海より出て、山に隠る半月

『私が話すのは何百年以上も掠れた昔話なんだが――』




 昔、ある子供が海辺の村で生まれ男の子として育てられた。

 だが両親が死に孤児となり、男の子は人買いに売られて村を出た。

 村は暫くして海に飲まれてしまったという。


 買われた男の子は非の打ち所のない麗しき愛し子であり半月であった。

 人買いの人心も握る程の畏さもあったと言う。

 恐れた人買いは海から遠い地に半月を売り、そこで人買いを辞め新しい事業を始め半月を売った先の施政者と取引を始め大成をしたという。

 

 施政者の小間使いにと売られた半月はそこで施政者の子供の遊び相手として扱われて行く事になる。

 厳しい修練と教養を求められ詰め込まれていたが、卒無くこなし正式に次期施政者の補佐となった。

 半月を付けられた若君は半月を満ち欠けに関わりなく接し、修練にも仕事にも連れていたと言う。

 そして半月は周りの繋がりの為に様々な周辺の顔を合わせに行き、施政者一族の出でもあるそこに山奥のお社の一族とそこが営む『常盤の庭』に気に入られた。

 お社の大祭には何年かに一度供物を山の神に召し上げて豊穣と安寧を願う儀式も行っており、次回にそれを行う予定の者がお社の一族の娘の巫に居た。

 その娘は半月と会い、行う大祭までの間半月を慕っていた。

 

 ところが半月は病に倒れ、光を失ってしまった。

 そしてそこから半年で半月による大祭の儀式が行われ山の神に半月は召し上げられた。

 それから山の神は二回り以上儀式を求めなかったと言う。

 

 役目を失った娘はお社から儀式を行った半月の代わりとして施政者の元に差し出された。

 そして半月を手放した若君の元に嫁いだという。

 子供を何人か儲けたが、後に長女はお社に嫁いでお社の若君を産み『常盤の庭』の纏め役となった。

 若君には後に中央の権力者の娘が嫁いで来た際に奥方は引き継ぎをしてお社への連絡役となったという。

 娘の仔細が書かれた書物が施政者の家から出てきたそうだ。





『僕もあの子達には悪い事をしたと思っているよ――』


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