黒魔女を志すまで 2

そよ風に吹かれる色とりどりの花たち

草木も風に揺られていて、花畑の後ろには絵本みたいに綺麗な森があった


「………」


本が黒く光ったあと、何故か私は、この花畑に居た

あの本は、何か魔法が仕掛けられて居たのかもしれない

もし魔法の本だとして、なんであんな所に魔法の本があったんだろう…?


起きたことを考えても仕方ないか


とにかく部屋に戻らないと…

…ここは、何処だろう

周りにあるのは花畑と森だけ。遠くに宮殿も見えるけど、あんな所行けるわけないし…


「はぁ…」

「…人が居る」

「え?」


花畑の向こうから声がした

顔を上げてみれば、私と同じ年頃くらいの少年がいた

金髪で、蒼眼。服装も豪華だし、まるで王子様みたい


「…アストリア令嬢?」


なんで、分かったんだろう?


…あ

手の模様バラ

この服じゃ、丸見えだよね。肌色と全然違う青色だし


「部屋は3階だった筈…どうやって出てきたんだ?」

「…あの、あなたは?」


外を出歩いてるような子供が、どうして私のことを知ってるのかな?

そりゃ人の口に戸は建てられないと言うけど、こんなちっちゃい子供に私の事が伝わってるとは思えない

教育の本には、男子は10歳まで領地の勉強をする為に館から出ないって書いてあったから、知っているはずの貴族だとしたらおかしい事になる。

身なりは貴族っぽいけど


「私は、公爵家に来客として来ている者です。夫人から聞いてませんか?」


来客?

だとしたら、ここは公爵邸で、宮殿みたいなのは屋敷かな。

もしかしたら、あの屋敷が私の住んでいるところだろうか

部屋の窓からだと外が見えにくいんだよな…

……戻れそうだけど、私が来客と会ったって事がバレたら、継母さま、凄く怒るよね…

……でも、1人じゃ戻れないし……


「部屋に戻りたいなら、僕が送ってってあげようか?」

「え?」


少年…いや、来客はそう言って来た

どうやって戻るんだろうか。部屋の鍵は空いてたけど、館の鍵は閉まってるだろう。屋敷に入れそうにはない


「魔法使えるから、窓の鍵さえ開いていれば入れるよ」

「まもう?」

「まほう。聞いた事ない?」


聞いたことはあるし、知ってる。見たことは無いけれど、私がこの場所に来たのも、魔法だろうし

詳しくは知らないけど


「…窓、空いてる?」

「空いてると思う。私、お昼寝してたけど、布団かかってなかったし」

「?それがなんで?」

「部屋に入って来て、窓閉めたなら私のお布団掛け直すだろうし」

「ふーん……窓は閉めといた方がいいですよ」

「換気のたびに閉め直すのめんどくさいの」


軽くため息を吐いて、彼は私の手を握ると、宮殿の手前にある屋敷をみていた

おそらく、あそこが私の住んでいる所なのだろう


「ここからじゃ距離がある。ちょっと歩こう」


付いてきてと言うと、彼は来た道を戻って行った

私たちは花の間を縫う様に歩きながら、彼は私について聞いてくる


「何か好きなものとかある?食べ物とか、服とか…」

「本なら…」

「どう言ったものです?」

「恋愛とか冒険とか…あ、ジョニー・ソティーの『幽霊船』とか好きですよ!」

「幽霊船!?何処まで読んだの!?」


彼は、いきなり大声をあげた

先程までの紳士な態度とは大違いだな

キャラ作り、っていうのだろうか。体裁作りとか、そういう…

指摘した方がいいんだろうけど、キラキラとした瞳に、思わず声を続けてしまった


「は、8巻まで読んだ」

「じゃあカティーナ救出劇はもう読んだんだ!あそこの話が一番好きでさぁ…」


言い終えたところで、彼は固まった

やってしまったと思っているのだろう。目線は泳いでいるし、表情は暗い

顔を伏せた後に、深く息を吸って、最初と打って変わらない笑顔で口を開いた


「えぇっと……幽霊船、私も好きなんだ。アストリア嬢は、好きな話ってある?」


暗くなってしまった

明るく答えてあげた方が、彼にはいいだろうか

明るく…絵本の主人公みたいに、明るく


「ガラス越しの迷宮編が1番好きです!誰も知らないシティリの秘密と、マントの殺人鬼が人を殺し続ける理由が一緒だとわかった時は、声をあげてしまいました!」

「あれ、本当凄いよね!一瞬ミスリードと思わせて、やっぱり違うって確信させた後に、一緒だった事を明かすだなんて!些細な違和感が本命だと思ってたのに、目の前にデカデカと置かれた壁が真相だったなんてさ!」


目がキラキラ輝いてる

こっちの方がいいらしい


「やっぱりミスリードだと誤解しますよね!?チェニィの隠し事が明かされたのにページが余ってて、ん?これは?って思ってたらお兄さんが…!!!」

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