黒魔女を志すまで 5
「ねぇ、わざと負けてない?」
「なんのこと?」
ニコニコと何もないように答えているが、彼はどうも怪しい
話しているのは、彼が持ってきてくれた『マリネセプス』と言うゲームについてだ。
マリネセプスは、黄色と青の四角い板で遊ぶゲームだ
ルールは、縦横25マスの黒い板の上に、四角い板を順番に並べていって、自陣営の色が多い方が勝ちのゲームらしい
順番順番だから同じ枚数になりそうな気がするけど、2枚の青で黄色を挟めばそれは青となる。だから、枚数が同じになる事がないと言う、実に考えられていて面白いゲームだ
私は青色を選択して、大体勝つ。
それは私が強いからじゃないってことは、始めてすぐにわかった
彼はわざと負けているのだ
それも二枚差、三枚差と僅差で
客人がわざと負けていると確信したのは、先ほど終えたばかりのゲームの結果だ
私が凡ミスをした時、客人は『あっ』と漏らしたのだ
その声に反応して、よくよく盤上を見てみれば、不自然な点はいくつもあった
角は私が三つとっているけど、その気になれば取れていたし、明らかに手を抜いただろう黄色の板が3枚もあった
何故手加減をするのか。私が年下と言う、単純な理由であれば、彼は負け過ぎている
「同情?それとも親切心?どっちにしろやめて。こんなゲームでいちいち怒んないし、手加減された方がイライラするし」
「どっちでもないよ。僕はただ、初めてだから…」
「嘘でしょ。あなた、嘘つく時分かりやすいよ。目が泳ぐから、目を瞑って平然と笑うんでしょう?嘘をついてない時は、もっと楽しそうだよ」
会ってまだ4日。だけど、彼は分かりやすい
私の方がもっと上手に嘘つけるぞ
「私が呪われた子だから?それとも、お継母様に取り入って欲しいの?」
「違う」
ヘラヘラとした雰囲気はどこに行ったのか。客人は真剣な眼差しでこっちをみた
…なんだろう、ちょっと…怖い。
前、お継母様が、メイドを叱ってた時と、おんなじ気配がする
「私は自分の意思でこの部屋に来てるし、手加減も、君が年下で女の子だからしてるんだ。不愉快に思ったのなら次からはちゃんとゲームをしよう。どっちの色がいい?」
何も無かった、と言う事にしたいのだろう。
嘘はついてない。ちゃんと笑顔だ
…こんなに、人って感情を変えれるのか
「…青色」
「わかった」
ーーーーーーーーーー
「…………」
「そろそろ別のゲームする?メイズ・ロンダとか」
「う…うん」
勝敗は15対0。
勿論、全て彼の勝利だ
盤上は全ての勝負で黄色に染まり、青が残ることはなかった
そ、そりゃあ?年上だし?そもそも、私ここ3日でこのゲーム知ったし?
記憶力頼りのメイズ・ロンダなら、一勝くらい…
「あ、終わっちゃった」
最後のペアを取ると、名残惜しそうに言った
ゲームは3回勝負で、全て彼の勝ち
ゲームを通してわかった
彼は異常なほど頭がいい。
一枚しか出ていないカードの絵柄を覚えていて、たとえ混ぜても正確に覚えている
彼が異常なのか、それとも私の頭が悪すぎるだけなのか
………いや、彼の頭が良すぎるだけだろう
ーーーーーーーー
「……手加減する?」
「う…あ…いや……あ……あぁ…」
結局今日は一度も勝てなかった
恥を重ねただけだったな………次こそは勝とう
「あ、そうだ。明後日には帰るから、明日までしか会えないんだ」
「…え?」
「ゲームとかは置いてくから、好きに遊んでいいよ」
「そ…なの」
「じゃあね」
いつものように窓から飛び降りて、帰って行った彼
………
4日しか、会ってないのに
もう会えないってなると、寂しいな
どうしてだろう
「ねぇ、シンシア。どうしよう」
唯一無二の親友は返事を返さない。ただただ、そこにいた
「わたし、酷いこと言っちゃったし、ちゃんとお別れ、出来るかな」
どうしようもない不安をぶつけ、シンシアを抱えながら、私は眠りについた
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