与太話

蛇殺しの茸

「これはNさんから聞いた話なんだけど」

 そう言って話は始まった。


 Nさんのお母さんが茸狩りに行ってとても美味しい茸を採ってきたとかでその夜その茸を使った料理、茸の天ぷらや茸鍋などが出てきたんだって。茸とお酒は相性が良いからってNさんのお父さんは調子に乗ってお酒をハイペースで飲んでたらしいの。


 そしたら暫くして顔が真っ白になって震えだして救急車で病院に搬送されていったんだって。搬送先の病院で治療を受けて幸いお父さんは意識を取り戻したんだけど、頭痛と吐き気で苦悶に満ちた顔になってたらしいよ。普段飲みすぎたときと同じ悪酔い状態のお父さんを見てお母さんはほっと一息ついたとか。

 その後、付き添いのお母さんと未だに頭痛と吐き気に苦しむお父さんはお医者様からやはり急性アルコール中毒であることを知らされて、酒の飲み過ぎや胃の荒れの指摘されたんだって。    

 それに対してお父さんはまだそんなに今日は飲んでないとぐったりしながらも言い返したんだって。

 そしたらお医者様は夕飯に何を食べたか訊いてきて、茸の天ぷらや茸鍋などを食べたと言うと『ホテイシメジ』を食べてないかと訊いてきて画像でホテイシメジを見せてきたんだって。

 それを見たお母さんが「あっ」と声を上げたんだって。その後、Nさんに昨日のキノコの残りを持ってきてもらって、お父さんの急性アルコール中毒の原因が特定されたんだって。


 お医者様曰く、『ホテイシメジ』という茸はとても美味しい茸でどんな料理にでも合うんだけど唯一の致命的な欠点があって酒との飲み合わせが致命的に悪く、アルコール分解を阻害する毒を持っていて、茸のその毒が抜けるまで一週間ほどはお酒を飲むと悪酔いしてしまい、重症化すると今回のように急性アルコール中毒になり命の危険にさらされるという茸なんだって。

 お父さんはこんなに酒が飲みたくなる料理なのに飲めないなんてと残念そうに呻いている傍らで、お母さんは自分が採ってきた茸でこんなことになるなんてと申し訳ない気持ちと悪酔いして尚お酒が飲めないことを嘆くお父さんに対する様々な気持ちが綯い交ぜになってこのとき言葉が出なかったんだって。 


 結果、お父さんはお医者様に一週間お酒を禁止されたのと、少しでも飲めば悪酔いするからどちらにせよ隠れて飲んでも後悔するよ、と告げられて項垂れてたらしいよ。

 その後、お父さんはお母さんの運転する車で帰宅して安静にしてたらしいけど、コソコソ少しお酒を飲んでトイレで嘔吐して、お母さんにバレて怒られたんだって。茸の件もあるけど、胃も荒れてるからそもそもしばらくお酒を控えるべきだと叱ったらしいよ。


 『ホテイシメジ』自体はアルコールさえ摂取しなければとても美味しい茸で、アルコール分解を阻害する作用により、お酒に強い人ほどこのキノコの毒の効果を受けるという性質があるため『蟒蛇殺し』とでも言わんばかりのキノコであり、お酒を飲まないお母さんとNさんは普通に美味しく味わって食べられたんだとか。


 「私はNさんの話を聞いて、ふと何故か三竦みの話を思い出したんだよね」

 Nさんのエピソードを語ったあとなんでだろうね、とその言葉を告げた。

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