縁の草は里を染める

 あの子はまず生きて産まれることすら儘ならなかった。

 闇の儘、根の元に山の元に帰ってしまい、殻も山の元に差し出され母親の息吹を絶やさぬことを願われたのだ。

 応じたヤマのモノは殻に入りあの子をヤマの糧にはせず自身を闇に追いやった物を探すのに使役した。

 闇の中で親の顔を見られず死に殻を失ったあの子は自分の殻を被るヤマのモノに存在を保護されて使役され桃の木に眠り、姫になることを願った。



 

 母親が息を吹き返し山の気の立ち上りの如く力強くなり、ようやくあの子は日の目を見る事が出来るようになった。

 ヤマのモノとの契は終わり、代わりの特別な器が誂えられて桃の木と道祖神に見守られて生きていく日々を送るようになったのだ。

 ヤマのモノとの契約は切れても幼いあの子は道を知らない為共に在り、学び健やかに子供のまま育っていった。

 殻を無理矢理纏ったヤマのモノでは身動きが取れないことも器の誂えに携わった事も知っていて弟姫としてヤマのモノを純粋無垢に慕った。

 童子としての徳の高さと山の気を背に水を用いてあの子は激流で穢れも何もかもを全て押し流す。

 夏の気の乱れで荒らされたかのようにあの子は全てを生も死も善も悪も全て薙ぎ払う。

 




 あの子は人の子になっても神と山の縁は切れず、そして山の気の如く荒ぶる力はヤマのモノでなければ止められない。

 慕ったヤマのモノは山に消え失せても導きは川を祀る街の社を指し続けて人の子は歩いていく。




 山の社から街の社まで歩いた人の子は道を塗り替えて人々を驚かせ振り向かせていく。

 天真爛漫で運に恵まれ活発な人の子は童子としての残酷さを持っていた。

 そして福を招き厄を祓い交わった人は彼女が去るのを見送る事しか出来なかった。





 川を祀るお社に願われて慕われても心は童子のままである。

 百代百代に続く川の流れを繋いでもお社のあの子と遊び続け、やがて人の子を辞めてあの子と遊び続けるのだろう。

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