黒魔女を志すまで 4

宣言通りに、客人は夜に来た

月が窓から見えにくい位置まで登った、遅い時間帯に


「この黒い本に触れたらあの場所にいたんだよね」

「うん。なんだろう、これ…」

「うーん…」

「あ、客人の番だよ」

「あ、そうだね」


私たちは黒い本を話題に出しながら、客人が教えてくれたゲームをしていた

名前は『メイズ・ロンダ』

ルールは単純で、まず、表と裏で絵が違うカードを用意する。裏面と呼ばれる方は全部一緒の絵だけど、表面と呼ばれる方は絵は、同じ柄が4枚あって、4枚のうち同じ柄を2枚、裏面にされたカードたちの中から見つけるゲームだ

見つけた絵はペアって言って、自分のカードになるらしい。最終的にペアが多い方の勝ちって言うルールだ

このゲームは思っていたより楽しい。ペアを揃えるともう一回カードを引けるから、相手より先にペアを揃えなきゃ!と言う気持ちになる


「私14ペア!客人は?」

「僕は9ペア。凄いね、アストリア嬢は」


にははと、少し悔しそうに客人は笑う


「やっぱりお邪魔カード引いちゃったのが痛手かな?」

「だろうねー。2ターン引けないのは辛かった…」


お邪魔カードは、普通のカードとは違って、同じ絵が2枚しかなく、ターン中に揃えられなかった場合、ペナルティが発生するカードらしい

1ターンお休みと言うものから、3ターン相手が引くカードを見れないと言うとんでもカードまで多く取り揃えられていた


「普通のカード枚数少ないし、お邪魔カード抜いちゃう?」

「お、余裕だね」


お邪魔カードは客人ばかり引いている上での提案に、彼は笑いながらいった

まぁ余裕か余裕じゃないかで言えば、余裕である。

顔がニヤけているのが分かるくらいには余裕だ


「まぁ実はこれ、カード何枚か抜いてるんだよね。初めてだから、多いかなって。全部入れちゃおうか」

「いれよいれよー!」


何枚かと言っていたけれど、彼の鞄から出てきたカード枚数は、20枚を軽く超えていた

……抜きすぎだ


「あ、お邪魔カード以外にもあるね」

「このカードのペアを引ければ、次にペアを引けなくても、もう一回引けるんだよ」

「へぇ‥」


と言っても2枚しか無いから狙って引くのは難しい‥‥

‥裏面に印でも付ければ行けるかな?


「あ、また本見てる」


私が目を逸らすと、客人は直ぐに本を見る。なんでかは知らない


「あぁごめんごめん。じゃあやろ‥‥」


彼がカードに手をかけた時、部屋全体…いや、屋敷が大きく揺れた

シンシアもベットから落ちてきて、私は慌てて受け止めた


「びっくりしたぁ‥なんだろ」

「結界の貼り直しじゃない?今日やるって言ってたよ」

「え?そんなのあるの?」

「半年に一回張り替えるらしいけど‥知らなかったの?」

「うん‥」


私と彼の間に、重い沈黙が流れる


「‥‥あ、その人形、可愛いね」


分かりやすく話を逸らされた

まぁ、屋敷全体が揺れるくらい強い衝撃に今まで気付かなかったら、ちょっと…いや、だいぶ変だよね‥ここは乗っかろう


「シンシアって言うの。亡くなった母の形見らしいの」

「前公爵夫人のか‥‥どうりで」

「どうりで?」


どうりでとは、どういう事だろうか。そんなに古い人形なのだろうか


「前公爵夫人は魔法が得意な人らしくてね。この人形にも魔法がかかってるからさ」

「どんな魔法なの?」

「それは分かんないけど‥守りの魔法かな?」


彼は困ったように笑いながら、シンシアを撫でた


「まぁ、悪いものではないよ。この子は何処かに置いとく?」

「じゃあ机の上に‥」


こちらを見れるように置くと、一瞬、ビリビリという感覚が、体に走った


「っ‥?」


これは、あれだ。冬に扉を触ったらなるやつに近い


「どうかした?」

「びりびりってなった‥」

「ビリビリ‥あぁ、静電気?」

「静電気って言うんだ‥」

「人形にも静電気あるんだね」


彼が触れると、私の時とは違い、大きく仰け反り、触れた手を撫でていた


「ど、どうかしたの?」

「あ、いや‥‥なんだこれは」


訝しそうにシンシアを見ながらも、客人は床に座り、カードを並べていった


「じゃあ、初めよっか」


結局、今日は7勝4敗で私の勝ちだった

最後までシンシアに触れた時の反応は、聞けないままだったけれど

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