腰。
ふと視線を動かすたびに、指先や爪、唇までもが俺の意識を奪っていく。
――呼吸が、できない。
というか、息をしていたことすら忘れていた。
「だ、ダメだ……っ! 思考が、保てない……!」
パニックだ。
理性が吹き飛んでいく。これは――明らかに、普通じゃない。
彼女が顔を上げた。
その瞬間、視線が交錯した。
「っ――!!?」
目が合っただけで、胸が震えた。
透き通るような青い瞳。
ただ見つめられただけなのに、なぜだろう――幸福感で胸がいっぱいになっていく。
わかる。これが答えだ。
原因も、感情の正体も。
「……これが……一目惚れ……!」
苦しい。嬉しい。こんなの、初めてだ。
けれど――
「っ……ま、まって!? なんでその格好……」
彼女が身にまとっていたのは、男物のTシャツに、男物のトランクスという格好だった。
むしろ着てるだけマシ、というか……え、待って、本当に色々見えかけてる……!?
「お、俺の脳が沸騰する……!! 見るな! 見るな俺!!」
刺激が強すぎる。
「ふぅ……」
深呼吸だ。落ち着け、俺。
ここで鼻血でも出したら色々終わる。
「ゴ、ゴホン……!」
場の空気を払うように、王様が咳払いをして口を開いた。
「ようこそ、勇者たちよ」
テンプレート。だがありがたい。話が進む。
「ここはグリード王国。私はあなたたちを召喚した者、国王・カバルトである」
名前もテンプレ。設定もテンプレ。
異世界転生については、タカノリから借りたラノベで多少の予備知識はある。
……アイツも、死んだならこっちに来てるといいが。夢みたいな話だったのかもしれない。今の俺には確かめようもないけど。
「本題に入る前に、あなたたちは混乱していることでしょう。しばし心を落ち着けるための部屋を用意しております。ご案内しますので、しばらく休憩をお取りください」
騎士の一人が前に出て、俺たちに近づく。
そして――彼女には、一枚の毛布が差し出された。
「きゃぁぁぁぁあああ!?!?」
自分の格好に今さら気づいたらしい。
その叫び声は、美しくも可愛らしく、俺の耳を癒していく。
(ああ……これが、彼女の声か……)
心に刻もう。
たぶん、一生忘れない。
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