宵闇の月に魅入られて

『つまらない昔話ですが――』




 私は生まれた時から脚に障りがある愛し児の端くれだったようです。

 裕福な家に生まれましたが障りを厭い親には遠ざけられ、両親に甘やかされた姉のサンドバッグにされ、更に脚が悪くなり座敷牢とまでは行かずとも離れに軟禁され屋外に出る事を許されませんでした。

 姉が居ない間は妹だけが遊びに来ていました。

 障りのない妹も才があるために姉に当たられることが度々あったようです。


 状況が変わったのは家の大元の流れを汲み、人の心を掴んで止まないと言う山の社の当主が訪れた時でした。

 足元が弱い親から立場を簒奪した若き社の当主は愛し児を纏め尖りすぎて常人が扱い悩むソレをも駒として活用するカリスマでした。

 血が活性化して濃くなった美貌の彼を愛し児達や血の濃い民にとって彼は宵闇の月の様に恐れ焦がれて止まなず彼等の偶像でありました。



 訪れた際に私の事を話に持ち出され、嘗ては祀り上げられた愛し児を押し込め隠すのはいかがなモノかと言われたそうです。

 更に手酷い虐待にまで及びソレを他にも知られたらこの地での信用どころか遠い地でもガタ落ちだろうと囁かれたそうです。

 そして甘やかされた地域の歴史を知らぬ姉は愛し児でもある当主に度重なる失言をし言質を取られ私は人身御供同然で山のお社に嫁がされました。

 そして妹は姉を煽って嗤っていました。



 山のお社に嫁いでからは、簒奪された当主の親が私を歓迎して下さって当主と共に様々な事を教えて下さいました。

 そして私のリハビリを支えてくださって最初移動が車椅子だった私も杖をつきながら移動が出来るようになりました。

 さらに脚が悪くて遠い場所に行けないなら車を運転すれば良いと免許取得の手助けや運転手が足の悪い人の為の車を用意して下さいました。

 他の愛し児の方たちにも歓迎して下さってそこでも様々な事を教えて下さり私は実家の外に出てからあまりにも膨大な事を知り取り込みました。

 ソレを見た愛し児の方は当主の見込んだ通りだと納得されてました。



 山の社での書類作業を行いそのうち当主の名代を務める様になった頃に、長子を妊娠しました。

 当主と共に実家に報告しに行った所、居ない筈の姉が憤怒の形相で私に手を上げようとしてきたのです。

 杖を突いて歩く私には俊敏に動ける理由もなく殴られそうになり慌ててやってきた妹が庇ってくれて旦那である当主が姉の手を捻り上げて下さいました。

 妹が姉を引きずってその場から締め出して終わりましたが、私は恐怖で社の当主にすがりついて震えるしかありませんでした。

 社の当主は私の両親に激怒し、実家は高い実質の示談金を払い私と実家との距離は遠くなりました。

 


 その後姉は結婚させられ離れに押し込められたそうですが、婿である夫との仲は悪く子供は暫く出来ませんでした。

 私は姉とは姉夫婦に子供が出来て山の社にて七五三詣りを行うまで顔を合わせませんでした。

 


 当主は私に五人の子供を与えて下さって、私の我儘を聞いて下さいました。

 四人目の子供もちゃんと生かそうとして下さいましたし、私の為なら手を汚す覚悟で私と臨んで下さったのです。

 旦那様が人の道を外れているのも疾うに存じております。



 当主は元々容赦のない人で制御する為にも私は望まれたそうです。

 そういう意味でも私は人身御供だったのでしょう。

 それでもお社の方達は私を支えて下さり、私にたくさんの掛け替えのないモノを下さいました。

 私はお社での環境を与えて下さった皆様にしもしきれない程の感謝をしております。





『――ただの惚気話になってしまいましたわね、失礼致しました』

 

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