毛を失った国の話

「これは昔、G先生から聞いたお話なんだけど――」




 昔々、あるところに『毛野国けぬのくに』という名前の国がありました。



 あるとき大蛇と大百足が水源を巡って争い、やがて二つの国に分かれました。

 怪獣大戦の戦場だった場所は今では有数の湿地帯として名が知られているのだそうです。

 二つの国はそれぞれ国に上と下を加えて『上毛野かみつけぬ』と『下毛野しもつけぬ』と呼ばれるようになりました。



 そして時代が下り、中央、当時の都から律令が発布され、国の再編と国名は二文字で表すように義務付けられました。

 『泉国いずみのくに』や『淡国あわのくに』など一文字だった国は縁起の良さそうな字などを加えたり、当てる漢字を全て変えて『和泉国』と『阿波国』の通り二文字に改められました。

 他の国においては読み方は変わったり変わらなかったりそれぞれでした。

 一方、三文字になった『上毛野』と『下毛野』は『毛』を抜いてそれぞれ『上野国こうずけのくに』と『下野国しもつけのくに』となりました。


 『上野』と『下野』のそれぞれの国は漢字の『毛』を失いましたが、読み方は変わらずそのままとなっており、読み方に漢字の中にはない『毛』の名残が残っています。また、『上野国』においては『上毛じょうもう』という呼び名も存在しており、『毛』が残っています。

 また、『毛野国』だったエリアを分離した今では二つを纏めて『両毛地方』と呼ぶそうです。

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