邂逅の橘

『これは私が山のお社の前当主と初めてお会いした時の話です――』




 あれは家族で私の家の縁の本家にあたる『常盤家』の邸宅に行った時の話です。

 分家やその縁の者たちは病や産褥等の集まるどころではない人以外集まるものだったので大勢の人が出席していました。


『とは言っても他の御三家に比べて人数はかなり少ないのですが』


 私はまだ小さな子供だったので生きていた兄と一緒に当時はまだ学生だった分家のお姉さん達が他の子達含めて面倒を見て下さいました。

 すると何かしらのそれなりに大きい柑橘の木の上の方に何故か着物の人が居るのが見えました。

 その時は兄に話しても木に居る人は視えず、不思議なことを言うなあと流されてしまいました。人が木を登っているのもおかしいし、誰もその事に気付いていない事もおかしかったのですが私は小さかったので気付きませんでした。


『あの頃は別に幽霊が視えるとかもなかったので尚更不思議でしたね』


 木に居た人は大きくない大人の男性で人間離れした妖しい魅力を放つ目が離せなくなる自分の親よりも若く見える美人でした。

 私はずっと下から見上げて凝視していました。


『此の世の者と思えない、そんな言葉の意味をその時思い知らされました』


 突然木の上に居た人が話しかけてきました。


「おい、お前さん。俺の事視えてるのか?」


 しかも声も人を引き寄せてその心を離さない魅力的な声でした。

 もっと大きい年頃の子供より上の人は骨抜きにされかねないようなどこか恐ろしくもある声でした。


「え!?」


 私は驚き思わず辺りを見回しますが近くに人は居るのに誰も此方を向かず私はどこか取り残されたような他の人と隔離されたような気がしました。

 木から見下ろして私を見ていました。


「視えてるし聞こえてるんだな、凄いな」

「あなたは木の精さん……?」


 私はてっきり木霊とか人じゃないものだと思っていました。


「いや、まだ生きた人間だ」


 尋ねられた本人は否定してそのまま木から飛び降りました。

 その時、驚くことに木が揺れる音も人と名乗った人の着地音がほぼしませんでした。


「俺は親の方のギンだ」


 膝を曲げて着地したあと伸びして立ち上がりそう言い、大人達の集まる方を向きました。


「お前さんは将来有望な愛し児だな、また会おう」


 此方を向いてそう言った後大人の集まる方へ去っていきました。

 

「ばいばーい」


 私はそう言って手を振ると軽く振り返してくれました。


「しのぶちゃんどこ行ってたの?」


 するとそう言って周りの子供達が私を見てきました。

 私は元の場所に引き戻されたようでした。

 暫くすると大人の集まる方が蜂を突いたような騒ぎになっていました。

 そして決して白昼夢ではなく私は現実で起こっていたことだと気付きました。





『――本当に人間とは思えませんでしたね、はい』

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