やっかいな恋

@rabbit090

第1話

 子どもが生まれてから、ずっと地獄だった。

 「俺は、もうやめる。」

 「やめるって、やめれるならやめてるよ、あたしも。」

 「やめられないから続けてるって、?そういうこと?」

 「そうよ!!」

 夫は何も分かっていない、あんたが、無理っつってる何倍も、あたしは無理なんだ。

 なのに、あんただけ逃げるなんて、許されるわけないじゃない。

 「じゃあ、あなたの実家にでも預ける?」

 「はあ?」

 「あたしの所は無理でしょ。」

 「それは、そうだけど。」

 「じゃあ、よろしく。」

 そう言って、あたしは子どもを押し付けた。あたしは、自分には子どもが育てられないのだと、その時初めて知った。

 「やっぱり、無理だった。結婚なんてしなきゃよかった。」

 「もう、でも一時的でしょ?なら、旦那の実家に預けるのは懸命だと思う。」

 「………。」

 友人は、あたしが一過性の感情で子どもを預けているのだと思っている。

 けど、違う。絶対に違う。

 だって、あたしには理由があるのよ。

 あの子は、あたしの子じゃない。母性は抱けると思っていた、けど、無理だ。旦那は、あたしのことを優しい人間だと思っている。両親もいなくて貧しくて、でもそれで人に優しくすることができる、天使か何かだと思っている。

 「そんなわけない。」

 「夫の実家がね、ちゃんとしてるの。だから大丈夫、夫は、あたしに甘えてる。あたしに子ども押し付けるだなんて、間違ってるから。」

 そう言って、席を立った。

 友人は、ちょっと、と言いながら、黙り込んでいた。

 

 「どう?お母さんに預けたよね。」

 「うん…一応。」

 「あたしの悪口、言ってたでしょ。」

 「………。」

 言ってたんだ、分かってるけど。

 「あたしさ、やっぱり自分の子じゃないし、無理だよ。ごめんね、育てられるかも、とか言って。で、考えたんだけど、別れよう。そもそも、あなたはあたしじゃなくて、子どもの世話をしなければいけない立場なんでしょ。」

 「そうだけど、別れるなんて。」

 「あなたは、間違ってるわ。」

 あたしは、それだけ言って、家を後にした。

 だって、そうしなきゃダメよ、あたしは、あの女の子どもなんか育てられない。

 あの女は、悪魔だ。

 同級生だった、いつも意地悪で、なんだこの極悪、と思いながらなるべく関わらないようにしていた、多分周りの人間全員、けど、あの女はあたしの夫を奪ってから、可愛くなった。

 大人しくなり、キレイになり、そして何より優しくなった。

 子どももでき、順調だった。

 なのに、死んだ。

 事故だった、とてもあっけなかった。

 そして、夫は、あたしを頼った。

 元々、夫はあたしの恋人だった。あの女に奪われたのだ。

 あたしは、子どもを連れて呆然とする夫に、いいよ、と言った。子ども、あたしも面倒見るよ、と。大変だったね、なんて言葉も。

 でも、ダメだろ。

 あたしは、あたしが夫が好きだという気持ちを利用されたのだ、他人の、しかも嫌いな女の子どもなんて、育てられるわけがない。

 馬鹿、バカ、ばかやろう。

 あたしは、やっと、まともになれた。

 

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