カミの子だった頃の追憶(『神と人の境にて』alternative)

『この話は昔私が経験した事についての話なんですけど――』





 私が数え七つの頃に初めてお山のお社に行きました。

 

 お山のお社はその地域で一番大きいお社であり宮司を務める家には私の母方の叔母が嫁いでおり、五人の従兄妹がいました。

 その中で従姉妹の長女は私の祖母に溺愛されて私の住んでる家の離れに滞在してる事が多く私も前から面識はありました。

 そして当日巫女装束になった従姉妹のお姉さんから兄妹の紹介をされたとき、最年長は大校生のお兄さんで一番下は三歳の本当に可愛くて小さい女の子、私よりも少し上の兄妹の真ん中の従兄妹はお兄さんで体が弱くて寝込んでいてその場には居ませんでした、そしてその下の妹は私と同い年の子でした。

 なのでその従姉妹と共に七五三を執り行う事になっていたのですが、私の母が叔母夫婦を嫌っており、叔母家族と共同であることも祖父母の決定にも関わらず反発しイライラが治まらず私にも勉強や習い事等で強く当たってきました。

 私の母は私に従兄妹と口を利くなと言い、言い付けを破ったらご飯を抜くと言ってきました。

 なので支度をしてるときも同い年の従姉妹と同じ場所で待っているときも、話し掛けられても無視してました。

 今だったら身振り手振りなり口を利けないこと仄めかせば良かったと思ってますが、嘗ての私は何故そんな命令をされたのか母に自分が出来の悪いことをずっと吹き込まれて疑問に思うことも出来なくなっていたのです。

 そして着付けをしてなれない姿で転びそうになったとき従姉妹に引き留められて助けてもらったのですが、ありがとうと言おうとして声を出して母親の言い付けを破った事に気付いてしまったんです。

 思わず声を上げて泣いて前を見ずに走ってしまって気付いたら知らない山の森の中で迷子になっていました。


 そして暫くしたら不安でたまらなくなってきたんです。

 当時の私より少し上くらいの見たことない女の子がやって来て、姿は基本巫女装束だったんですけど袖部分が不思議な色合いをしてたのを覚えています。

 巫女装束のお姉さんに話しかけられて大丈夫?て聞かれた時思わず泣いて抱きついてしまいました。

 その時はお社の人かとは思ったけど従兄妹では無いから喋っても良いとかはもう既に忘れてました。


 巫女装束のお姉さんはミケと名乗って、日が暮れる前に神社の所まで降りようと私を社殿まで案内してくれると言ってました。

 そしてミケさんと山を下ろうとしたのですが、道なき道で七五三の着物姿に下駄はいつの間にか無くしており汚れた足袋姿で何度も転びそうになったりしながら降りていきました。


 暫くすると足の裏が痛くてたまらなくなってきて、それでも風景は変わらず何故か神社に辿り着けませんでした。

 今思えば私が迷い込んだ時そんなに神社から遠く離れた場所まで移動していないにも関わらずです。

 そしてミケさんがそれに可笑しいと呟き、足痛いだろうから暫くそこで休んでてと言って山を凄い速さで登っていきました。


 私はその時置いてかれて焦ったけど少ししたらミケさんはあまりにも袖や袴の裾がボロボロの姿で戻ってきました。

 あまりにも酷い格好で何があったのか聞いたけど答えてもらえず、何も言わずに紙の何か書かれた御札を私に渡して来ました。

 これを失くさないように大事に持ってとミケさんは言いまた神社への移動を始めました。


 風景が先程とは明らかに変わり始めました。

 そして日が暮れ始めました。

 すると、ミケさんが焦り出しました。マズい早くしないと、とようやく見えた社殿の屋根を見下ろして言いました。

 早くしないと?とミケさんに訊いたら山から出られなくなると私に告げました。

 ミケさんだけが頼りで無意識にミケさんの手を握りしめてました。

 私の脚は限界でした、体力ももう尽きて疲労困憊で社殿から離れた岩の側まで来たときにはもう日は殆ど見えなくなっていました。

 安心で脚が落ちた私はそこから動けなくなり無表情になってました、言葉も出て来なかったです。

 そして、夜の帳が落ち始めました。

 すると突然危ない、と言ってミケさんは私を岩の向こう側に突き飛ばしました。

 私は突き飛ばされ神社の敷地に倒れ込みボロボロの姿になってました、涙目になりながら山の方を振り返ると先程までとは違う山の姿に変貌してました。

 そして岩の向こう、山の暗闇にミケさんは何かに引きずられて更に傷だらけになってました。

 思わず悲鳴を上げて手を伸ばしミケさんの方に行こうとすると、ミケさんにこっち来ちゃ駄目、神社の明るい所に逃げてと言われました。

 その直後ミケさんの姿は暗闇に消えてしまいました。


 私は泣きながら足を引きずり本殿の前まで辿り着きそこで泣いていました。


 そしていつの間にか気を失ってしまい、気付いたら知らない部屋の布団で寝かされていました。

 暫くすると知らない綺麗なお姉さんが私の様子を見にきました。

 神社の居住スペースの何処かの部屋だったようです。

 優しい言葉で次の日の朝であることと何があったのかを頭を撫でられながら問われて私はその手を両手で握りしめてしまいました。

 先程紹介された従兄妹にはこんなお姉さんは居なかったので社でお手伝いをする人なんだろうと、何処かミケさんに似た気配をさせたお姉さんに泣きながら全てを話しました。

 すると、わかったわ、今まで辛い思いをしてきたのね、と言って頭を撫でて私が目を覚ましたことを報告しにお姉さんは部屋を出て行きました。


 その後私の七五三はスペアの着物で母抜きでしめやかに行われ、私には従兄妹の許婚が出来ました。

 母は昨日の時点で山狩の際に私に対して今迄行ってきた所業と吹き込んだ指図が親戚中にバレて暫く私とは隔離されていました。

 父は私に対して土下座をして謝ってきました。

 祖父母も謝ってきました。

 その後も叔母の旦那様でもある宮司の方が私の父と話し込んでいて冷たい顔で私の家族を見ていました。

 従兄妹達には後で謝ってたくさんのお話をしました。


 

 新しく出来た許婚はすぐ上の布団に伏せていると聞いていた従兄妹で、私が帰ってきて目を覚ました時に面倒を看てくれた優しいお姉さんでした。

 私がミケさんと同じ気配を漂わせた美しく優しいお姉さんだと思っていた方はお兄さんだったのです。

 そして私に人間として新しい日常が始まったのでした。






「成長してお医者さんの卵になった許婚はあいも変わらず私よりも美しくてあのミケさんみたいで女らしいんですよね」

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