奇談

オオハミサマ

「この話は住んでる村の昔話なんだけど――」




 昔々、とある山の集落で凶作で飢饉が起こった。その上領主に辛うじて収穫できたものもあるだけ巻き上げられて種籾の確保どころか食糧も禄に確保できなかった。

 立地的にもその集落は孤立していたので助けを乞うのも難しく、その年はどこの村や集落も少なからず不作であったが、どうにか助けを乞う道中で村人は倒れたそうだ。

 結果集落の維持が出来ず崩壊し集落は滅んだ。

 領主の代官が次の春、その集落へ視察に行くと村人を一人も見つけることが出来なかったそうだ。

 集落の人間が逃げ出したかと思った時、代官の護衛が化け物に襲われ殺されて喰われてしまった。

 慌てて代官は集落から逃げ出した。



 そこから領主の悪夢が始まった。

 領主は化け物の討伐に人を多く差し向けたが廃墟の中に隠れて少数になった所を狙って殺していく。

 どうにか退治できたかと思えばまた暫くして復活してしまい差し向けた人間が殆ど帰ってこなくなったそうだ。

 そして退治する度に狡猾になっていく。

 領主にとって少なくない人間が喰い殺され、頭を悩ませた領主は近隣の大きな神社に化け物の存在を完全に消し去る事を頼んだが、神社は土地と怨嗟によってそれは出来ないと解答した。

 困った領主はその人食い鬼に乗っ取られた集落跡地のことを伏せてその付近の土地をその神社に寄進したそうだ。



 とんでもない土地を押し付けられた神社は流石に動き出し、当時一番の優秀な巫女をその地に遣った。

 まず、巫女自身は集落には入らずに立地や外から見た集落の形を調べ、集落の四隅にお清めとしゅを施してから入った。

 巫女にわかった事は集落は言わば壺のようなモノだということだった。



 嘗て領主に食糧を奪われてしまった集落の住人は領主への怨嗟と逃れられない飢餓の中で倒れそしてまだ生きていた者はその肉を喰らい始める。

 そして怨嗟と飢餓に狂った者は殺し合い、生き残った者が死肉を喰らった。

 やがてこの世の餓鬼の地獄と化した集落で最後に生き残った者は壺の中の毒蟲、つまり蠱毒こどくの如く呪によって化け物と成り果てていたのだった。



 神社が退治できないと拒否をしたのは、土地に染み付いた呪いによって化け物が生まれ生きている関係で化け物を退治してもまた土地の呪いによって復活してしまうからであった。

 故に殺すだけ無駄だが向こうは何度でも怨嗟と飢餓の儘に喰らいに襲ってくると困った話であった。


 

 巫女は退治するつもりはなく、巫女は化け物改め『大喰様おおはみさま』を土地神として祀り上げ、霊峰ヤマ怪異モノの一員に仕立て上げた。

 そして土地の呪いをそのまま土地神の神威とし、霊峰ヤマの恩恵である程度の豊穣が約束された土地に生まれ変わらせた。新たな集落を巫女と後の村長になる男を中心にして興し、新たな集落は『大喰郷オオハミゴウ』と名付けられた。

 餓鬼の地獄だった場所が豊穣の地となったとき嘗ての領主の一族が惜しんで兵を差し向けないように怨嗟の呪いは続いているということを告げ釘さした。

 それでも裏で手を回そうとしたり兵を差し向けようとして大喰様の呪いを受けていたようである。



巫女や大元の神社の働きかけで新しい集落を興した流れてきた住人達は『大喰様』の氏子となり『大喰様』を氏神として祀る。

 そして「子供を飢えさせること」を禁忌としていて生きていくことになる。

 禁忌を破った時、その時は飢えた子供に『大喰様』が宿り飢餓で暴れ回るだろうと言われている。



 巫女は新しい村長となった男にくなぎ村長の家はこの地の祭祀を兼任する「大喰家」となった。

 新しい村長はこの村の飢餓は自身が背負うと言ったそうだ。

 そして新しい村長には鋭い八重歯があったという。



 




「まさか、あんなことになるとは思ってもいませんでした」

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