朱き手の宵闇の月
『こちらはまだそこまで古くないお話なのですが――』
彼の者は手を汚した先祖が求める形で産まれ今を生きる者に疎まれた。
彼の者の目は光を見ることを苦手とし闇を見て生き抜く事に特化しすぎていたのだ。
愛し児として産まれた彼の者を人々は人間離れした美貌に惑わされかのように褒めそやし祀り上げるモノ、凡庸とかかけ離れた彼の者と恐れるあまり排斥或いは手に掛けようとするモノに別れた。
人をここまで突き動かし狂った様に邁進するその姿は満月を見て狂ったかの様であった。
彼の者は御三家の地位を旧さだけにしてしまった立場が弱すぎる両親から当主の座を半ば簒奪し、祀ろうモノ達を使役し支配を強め力を取り戻した。
彼の者の名前の様に毒だろうがなんだろうが躊躇いもなく命を狙ってきた者に手段を選ばず手を下して行った、大きな家さえも取り壊して分けて移築して地位を揺るがしかねないほどに。
闇を見る彼の者は外へ赴きチを違えるものすら魅了し、あるいら敵対し集まりを形成し広い範囲に故郷に帰った後も消えない爪痕を残して行った。
彼の者の子はそれに苦しみそして助けられながらその道を暫く歩んで行った。
彼の者はある時に闇を見て天命を知り、他の御三家から妹背となる愛し児を見つけ出し連れ帰る。
永く虐げられた愛し児は怯えつつも彼の者に心を鷲掴みにされやがて彼の者と家を支え子宝に恵まれ死ぬまでなかなか無い良き夫婦となった。
ヒトから完全に転げ落ちヤマに囚われ出しても彼の者は伴侶のためなら躊躇いもなく手を汚したのだった。
仙術を用いて死を二度隠した事でヒトから堕ちたと言うべきか上がったと言うべきか、ヤマのモノとなりつつあったのだ。
子供達は悟っていたが母である彼の者の伴侶には必死に隠蔽した。
子供達も彼の者の因子を継ぎ、従順ではなかったが互いに情や気遣いがなかった訳では無い事が判明したのだった。
家族の形が歪なのは否めなかったが破綻もしていなければ機能不全になっていないだけまともなものだろう。
手を汚した結果ヤマのモノとなりかけヤマから出るのが手段を経ないと困難になり子供の協力で一時的に外出などに留まった。
伴侶が生きている間は家族ぐるみで直隠しにしていたが、死んで名前の如く蒸発するかの様にヤマに消えて行ったのだった。
『突然現れた先祖返りに家は大きく形を変えることになったそうですよ……』
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