あかりんチャンネル
帰還したゴブ蔵は、もぬけの殻になったダンジョンを見て「都合が良いゴブ」と呟いた後、椅子に座るアルフレードの前に跪いた。
「お喜びください、マスター。調査の結果、最高に冴えた作戦を思いついたゴブ!」
ゴブ蔵の仕事の速さに驚いたアルフレードだが、内心を隠して真顔で足を組んだ。
「聞こうか」
無駄に堂々とするアルフレードに、ゴブ蔵は自信に満ちた顔をして、作戦の説明を始めた。
「まずゴブが調べたのは、奴らの配信の目的ゴブ。奴らはヨーチューブという所に配信して、再生数などに応じて金銭を得ているゴブ」
「ほう……?」
いまいち理解できなかったアルフレードは、無駄に堂々とした態度を強めた。
「中には金銭よりも知名度をっていう配信者もいるゴブねぇ……中々影響力のある媒体みたいゴブ」
「くくく……確かに」
アルフレードは無駄に偉ぶって相槌した。
ゴブ蔵が何を言いたいのかはよくわからないが、それらしい雰囲気を出しておこうと考えたのだ。
「目標に多少の差異はあれど、ヨーチューブという媒体に投稿する為に奴らは動画を取っているゴブ――それが弱点だとも知らずに」
アルフレードの態度が崩れる。
何が弱点だったのか、今の話からは予想もつかなかったからだ。
「じゃ、弱点とはなんだ?」
「ガイドライン……マスターは知っているゴブか?」
アルフレードは素直に首を横に振った。
「これを見て欲しいゴブ」
ゴブ蔵は何処からか入手してきたスマホを取り出す。
その画面にはこう書かれていた。
【性的満足を与えることを意図した露骨なコンテンツは、ヨーチューブでは許可されていません。ポルノを投稿すると、コンテンツが削除されたり、チャンネルが停止されたりすることがあります】
「これがなんだって言うんだ? 勿体ぶらずに教えてくれ!」
「ゴブゴブゴブ……」
ゴブ蔵がゴブゴブと笑う。
その姿を見て、アルフレードは息を呑んだ。
「つまり要約すると、エロは奴らにとって毒ゴブ」
「……ほう?」
動揺していたアルフレードだが、なんとか無駄に堂々とした態度を取り戻す。
「エロい罠を仕込んで、配信者共に痴態を晒させるゴブ! そして、それが配信されれば――」
「奴らが大切にしているアカウントとやらを潰せるのか!?」
頷くゴブ蔵を見て、アルフレードは勝ち誇った表情をして両手を広げた。
「素晴らしい……」
「ゴブゴブゴブ……で、あれば――」
「すぐさま我がダンジョンをエロトラップダンジョンにするぞ! 今まで好き勝手暴れてくれた配信者共に、鉄槌を下してやる……!!」
その日を境に、アルフレードはエロトラップダンジョンに君臨するダンジョンマスターとなった。
☆
「あかりんチャンネル、今日は生配信でーす」
彼女の名前は灯莉。
小柄でありながら、出るところは出ているたぬき顔のあかりは男にちやほやされる事に慣れていた。
容姿に自信があった灯は、その容姿を利用して、一儲けする為に配信者になった。
ダンジョン配信者の道を選んだのは、今最も旬という理由だけで、ダンジョンを踏破しようなんて気持ちは更々ない。
「このダンジョンは、魔物が出ないそうです。なので撮れ高は微妙かもですけどぉ……安全だから来ました!」
まだまだ試行錯誤の日々である灯莉は、安全面を考慮して、このダンジョンを選んだ。
取れ高は少ないだろうが、配信経験を積みたい灯莉にとってはうってつけのダンジョンだった。
だが、灯莉の前に広がっていたのは、事前に頭に入れた知識とは違った光景だった。
緩やかな傾斜のツルツルの地面。
これを登っていかないと、先には進めないのだが、地面はツルツルなだけでなく、粘り気のある水が上から流されていた。
「ええと、これは……ローション?」
ローションを手で掬った時、灯莉が感じたのは高揚感だ。
――これは……バズる。
何も知らない女配信者がダンジョンの罠でローション塗れになり痴態を晒す……。
これで釣れないエロガキはいない。
灯莉の頭はすでに、どう痴態を晒すのが効果的か、組み立てを始めていた。
「これは、事前情報にはなかった。正直に言えば、先に進むのは怖いです」
灯莉はキリッとした顔で、ダンカメに向かって言った。
「でも、私はダンジョン配信者! 未知を探求する者です! ここで引く訳にはいかない――あかりん、行きます!」
あかりはわざわざ上着を脱ぎ、薄着になってから傾斜に突撃した。
ぬるぬるとはいえ、その傾斜は緩やかだ。
慎重にいけば登り切る事は難しくない。それで油断した者をアルフレードの不可視の手で転倒させ、痴態を晒させるのが、この即席エロトラップの運用方法だった。
だが、灯莉は予想外の行動に出る。
「きゃっ!」
中腹辺りでわざとらしく転倒した灯莉。
前のめりで転げたせいで、身体の前側はローション塗れになった。
「あっ、だめっ♡ 止まらないぃぃ」
灯莉はもぞもぞと振り向き、わざと仰向けになる。
その姿はローション塗れで、スケスケテカテカ……その上、甘い声で叫んでいるのだ。エロガキを釣るには十分な威力だ。
「んんんっ♡ あ、やめっ――擦れて♡」
灯莉はトドメとばかりにずるずると落ちていく。
その行動は計算付くで、スタート地点に落ちる頃には、スカートは捲り上がり、ローションで濡れた白いパンツをダンカメに晒していた。
――ふふっ……このダンジョンで私は有名になる!
内心とは裏腹に、灯莉は顔を真っ赤にして、ダンカメに向かって手を上げて撮影を遮った。
「きょ、今日はこれで終わりですぅ! うわああん……!」
そう叫んだ灯莉は、逃げるようにダンジョンを去った。
全ては灯莉の計算通り……。
あかりんチャンネルはギリギリのところでBANを回避し、生配信動画をバズらせ、チャンネル登録者数激増という成果を上げた。
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