第11話

 私たちは12時半まで働き続けて、とうとう2番目のブロックの分別も終わらせた。

 やったー! みんな頑張ったね!

 さすがにお腹がすいたので、時刻を見るのに携帯を出したら、『休憩時間~45分間の昼休み』と表示されていた。

 へぇ、一応労働基準が守られてる。


 ゴミがなくなって広々とした場所に私は腰を下ろした。

 広々と言っても、畳2畳くらいのスペースだし、「いる」ものを入れた木箱も3つ並んでいるけれど、それでも物がない場所は気持ちがいい。

 軍手を外してお弁当のおにぎりを出したら、ゴブリンたちがまた集まってきた。

 クッキーのように、これももらえると思ったらしい。

 でも、おにぎりは2つしか作ってこなかった。

 これを上げてしまったら、私の昼ご飯がなくなっちゃう。


 すると、リーダーが叱るように何かを言って、ドン、と床に大きなつぼを置いた。

 何もかもガラクタのような部屋の中で、それだけは壊れていない、まともな物だった。

 中から取りだしたのは、木の実、草の実、干したキノコ、魚の干物……

 壺はゴブリンたちの食料入れだった。


 ゴブリンたちはリーダーから食料を受け取って食べ始めた。

 何でも手づかみにして、むしゃむしゃかぶりつく。

 チビちゃんは好き嫌いがあるのか、「イラナイ」を連発していたけれど、リーダーにまた叱られて、しぶしぶ木の実を食べ始めた。


 ふ~ん、これがゴブリンの食事かぁ。

 調理はしないんだね。

 自然そのままの食材という感じ。


 そんなことを思いながら2個目のおにぎりを食べていると、すすす、と1匹のゴブリンが近寄ってきた。

 彼(男かどうかわからないけど)は自分の食事をしている間も、私のお弁当に興味津々しんしんだった。

 とうとう近くで確かめたくなったらしい。


 さっきクッキーを食べたからこれも大丈夫かな? と私は鮭おにぎりを半分彼にあげた。

 ところが、彼の手に渡ったとたん、おにぎりの様子が変わってしまった。

 白いご飯が赤みを帯びた雑穀になって、海苔のりが消え、全体もぼそぼそ固い感じになる。

 具は入っているけれど、鮭は黒っぽい塊になっていた。

 ありゃりゃ。

 この世界の材料に変わっちゃったのね。

 食べられるかしら……?


 珍しがり屋のゴブリンも、突然変わったおにぎりに目を丸くしていたけれど、好奇心のほうが勝ったようで、ぱくりと一口食べた。

「キキーー!」

 クッキーのときと同じ声を上げたから、ちゃんとおいしかったらしい。

 夢中でおにぎりを平らげていく。


 すると、他のゴブリンがまた集まってきた。

 期待の目で私を見つめる。

「あ~、ごめんね。

 みんなにあげられる分はないのよ。

 明日作ってきてあげるからね」

 通じないことばで必死に話していると、リーダーがまた察してみんなを呼び戻してくれた。

 なんとなくうきうき楽しそうに引き上げていったところを見ると、明日の約束もわかってくれたのかな。

 明日はおにぎりをいっぱい握ってこなくちゃ……。



 45分間の休憩時間をきっちり守ってから、私たちはまた片付けに取りかかった。

 途中3時過ぎに午後のお茶にして、残りのクッキーをみんなで分け合って、もうひと頑張り。

 終業時刻の午後5時には3番目のブロックが綺麗になっていた。

 家の中の三分の一が片付いたことになる。


 さすがにこれくらいのスペースができると、片付いてきたな、という実感が湧く。

 広くなった場所で跳んだり跳ねたりするゴブリンたちに手を振って──ゴブリンたちは意味がわからないまま手を振り返してくれた──私は家に戻っていった。


(つづく)

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