黒魔女を志すまで 3

他に、幽霊船の『踊れよ髑髏』や、『空飛ぶ花輪』など、面白いと思ったものを語り合っていった

互いに口調も砕けていた


「意外と本読むんだね」

「それ以外やる事ないですし…」

「え?デビュタントの特訓は?」

「デュタント…って、15歳の、社交入りのやつですよね?私にはまだ早いよ」


貴族の義務でもある社交は、男子は爵位を貰ってから、女子は14~16歳のデビュタントに参加してから始まる…らしい

男子と違いお披露目会、婚約者探しを兼ねるデビュタントは重要なものらしいから、幼いうちからレッスンする家もあるらしいけど…


「私はまだ子供だからやらないでしょ」

「公爵家ならやってそうなものだけど…君のお婆様は、文字の読み書きができるようになってから始めたようだし」

「え」


読み書き…確か、お婆様は3歳で出来てたって聞くから…3歳!?

3歳から特訓!?えー!?流石に嘘だー!


「さんさいで…!?あかちゃんじゃん…!!」

「3歳で赤ちゃんなら、君も赤ちゃんになっちゃうよ」

「え?」

「なんでもない。…あ、ついたね」

「ついた…?」


着いたと言っているけれど、扉の前ではなく、窓の下…もっと言えば、窓しかなかった


「噛まないように口塞いでてね」


彼はそういうと、私を抱えて宙に浮いた


「!?」

「もうちょっとだからねー」


正直言ってだいぶ怖いけれど、彼が言うと、不思議な安心感に包まれた

だが、怖いものは怖い

目を瞑って、彼の腕を引っ張るように掴むと、一瞬だけ、体が傾いた気がした


「ゔっ」


上の方から呻き声のようなものも聞こえた。見てみるが、彼は相変わらず涼しい顔をしている


「大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ…あ、着いたね」


彼が向いている方向に顔を向けると、私の部屋らしき部屋があった

外から自分の部屋を見るのは不思議な感覚だな、なんて思っていると、窓が勢いよく開いた

部屋に風が流れ込んで行って、流れに乗るように私たちも部屋に入った

ベットの上に私を下ろすと、彼はあの黒い本を手に取った


「…これは?」

「わかんない…あ、それ触ったら、あそこにいて……」


一瞬、彼は笑った

喜び、歓喜と言った感情ではないだろう。なんと言うか、言葉にできない恐ろしさがあった

思わず言葉が途切れてしまった


「アストリア嬢。滞在期間中、この部屋にきてもいいですか?」


すぐに笑顔を見せたけれど、あの笑顔が脳裏にこびりついていて、考えるのが遅れてしまった

部屋…に…

ダメなんだろうな。本当は。…でも

話すの、楽しかったな


「いいですけど…母にはバレないようにして下さいね」

「うん。バレないように、夜に来るね。それじゃあ」


窓から飛び降りようとした彼は、何かに気付いたように振り返った


「私のことは、客人とでも呼んでくれ。名前がないと不憫だろ?」


それだけを言うと、今度こそ飛び降りた

私は変な人だと思いながら、窓を閉めた

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