おもひそめしか
霊峰に住む獄卒はヤマに入った社の子供達に話し掛けた。
『昔の話をしよう――』
自分は嘗て遠い地で修羅となってたであろう地面を這いずり回る人間だった。
チを呪ったら偶像の少女に救われこの土地に招かれ人間として過ごしていた者だ。
ある時、狂信していた禁忌の存在に触れてしまった、あるいは触れられてしまった。
そのときから心はどこか壊れてしまったのかもしれないと側に在り続けた自身は未熟な者だったと後悔する。
邪仙の囁きとそれに応じた偶像に救われてこれからは自分が偶像である少女を支えるために手を取り触れる。
偶像の少女は鬼の生命力を持つ自分とはかけ離れて今にも崩れ儚くなりそうな存在で、自分以外のヒトにとっても掛け替えのない存在である事には変わりないのである。
痛みを共感出来ないモノ、餓えを忘れられないモノ、寝目を見られないモノ、自分を含めた変わり者達は偶像の彼女が居なくなってしまえば狂いヒトの形を保てなくなるであろう。
偶像の少女に救われて集まり崇める者は多く、そして悍ましい程の魅力は狂ってしまったかのように惹き寄せられる者と恐れ排斥しようとする者に別れ、自分は狂信をしている側で見守り時に世話もしていたのだった。
薄命なのが明らかであった少女は自身が儚くなったとき彼等が壊れるのは闇を視なくても明らかなので断片の器を用意したのだ。
かろうじて成長して少女でなくなった偶像は器を作り上げ、儚くなった。
自分はすぐに狂い鬼となり果てヤマに向かうかと思われたが嘗ては共に少女に仕えていた外道に器であり自分の血をも引くソレを押し付けられた。そのため自分は狂わせてもくれずその時は正気に戻り器を安置してから街に戻ったのだった。
『ヒトとしてのやるべき事を片付けヤマに入ってからは器と共に在るモノを見守っている。そして呼ばれたら馳せ参じる所存だ』
社の子供達はいつの間にか社に戻されていて勝手に山の中に入った事がバレて社の者でもある彼等の親から酷く叱られたという。
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