Reserved Train
『間もなく、霊峰神社参道前』
ボロボロにした
列車は
灯りを点灯しておらずおどろおどろしい雰囲気を振り撒いている。
因みに、灯りを点灯させること自体は可能であり、普段街の駅に出没する時はしっかり灯りを点灯させての走行をしている。そうしないと怪異として夜しか活動しない関係で視えてしまった人に幽霊列車だと見破られてしまいやすいからである。
「何と言うか、まるでバス停みたいな名前だな」
車両も1両になってるから列車感無いし、と座席に座る半月が軽口を叩いていると車掌の
別に1両で運用されてる列車は存在する。因みにこの山の最寄りの終着駅は単線で2両編成の列車が運行している模様。
「……ここは鉄道駅でもなければ、本来ならばこのヤマ、霊峰の領域になりますから当列車は近づけません」
「『入山許可証』を渡したからここまで問題なく来られただろう?」
「……その通りで御座います」
半月が立ち上がり、既に疲れた顔の比良坂に近寄る。
「さて、ここからは僕が
実はこの姿で列車に乗るのは初めてなんだと笑顔で話しだす半月に比良坂は色々と戸惑い怯えつつもお願いしますと言った。
比良坂はずっと遠くから見られてる感覚がありもう気疲れしていた。
「道案内お願い致します」
「普通ならこの列車は見えないしそもそも深夜だから
草木も眠る丑三つ刻、怪異だから普通は見えないしこちらから干渉しないと普通は只人には見えない筈と考え半月は指示を出す。
「畏まりました、一応次元をずらせばよほどの事が無い限り感知される心配は無い筈ですよ」
音もしないからこの時間は問題ないと思いますが、と比良坂は言い、出発進行と独りでに列車は動き出した。
列車前方の運転室はガラス越しに見えるが人影は無く勝手に古めかしい計器やレバーなどが動いている。
列車に詳しい人が見たら挙動と機器の動きが一致してないことに気付くだろう。そもそも今の運転状態はバスの挙動なので電車の運転機器と一致するわけが無いのだが。
「本殿を突っ切って『
「承知しました」
列車は次元をずらしている上にこの世に置いての実態がない状態の為、文字通り幽霊のごとく透けて本殿を通り抜けて行った。
「このまま山の道を辿ります」
比良坂自身は車内で半月に怯え半ば警戒している状態だが、列車の前方の把握も同時にしている。何故なら比良坂は列車の一部分に過ぎないからだ。機械で例えるならば、同期させたパソコンとそれに対応する入力端末と言うべきか。
本殿を通り抜けた後、更なる登山道のような道を登り、途中から谷川に沿って進んでいく。
「お客様、こちらが『形代流しの瀬』でしょうか?」
比良坂は列車を停車させた、そこは道が途切れた谷川の崖の上である。谷底の川は瀬というだけあって流れが早く白い飛沫が立っている。
「そうだ、ここであっている」
感慨深そうな、どこか懐かしそうな顔をして半月は窓から顔を出し谷底を覗き込んだ。
だが、比良坂には、半月は川を見ているようで見ていないように見えた。
「では、ここから川を下って『
「……はい?」
「この列車は飛べるだろう、だから川に沿って飛べば良い」
「ここ『形代流しの瀬』からじゃないと目的地の『贄が淵』まで行けないんだ」
直接は『贄ヶ淵』には行けないと半月は説明する。
「お前さんたちがわざわざ鉄道駅に干渉して亡者を集め、わざわざ線路を走って『闇駅』などの途中駅を通過してから目的地の『竪洲駅』まで行くのと同じ理由だよ」
「そうで御座いますか」
「此れがヤマの理なんだ」
「……では」
出発進行と川の上を飛びながら川を下り始めた。
「目的地『贄ヶ淵』に関してだが、言ってしまえば霊魂と死体の集積地と言うべきか、終着地と言うべきか、山の死体なら『形代流しの瀬』から送られた供儀以外もどんな形であれ『贄ヶ淵』に送られる。物質的にも霊的な意味でもそこで山の肥やしになって消えていくんだが、最近何故かいっぱいになってしまって、困ってるんだ」
半月が説明をしていると景色が急にガラッと変わる、完全なヤマの『異界』に入ったのだと比良坂は悟った。
「これは……」
「ヤマの『異界』に入った、どちらかというとヤマに取り込まれたに近いが、此処からは『入山許可証』を持たない
一応僕も大雑把に言えばヤマの者の一人ではあるから一緒に居れば許可証が無くても喰われはしないが、と半月は注意した。
「畏まりました、このまま下れば目的地に着きますでしょうか?」
「そうだ、このまま進めば『贄ヶ淵』だ」
さらにしばらく川を下ると水が洞窟に流れ込む場所に着き、そのまま洞窟を進むと川の流れも空気も澱み出す。
人の白骨化した死体や腐乱した死体などたくさんの骸が積み上がり出来た山がある洞窟の最奥に着いた。
流れ込んだ水は何処からか漏れるように流れ出しているようだ。
「こちらが、『贄ヶ淵』ですか」
「そうだ、ご苦労」
列車は淵の上に浮遊状態で停車する。
比良坂はドアを開けてタラップを降ろす。
半月は列車から岸に降り立った。すると骨の上だったのでベキッと脆くなった骨の折れる音がした。
「文字通り足の踏み場もないですね」
比良坂も列車から降りて朽ち果てた骸骨の上に乗っかりながら言った。車掌をしている比良坂は列車に付随する怪異の分体の為、列車から遠く離れることはできなかったりする。
「此処等辺の骸骨は放って置けばもうすぐヤマが取り込むから踏ん付けても問題ない」
正直価値も無いしな、と言いつつ少し離れた向こう岸側の奥を指で差す。
「あの辺りの死体や霊は新しくて状態も良い筈だ。あの辺りのをある程度お前さんに渡せば手打ちだろう?」
「……承知ました、列車を少し動かしますので目的地までの動線に入らないでください」
比良坂は列車に戻り、指差された付近の岸辺に移動させてから、再び降りてくる。
「お待たせしました」
「……なんていうか、比良坂の列車の挙動、ほぼバスなんだが」
位置調整してる姿はバスであった。
「今は後ろの客車を外して1両ですが、普段は文字通り列車として客車を何両か繋いでますよ、単純な輸送力は列車が優れていますから。流石に1両でないと車輪をここまで動かせませんが」
列車に化けているだけなので車輪部分は列車とは違う挙動も出来るし見た目とは違うようだ。
「……この姿ならバスで良いのでは?」
「……列車としての輸送業務の最中なので、扱いは列車のままになってますね。『この世』に干渉している時はなるべく轍の上を走る方が色々負担が少ないのは事実です。」
「そうなのか」
「では、死体や霊魂の回収が終われば領収書を私が書いて、お客様に渡せば今回の件は終了となります」
「わかった、回収の後、地蔵前まで僕を送ってくれ」
「承知しました」
そう言って、状態と資質を目視で確認しつつ、どの死体と霊魂を運ぶかを2体で確認し始めた。
「これは、恐らく拷問死してますね、鍛えられた体をしていたようですがあちこちに穴が開けられてたりと損傷が激しい、霊魂は悪感情でそこそこと」
「どうやら山の中に捨てられてた死体のようだ」
余所から持ち込まれたから来歴はわからないと半月は言った。
「こちらは呪殺されてますね、骨と皮みたいな体をしていて、衰弱して死んだんでしょうか、霊魂は悲嘆しか遺ってないですね」
「お家騒動に巻き込まれた被害者だな、いずれ起こることはわかっていたのに何の対策を取らなかったが故に死んだようだ」
淡々と半月は言った。
「こちらは毒殺されてますね、随分と太ってらっしゃるようで、毒を飼われなくても早死しそうではありますが、霊魂は憤怒というか怨念で染まった霊力に満ち溢れてます」
「こっちはこのヤマに遣える一族当主による粛清で始末された分家の人間の一人だったはず」
散々な目に遭ったと苦虫を噛み潰したような顔をしながら半月は言った。
他の死体なども検分しつつ比良坂は査定を進めていった。
「そこの死体まで持っていって宜しいんですか?怨念の死体だけで対価としての価値はありそうですが」
「今回、竪洲で騒ぎを起こしたからその補填もある、お前さんはここに来て回復したようだが」
持っていけ、と半月は言った。
「えー……では今回は
比良坂は半月にまだ何も書かれてない領収書とペンと下敷きを渡してから、列車の中に入り外まで聞こえる程の大きな音をさせた後死体袋を複数持ち出し慣れた手つきで死体収容作業を始めた。
「これで宜しいかな」
比良坂が列車に死体収容を完了したのを見計らい半月は上の名前を書いた領収書とペン下敷きの一式を比良坂に渡す。
領収書には半月と書かれてるのみであった。
「……はい、お預かりします」
そう言って比良坂は受け取った。
「とりあえず車内に戻りましょう」
「そうだな」
複数の死体が収容された車内に2体は戻った。
「では、これにて比良坂はお客様から運賃分の対価を確認し徴収完了しました」
「こちらも領収書を受け取りました」
比良坂が書いた領収書を半月に渡し終了した。
「では、最寄りの地蔵前までお願いします」
前方の座席に座り半月は比良坂に告げた。
「承知しました。では目的地まで暫しお待ち下さい」
比良坂が出発進行と言うと独りでに列車は動き出した。いつの間にかその列車には半月による大きな傷や所々の凹みが無くなり、味のある元のレトロな列車の姿に戻っていた。
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