Terminal Station
『終点
列車は停車しいつの間にか先頭に車掌が現れる。
終点まで残った
彼らはこれから罪の重さや徳の高さ等を
最後に並んだ半月は車掌に止められる。
「おや、お客様がお持ちの切符はお客様自身のモノでは御座いませんね」
「えぇ、
半月は悪びれもせずしれっと言った。
「後、対価を出さずに勝手に降りた者を居たようで――」
車掌は無賃乗車を幇助した半月を鋭い眼光で
それを無視してにこりと微笑みながら半月は懐から御札を出した。
半月の出した御札は自身の拠点である霊峰への『入山許可証』であった。許可証自体もこの上なく
「此方で如何でしょうか? 二人分僕が支払いますので」
車掌は呆気に取られながらも気を取り直して半月に抗議をしようとした。
「こ、これは……ですが――」
「それとも、うっかり生きたままの真っ当な人間をあの世に運んでいたのが上司にバレた上で片方の車輪だけ全部、
半月は笑顔のまま車掌の言葉を遮り、自身の長い髪を高い位置で束ねていた紐を右手で解き、腰に届く髪を遊ばせる。
その刹那、車掌にはとてつもない重圧が襲いかかった。
「古来から髪には力が宿ると言います、そしてこの紐は力を抑えるためのモノでした」
――僕が何が言いたいかご理解頂けますか?――
相変わらずの笑顔でそう言いながら半月は自身からの重圧で身動きの取れなくなった車掌の右手へ抵抗させずに髪を束ねていた紐を結んだ。
すると解く事も出来ず車掌の顔が真っ白になっていく。
「こ、このような事を、許されると……お思いか……!?」
脂汗滲ませて車掌は叫ぶように言った。その後、倒れて蹲ってしまった。なぜか停車している列車も軋む。
「おや、僕は穏便に済ませたいと思っているんですよ?」
心外ですねぇ、と言いつつ半月は頬をポリポリと掻いた。そして車掌の覗き込みながらしゃがむと『入山許可証』で蹲る車掌を半月は極上の笑顔でペチペチと叩く。列車には何故か独りでに傷が付き始めた、味のあるヴィンテージを超えてオンボロに変わっていく。
元々『入山許可証』は元々正式に譲渡された形でないと触れるだけで痛みが走る、御札としてもこの手の怪異には相性的に苦手とするモノだろう。もし、人間で例えるなら焼鏝を押し付けているようなモノなのかもしれない。
車内には半刻程、半月と車掌の2人しか居らず車掌は呻き声を上げながら一方的に御札でペチペチ叩かれていた。
「お客様! どうか、その辺にして頂けませんか?」
暫く時間が経った後、客が降りた後もその場から動かない上に物凄い早さでボロボロになっていく列車に疑問を持ったあの世の職員が列車の中を見に来たのだった。列車にとっての上司であり、頭に角が生えた見たとおりの鬼である。
鬼が見たのは右腕に封魔の紐を結ばれ、霊験灼かな札でペチペチ叩かれ悶絶している車掌の姿であった。
鬼は列車内に立ち入った途端に重圧を感じギョッとする。
「おや、結構な時間が経ってしまったかな」
半月は極上の笑顔をやめて紐を解き無造作に自分の髪を首の後ろで束ねて、御札を懐にしまいなおし数歩離れた。すると車掌を動きを鈍らせていた重圧が嘘だったかのように消え失せる。鬼はボロボロの車掌を立ち上がらせた。
「お前何やって先方を怒らせたんだよ」
鬼が思わず凄い剣幕で車掌に言い寄る。重圧そのものは車内に入った鬼も少なからず受けていて体にかなりの負荷がかかっていたのだ。 鬼も隠しはしていたが震え冷や汗が止まらない状態になっていた。
「僕の要件はまだ生きていた霊峰縁の生娘を列車で連れ去ろうとしていたので、僕は助けるために乗り込込んだ次第です」
凛とした声で半月は告げた。
「はぁっ!? 霊峰の生娘を連れ去ろうとしただと」
「私はただ、業務を――」
「比良坂、てめぇ、なんて恐ろしいことしやがんだ!!」
鬼は血相を変えて、馬鹿野郎と叫び、弁解しようとする満身創痍の車掌を容赦なくぶっ叩く。
「ぶべっ!?」
車掌は鬼の不意打ちを喰らい近くの座席に吹っ飛んだ。
「申し訳御座いません、お客様の御要件はこちらも理解致しました」
ぶっ飛ばした車掌には目もくれず、鬼が半月に対して頭を下げる。
「街娘ならまだしも山の古い血筋の娘なのでね、見逃すことは出来ないのですよ」
――君達のような下っ端が攫っていい娘ではないんですよ――
底冷えするような眼差しで半月は二体を眺めながら話す。
「こちらも穏便に済ませたいのでこの許可証で二人分をば、霊峰の代理として僕が支払います」
「か、畏まりました」
「では霊峰の麓の村の塞の神までお願いします」
可否なんて問わせないと言わんばかりに『入山許可証』を突き出して座席に静かに座った。
なんの形であれ正式に譲渡されたモノなら拒絶されて痛みを伴う事は無いので鬼は言われるがまま受取り、座席からノロノロと立ち上がった車掌に叩きつける用に渡した。
先程まで拷問じみた行為に使われた御札を車掌はビクッとなりながら鬼から受け取る。
席に座った半月は二人を見上げて説明をする。
「この『入山許可証』は霊峰に不法投棄された死体と魂を持っていっていいという許可証でもあります。」
最近は多くて片さないと、思っていたんですよね、と半月はぼやく。
「比良坂、お客さんを目的地まで送ってこい、少なくとも運賃二人分を徴収してくるまで今回の業務は終わらないからな」
始末をつけるまで帰って来るな、と鬼は車掌に言い付け列車から降りていった。此れ鬼に違わずの所業である。
「そんなぁ……はい……」
憔悴したボロボロの車掌が出発準備を始める。列車も何故か一部だけではなく至る所が傷だらけになっていた。
「では、よろしくお願いします」
動くのに支障が無ければ問題はない、キリキリと働けと言わんばかりに車掌のことを気にした風もなく、半月はにこやかに言い放った。
渡守列車の輸送業務はまだ終わらない。
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