第2話 伝説の訪問者 - 金沢・兼六園
新幹線の窓から見える景色が次第に田園風景に変わっていった。ハルとソラは金沢へと向かう列車の中で、旅の第一歩に胸を膨らませていた。
「金沢、初めてだよね?」ソラがハルに尋ねると、ハルはうなずきながら答えた。「うん、祖母の日記によると、兼六園は特に彼女のお気に入りの場所だったみたいだよ。」
列車が金沢駅に滑り込むと、二人は荷物を持って降りた。古い町並みと現代的な建築が融合する街の雰囲気に、すぐに魅了された。
兼六園へと向かう道中、ハルは日記を開きながら話し始めた。
「祖母がここを訪れた時、何か不思議な出会いがあったらしいんだ。」
「不思議な出会い?」ソラが興味津々で尋ねる。
「うん、ここで時間を操る能力を持つと言われる老婆に出会ったって。それがどういう意味なのかは、日記には詳しく書かれていないけどね。」
兼六園に到着すると、広大な庭園が二人を迎えた。美しい池と手入れされた松の木、石灯籠と茶屋が散りばめられており、時間がゆっくり流れる静けさが感じられた。
「すごい、本当に美しいね…」ソラが感嘆の息を漏らす。
そんな中、池のほとりに一人の老婆が座っているのを見つけた。彼女は静かに水面を見つめており、周囲とは異なる、時が止まったような空気を纏っていた。
ハルは勇気を出して老婆に声をかけた。
「こんにちは、失礼します。あなたは兼六園に詳しい方ですか?」
老婆はゆっくりと彼らを見上げ、微笑んだ。「ええ、私はこの兼六園の精霊のようなものよ。あなたたちは何かを探しているの?」
ハルは少し驚いたが、すぐに答えた。「はい、実は私たち、祖母の遺した旅を継いでいるんです。そして、あなたにお会いできると聞いていました。」
老婆は優しく頷き、話し始めた。「あなたの祖母とは昔、良い時間を過ごしたわ。私たちは時間について語り合ったのよ。時間は、人々が思う以上に柔軟なもの。あなたもその秘密を少し教えようかしら。」
ソラは興奮して質問した。「時間を操ることができるって、どういうことですか?」
老婆は池の水を指で触れながら説明した。「見ての通り、水の流れを速めたり、遅くしたりできるの。時間も同じ。ここで、あなたたちに時間を感じる新しい方法を見せてあげるわ。」
彼女の手が水面に触れると、池の水がゆっくりと逆流し始め、周囲の景色が一瞬で春から冬へと変わった。驚愕するハルとソラを前に、老婆は深い知識を共有し始めた。
「時間は流れるものだと思っているでしょうが、それをコントロールすることで、過去と未来、そして今を繋ぐ扉が開かれるのです。あなたたちの旅も、時間の流れを越えた何かを発見する旅になるかもしれませんね。」
ハルとソラはその場で時間の流れを感じながら、祖母がこの場所で何を感じたのか、少し理解できたような気がした。そして、これからの旅がただの物理的な移動だけでなく、時間という概念に挑む冒険になることを強く意識したのだった。
ハルとソラは老婆の言葉に深く感銘を受けながらも、その意味を完全に理解するのは難しいと感じていた。周囲の景色が季節を超えて変化する様子は、まるで夢の中にいるようだった。
「どうして、こんなことが可能なんですか?」ハルが老婆に尋ねた。
老婆は微笑みながら答えた。「この兼六園はただの庭園ではないのよ。多くの力が交差する場所。ここは、時間と空間が織りなす狭間に位置している。だからこそ、特別な力を持つ者が時を操ることができるのです。」
「それは、他の人にも見えることなの? それとも、私たちだけ?」ソラが続けて質問した。
「これは特別な体験よ。あなたたちには見えるが、他の人には見えない。あなたたちがここに来たのは偶然ではなく、必然。あなたの祖母が残したルーツを辿って、ここにたどり着いたのだから」と老婆が説明した。
ハルはその言葉を聞き、何か大きな使命を背負っているような感覚に襲われた。「私たちにできることは何でしょうか? この力をどう使えばいいのですか?」
老婆は深く考え込むようにしばらく沈黙し、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。
「あなたたちには、この旅を通じて多くを学ぶべきだと思うわ。時間の力を理解し、それを使って過去の痛みや未来の不安を癒やし、今を生きる力を育むのです。」
「時間の力を使って癒やす?」ハルが繰り返した。
「そう。時間は回復する力も持っているのよ。過去のトラウマや心に残る痛みを解放し、新たな未来を築くための一歩となる。あなたたちの旅が、それを実現する手助けをするはずよ」と老婆が言った。
この言葉に心を打たれたハルとソラは、自分たちの旅がただの冒険ではなく、もっと深い意味を持つことを改めて認識した。彼らはお互いを見つめ合い、この特別な力を理解し、より良い使い方をすることを誓った。
「これから先、何が待ち受けているかわからないけど、一緒に乗り越えていこう」とソラがハルの手を握り、力強く言った。
ハルも同じ思いで応え、「うん、一緒なら怖くない。祖母が見守っているから、きっと大丈夫だ」と力強く頷いた。
老婆は二人の絆を見て、微笑みを深めた。「さあ、兼六園の時間を楽しんでいきなさい。そして、旅の次のステップに備えて。」
ハルとソラは老婆に感謝を述べ、兼六園のさらなる探索を続けながら、次なる目的地、京都への旅を心待ちにしていた。
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