立志編
黒魔女を志すまで 1
「シンシア、今日はね、
実母の形見である、お姫様の人形を抱えながら言った
この人形は特別な魔術に掛けられた人形ではなく、ただの人形だ。会話機能がある訳でも、録音機能がある訳でもない
この人形に話しかけていると、寂しさが紛れて少し楽になるのだ
独りぼっちは寂しいから、こんなことしてないとやってられない
ぎゅっと、シンシアを握る手を強める
コンコン
扉から音が鳴った。メイドだ。
ベットから降りて、扉に近づく。背中を預けて、口を開いた
「なにー?」
「本日から来客があります。この館に来ることはありませんが、伝えておく様にと奥様が」
「ふーん…」
来客ってなんだろ
小説で、誰かが来た時に使って居た言葉だけど、私に伝えるってことは、相当大事な相手なのかな?
「では私はここで」
コツコツと足音を立てながら、メイドは離れていく
すぐにベットに戻って、貰った本を開く
「『むかしむかし、あるところに、ひとりのお姫さまがおりました。お姫さまはたいへん美しく、国じゅうのだんせいをみりょうしておりました。王さまはそんなお姫さまをみて、こんやくしゃをさがさないととあせっておりました』……継母様が好きそう」
継母様の選ぶ本は、だいたいこういう話だ。
皆んなに好かれる女の子、婚約者探しを急ぐ父、そんな父に反発心を持ちながら婚約者と結婚する女の子
こんな似たようなのを読ませて、継母様は何が目的なんだろう
…考えてたら眠くなってきた。ここらで寝とこう
_________
「あれ‥?」
夜までぐっすり眠っていた様で、月明かりで部屋がうっすらと照らされていた
時計を見てみると、針は8時を刺していた
最近はいつもこうだ。昼まで寝ようとしても、夜まで寝てしまう
とにかくお腹が空いた。廊下にご飯があるはずだから、それを食べよう
ギィ扉を開けると、すぐ近くにトレイに乗っけられたご飯が置いてある。
ジュース、パン、ステーキ、スープ、サラダ。
メニューからして昼飯かな。だとすると、結構冷えちゃったな
溢してしまわない様に、先にスープを机の上に置いて、残りはトレイごと机の上に乗っけた
月明かりだけだと、流石に手元が不安だな。
蝋燭を使おう
椅子から降りてベットの下を除くと、四角の箱が置いてある
金属で出来たそれは見た目ほど重くないので、簡単に引っ張り出せる。
蓋を開けてみると、一本の蝋燭が入って居た。蝋燭を手に取り、下の木の板を外すと、大量の蝋燭が見えた
この箱は何層かに分かられていて、厚さ的に後2段くらいありそうだ。無くなったら、廊下に出して補充してもらって居る
蝋燭を蝋燭立てにハメてして少し時間を置くと、蝋燭に火がついた。不思議に思いながらもご飯に手は伸ばす
パンは硬くて食べずらい。ステーキは美味しい。ジュースは若干つぶつぶして不快だ。スープは美味しい。サラダは嫌いだから普通に不愉快だ
時間が立ってなければ普通に美味しかったんだろうな。
明日こそは届いてすぐ食べてやると意気込みながら、ご飯を食べ続ける
美味しいと感じていたステーキも、硬いところが多くて噛みきれなくなってきた。‥早く食べよう
「ふぅ‥」
なんとか完食した為、蝋燭に蝋燭消しをのせる。煙が宙に浮いていった
箱に蝋燭を戻すと、変な音が聞こえてきた
「?、?」
初めての事だ。1年間、取っても戻しても何も聞こえなかった
少しの好奇心とドキドキを抱えながら、体力の蝋燭に手を伸ばす
蝋燭と板を取り出すと、もう一段、蝋燭と木の板がある。おかしな所は無い。だとすると、この下に何かがあるのだろうか
ドキドキが高鳴る。嫌な気もしてきたけど、好奇心は止められなかった
蝋燭を穿けさせ、板を取り出してみると、分厚い本があった
黒と青で色付けられており、書かれて居る文字は読めない
月明かりで装飾と文字がキラキラと光っていて、不思議な美しさが溢れていた
本は箱にピッタリとハマって居て、細い板か何かがないと取れそうにない
…板?
木の板は、少々分厚い。でも、隙間には入りそうだ
力任せに板を押し込むと、思ったより隙間がなくて、腕がプルプルと悲鳴をあげている
ポン
なんとか納まった…
まぁとにかく、これを使って、箱を逆さにすれば…
力のない腕でなんとか箱を逆さにして、上下に振る
……
これ落ちてきたら膝の上に落ちるんじゃないかな?
痛いのはやだし、床の上で叩こう
トントン
斜めになったからか、上から叩いたからか知らないけれど、本が落ちてきた
…後者だな。最初からこうすればよかった
まぁ、いい。
本を取って見あげて見ると、月明かりでキラキラと輝いて見えた
「……ん?」
月明かりじゃなくてこれ、本自体が光って…
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