第9話

 ゴブリンたちはクッキーを食べてしまうと、もの欲しそうに私を見た。

 おいしかったから、もっと食べたいんだ。

 それが狙いだったから、私はにっこりして言った。

「今日も片付けをがんばろう!

 そしたらお茶の時間にまたクッキーをあげるよ!」


 物やゴミが散乱する床を示して見せたら、ゴブリンはたちまち理解したようだった。

 自分から物を拾い上げると、木箱に入れたり外へ投げ捨てたりし始めた。

 う~ん、食べ物の威力はさすがだわ。

 1番目のブロックがどんどん綺麗になっていく。


 ゴブリンたちは片付けながらぶつぶつ何かを言っていた。

 耳を澄ますと、こんな声。

「イル、イラナイ……イル」

「イル、イラナイ……イラナイ」

 すごい、ことばを覚えたんだ!

 私は感動してしまった。

 ゴブリンたちは、「いる」とか「いらない」とか言いながら分別を進めてる。

 口に出して言うことで、なおさら区別がつけやすくなっているみたい。

 うん、みんな偉い!

 あとでクッキーたくさんあげるからね。


 そのとき、トンガリ君が土の床から短い木の棒を拾いあげた。

「イラナイ」と家の外へ捨てようとすると、別のゴブリンがトンガリ君の腕にしがみついた。

 猛烈な勢いで引っ張って叫び出す。

「イル──! イル! イル!」


 あ~、これってうちの子たちで覚えがある光景。

 石とかセミの抜け殻とか、ガラクタみたいな物を拾って帰ってくるから、処分しようとすると、とたんに取り返そうとするのよね。

「捨てちゃダメ! これはぼくの宝物なんだから! いるんだから!」


 トンガリ君に「イル!」と言い張っているのは、小さなゴブリンだった。

 たぶんまだ子どもなんだね。

 一方トンガリ君はきっと大人。

 大人の目にはつまらなく見えても、子どもにとっては大事な物ってあるんだよね。


 でも、トンガリ君にはチビちゃんのそんな気持ちはわからない。

 抗議を無視して捨てようとするから、チビちゃんは泣いていっそう大声になった。

 その騒ぎにリーダーのゴブリンが腹を立ててどなりだしたから、家の中はなおさら騒々しくなる。

 はいはい、ちょっと待ってね。

 いくら子どもだからって、無理矢理捨てちゃうのはNGなのよ。


 私は麻袋のクッキーを別の袋に移して、空になった袋を持っていった。

 まだ喧嘩をしているトンガリ君とチビちゃんの間に入って、トンガリ君から木の棒をもらって袋に入れる。

「いる」

 と言って袋をチビちゃんに渡したら、チビちゃんは飛び上がって喜んだ

 たちまち泣きやんで笑顔になる。


 その後、チビちゃんは袋の中に自分の宝物を入れ始めた。

「イル……イル……イル」

 と拾い集めていく。

 別のブロックにも行っちゃったけど、これは大目に見た。

 だってまだ小さいんだものね。


 ところが、その様子をもう二人のゴブリンがうらやましそうに見ていた。

 チビちゃんよりは大きいけれど、トンガリ君やリーダーより小さいゴブリン。

 彼らもまだ子どもみたい。

 お兄ちゃんやお姉ちゃん……かな。

 ゴブリンの性別はわからないんだけど。


 そこで、私はクッキーやおにぎりをひとつの袋に無理矢理まとめて、袋をもう2つ空にした。

「はい、キミたちも自分の宝物を入れていいよ」

 と袋を渡すと、お兄ちゃんたちも大喜びで部屋に散っていった。

 他の人にはわからない自分の宝物を袋に集め始める。


 やっと家の中が落ち着いたので、私は残りのゴブリンに改めて言った。

「さあ、どんどん片付けましょ。

 片付ければ、捜し物はきっと見つかるし、おいしいクッキーも待ってるよ」

 ことばは通じなかったけれど、私の気持ちは伝わったらしい。

 ゴブリンたちはまた分別を始めた。

 散らかったと言っても、たった一晩の量だったので、1番目のブロックはあっという間にまた綺麗になった──。


(つづく)

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