豚
モニターを見ていたアルフレード達は、理解出来ない灯莉の行動に首を傾げていた。
「お、おい、ゴブ蔵……俺の出番は?」
即席のエロトラップである『ローション坂』は、足元に気を取られる侵入者を、アルフレードの不可視の手で転ばせ、服を剥ぎ取る事で完成するトラップのはずだった。
全裸ヌルヌルとなればアカBAN必至……。
だが、灯莉はアルフレードが手を下す間もなく勝手に転び、ぎりぎりアカBANを回避する程度の痴態を晒して逃げ去っていった。
「マスター? ゴブ蔵君が固まってます!」
ゴブ蔵の様子を確かめる為、顔の近くで手をひらひらと振っていたリリムが、呆れた様子で報告した。
「眼鏡がずり落ちてるぞ。戻したら動くんじゃないか?」
「やってみます……だめっ、動きません!」
作戦失敗でショックを受け、固まるゴブ蔵。
アルフレード達にとっと、それは良いおもちゃだった。
「髪型を変えてみよう。オールバックとかどうだ?」
「モヒカンが良いですっ! バリカンはありますか?」
「当然だ。ワックスもあるぞ」
にやにやする二人に世紀末なモヒカンにされたゴブ蔵は、それでも動かない。
「あとはお花を口に咥えさせたいです……」
「くくっ、当然あるぞ」
アルフレードは薔薇の花をリリムに手渡した。
リリムがそれをゴブ蔵に咥えさせると、二人は満足気に頷く。
「インテリヤンキーナルシスゴブリン」
「ぷぷっ、属性詰め込みすぎぃ」
その日は、ゴブ蔵をおもちゃにするだけで終わった。
☆
――翌日。
アルフレードとリリムはあり得ない光景を目の前にして、モニターの前で固まっていた。
「な、何でこんなに人が……」
ダンジョンには人集りが出来ていた。
その数は最盛期と比べても遜色なく、本来であれば喜ぶべき事だ。
だが、アルフレードやリリムには集まった理由がわからず、喜びよりも恐れが勝っていた。
「マスター……あいつら、ニヤニヤしててきもいですぅ……なんか、男ばっかりだし」
リリムの指摘通り、ニヤニヤしている侵入者達は、男ばかりだった。
年齢層は広いが、女は一人もいない。
「いったい、奴らは――」
「あれは『豚』と呼ばれる者達ゴブ」
動揺する二人の後ろからゴブ蔵が話しかける。
その顔は昨日と打って変わって、自信に満ち溢れていた。
「昨日の配信者は無害だとわかっていたゴブからねぇ……人集めに利用したゴブ」
リリムは冷めた目でゴブ蔵を見ていた。
昨日の醜態を見た後では、ゴブ蔵が失態を取り繕っているようにしか見えなかったからだ。
だが、アルフレードは違う。
アルフレードは――単純だった。
「な、なんだって!?」
アルフレードの反応を見て、ぽかんと口を開けるリリム。
ゴブ蔵は咥えていた薔薇の花を手に持ってモニターを指す。そして、眼鏡をくいっと上げて説明を始めた。
「あかりんチャンネルは確かにBAN出来なかったゴブ。でもそれは計算通り……BANは回避したとはいえ、エロい配信であることは変わりないゴブ」
ゴブ蔵は不適な笑みを浮かべる。
アルフレードはその様子を見て息を呑んだ。
「男を釣るのに最も有効な餌が『エロ』。あの豚達は、あかりんチャンネルが用意された餌だと知らずにエロ釣りされた哀れな者達ゴブ」
ゴブ蔵は両手をいっぱいに広げる。
「あの哀れな豚達からマナを集めるまでが、ゴブの作戦ゴブ!! どうでしょう、マスター? ゴブの作戦は!!」
――たまたまだろう。
そう反論しようとリリムが口を出そうとした。
だが、アルフレードの姿を見て動揺し、言葉が出なかった。
アルフレードは静かに泣いていたのだ。
「お前のような部下を持って俺は幸せ者だ」
「ゴブゴブゴブ……この程度で驚かれたら困るゴブ。ゴブの力を持ってすれば、マスターをアース全一のダンジョンマスターに……いや、アースの覇者にする事も可能ゴブ!!」
「まじかっ!?」
目をキラキラさせるアルフレードはゴブ蔵に夢中だ。
その目には、隣りに座り身体を寄せているリリムは映っていない。
じっくりと時間をかけてアルフレードを堕としていくつもりだったリリムだが、あまりの空気っぷりに焦りを覚える。
まずはアルフレードの覚えをよくしよう。
そう考えたリリムは仕事にも力を入れる事にした。
「ゴブ蔵君! それで、次の作戦は?」
「も、もちろんあるゴブ! でも、今はその時じゃ無いゴブねぇ……」
ゴブ蔵の言葉にアルフレードはうんうんと頷いていたがリリムは違う。
騙される事なく、次の作戦がまだ無いことを見抜いたリリムはひらりと立ち上がった。
「じゃあ、それまではリリのターンだね」
リリムにも作戦は無い。
だが、エロにおいてサキュバスがゴブリンに負けるなんてあり得ないという自信が、リリムを突き動かした。
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