第72話 各々のTDS

 男は大げさな身振り手振りを交えて熱弁を振るっている。

 その男……喉輪チームの元ナンバー2は現在リーダーらしいが、元ナンバー2と心の中では呼ぼう。

 話を要約すると「川に架かる石橋にTDSを集中させて守ろう」という平凡で当たり前の作戦を自分の手柄のように話していた。


「なので、全員のTDSを教えていただきたい」


 元ナンバー2の提案はもっともなのだけど、それを口にした際の目つきが一瞬だけ怪しかった。

 たぶん、ついでに面倒なTDSを所持している人を調べようとでも思っているのか。今後のバトルロイヤルで少しでも有利になるために。


「手の内を明かす気はない。各々が石橋にTDSを置いて対応するだけでいいだろ。これだけの人数が揃っているのだから負けはない」


 元ナンバー2の提案を真っ向から断る人が現れた。

 その人に追随して複数人がTDSを見せることを拒む。


「そうですか、わかりました。では、各自で石橋に設置をお願いします」


 不服そうな顔をして渋々頷くと、皆がバラバラに屋上から去って行く。

 僕たちは目配せをして胸壁の近くまで移動した。

 僕、雪音、楓、立挙、それに男子生徒ABCの合計七人。これが今回の信用できるメンバーだ。


「じゃあ、僕たちも作戦会議しておこうか」

「うん、そうしましょう。負けて死ぬ……ゲームオーバーになるわけにはいかないから」

「そうやな。マジでやらんと」


 僕たち三人はこの世界の真実を知っている。故に他の連中と防衛戦に対する意気込みが違う。

 立挙と三人の男子生徒は僕たちの言うことならなんでも従ってくれそうなので、臨時の仲間として期待している。

 その四人は発言をしないで、ちらちらと僕と雪音を見ているだけ。

 まだ緊張が解けずに会話すらままならないのか。もう少し打ち解けて欲しいところだけど、従ってくれるなら問題はないか。


「まず、僕たちのTDSを教えるね」


 そこで自分たちのステータスを再確認した。



 守護者 佩楯 聖夜

 身長 174 年齢 十六歳


 レベル 20

 TDP 30

 TDS 《棘の罠》《電撃床》

 振り分けポイント 残り5


◆(棘の罠Ver.2)レベル10

威力 10 設置コスト 1 発動時間 1s 冷却時間 1s 範囲 3m 設置場所 地面・壁

◆(電撃床)レベル5

威力 2 設置コスト 1 発動時間 5s 冷却時間 1s 範囲 2㎡ 設置場所 地面・壁



 ステータス、罠、どちらも以前と比べてかなり強くなったな。

 実は要さんと同じくレベル20に達している。要さんがステータスを晒したときはレベルが低い風に装っていたけど。

 要さんを信用はしている。だけど、それでも、どこか信じ切れてない自分がいる。大人の男性というだけで心がざわついてしまう。


 《棘の罠》はレベルを10まで上げて、威力、設置コスト、発動時間、冷却時間、範囲、設置場所のすべてを強化している。

 要さんが言っていたとおり、レベル10まで上げるとVer.2に進化。

 前との大きな違いは飛び出してくる棘――鉄の杭の長さが調整可能になったこと。今までは一メートル程度だったけど、今だとその棘を三メートルまで伸縮自在になった。

 《電撃床》は威力と範囲を伸ばし、レベル5まで上げている。


「聖夜も強くなったね」

「ほう、なかなかやるやん」


 僕のステータスを覗き込み感想を口にする、雪音と楓。

 立挙たちはというと、宝玉から浮かび上がるステータスから目を逸らして、こちらを見ないようにしている。


「みんな見てもいいんだよ?」

「推しの大事な個人情報に手を出したら、ファン失格です!」

「「「静ちゃんの言う通りです!」」」


 立挙の言葉に続いて男子生徒三人が声を揃える。

 ……彼らは立挙さんの付き人か何かなのかな?

 四人はゲーム研究部の部員で男子生徒は運動部と掛け持ちをしている、とは聞いている。

 実際、彼らは坊主頭で運動部っぽい体つきをしているのでゲーム部員らしさがない。


「じゃあ、次は私の能力だね」


 今度は雪音が自分のステータスを表示させた。



 守護者 佩楯 雪音

 身長 173 年齢 十六歳


 レベル 20

 TDP 30

 TDS 《落とし穴》《火炎放射》

 振り分けポイント 残り5


◆(落とし穴Ver.2)レベル10

威力 0 設置コスト 1 発動時間 0s 冷却時間 0s 範囲 5m 設置場所 地面・壁

◆(火炎放射)レベル5

威力 10 設置コスト 2 発動時間 5s 冷却時間 2s 範囲 2m 設置場所 地面・壁



「《落とし穴》は範囲を大幅に向上させて《火炎放射》は平均的に強化した感じですね」


 雪音も初期TDSの《落とし穴》はレベル10まで上げてVer.2に進化させている。

 攻撃力はないけど何かと使い勝手のいいTDSで出番が多く、何度も助けられた。それに引き換え僕のTDSはあまり活躍していない。

 今後の課題だ。


「ほんなら、うちの見せとこか」


 楓も宝玉を起動させてステータスを見せてくれた。

 仲間になった当初は少し距離を置くような態度だったが、心の垣根を完全に外してくれたようだ。



 守護者 錣 楓

 身長 165 年齢 二十一歳


 レベル 20

 TDP 30

 TDS 《サイコロ連弩》《沼地の罠》

 振り分けポイント 残り5


◆(サイコロ連弩Ver.2)レベル10

威力 3×1~6×1~6 設置コスト 5 発動時間 2s 冷却時間 2s 範囲 40m 設置場所 地面・壁

◆(沼地の罠)レベル5

威力 0 設置コスト 1 発動時間 0s 冷却時間 1s 範囲 3㎡ 設置場所 地面



「ざっと、こんなもんや」


 楓のTDSをちゃんと見たのは初めてだ。レベル20に到達しているじゃないか。僕たちと同じく、レベルが高いのを黙っていたのか。

 僕の咎めるような視線を受けて苦笑している。

 その目は「あんたらも同類やね」と語っていた。

 気を取り直してステータスを確認する。《サイコロ連弩》と《沼地の罠》ってこんな能力をしていたのか。

 楓って僕と同じくあまり活躍の場がないんだよね。その点に関しては親近感が湧く。


「な、なんや、聖夜。生暖かい目でこっち見て」

「気にしないで。《サイコロ連弩》は進化して何か変わった?」

「大幅に強化されたで。まず威力を決めるときのサイコロの数が倍や。サイコロの数値をかけた値だけ二秒間、連射可能になるんやで」


 ああ、この威力の1~6ってやつか。つまり、サイコロが二つに増えて六と六が出たら、最大威力は三十六になる仕様。

 三十六連射か一度見てみたいな。だけど、ほんと博打要素が強いTDSだ。

 でも、運が良ければ合計した威力は《バリスタ》を上回れるのか。ロマンがある。


「あとは……飛距離が倍に伸びたで。上手く使えばあの《バリスタ》にも負けへん!」


 同じ飛び道具の《バリスタ》に出番を奪われていることが許せないのか、拳を握りしめて力説している。……違うな。単に負華お姉ちゃんに負けたくないだけだ。


「あ、あのー、もうステータスは消しましたか?」


 目元を手で覆いながら、立挙がおずおずと訊ねてきた。


「うん、もう大丈夫だよ。こっちの能力を見てないから、立挙さんのステータスを見せてとは言えないね」


 本命は彼女たちの能力確認だったけど、この状況じゃ見せてもらうわけにはいかないか。


「えっ、いえ、全然OKですよ! むしろ、推しにすべて曝け出せるなんてご褒美でしかないです!」


 胸の前で手を組んで祈るよーなポーズで目を輝かせる立挙。

 その背後では男子生徒三人が同じポーズをしている。正直、ちょっと不気味な光景だ。


「じゃ、じゃあ、遠慮なく?」

「はい! 私のすべてを隅々まで見てください!」


 興奮状態で頬が上気して息が荒い。

 凄く悪いことをしているような気がしてしまうが、相手が許可を出しているのだから遠慮なく見させてもらおう。



 守護者 立挙 静

 身長 153 年齢 十六歳


 レベル 8

 TDP 18

 TDS 《応援》

 振り分けポイント 残り3


◆(応援)レベル5

威力 仲間の能力を倍に引き上げる 設置コスト 2 発動時間 60s 冷却時間 60s 範囲 触れる 設置場所 味方



「えっ」


 ステータスを見て思わず声が漏れる。

 同い年なのはわかっていたが、レベルの低さにまず驚いた。

 彼女たちは臨時クエストをクリアーしていないのか。それとも大人数で挑んだから、分配された経験値が少なかったのかもしれない。未だにレベル10にすら達してないとは。

 なので、TDSが一つしかないのにも納得できたけど問題はその能力。

 あまりにも僕たちのものとは違いすぎる。

 前作のデスパレードTDには存在していなかった能力だ。


「かなり変わったTDSだね」

「そうなんですよ。他の人はデスパレードTDであった能力なのに、私たちだけ特殊で」


 自分でも不思議なようで、首を傾げて困り顔をしている。

 TDSは魔王国の連中が僕たちにゲームの世界と信じさせることで、前作のデスパレードTDにあった罠や設置物を連想させ、具現化された加護。

 これが真相。

 だから、必然的にデスパレードTDにあった能力が僕たちの加護となる、はずだ。なのに彼女の能力は異色すぎる。


「今作で新たに作られたTDSみたいだね」

「ですよね。でも、この能力って見覚えがあって。私がすっごくハマっていたソシャゲの主人公みたいな能力で気に入ってるんです」

「そのゲームの話を詳しく教えてくれないかな?」


 ヒントはそこにあると直感して、思わず立挙の肩を掴んで迫る。

 顔面を真っ赤にしてあたふたしているが、そんなことよりも質問に答えて欲しい。


「あ、は、はい! ええと、大好きな悪役令嬢物のアニメが乙女ゲーになったんですよ。そのゲームはタワーディフェンス要素があって、正直に言うとデスパレードTDより夢中でして。あ、このゲームもちゃんと毎日やってますよ! こ、こうして、佩楯さんたちに出会える貴重なゲームですし……」


 最後の方は消え入りそうな声だったが、注意すべきは前半部分。

 加護は個人の強い思いが具現化する。僕たちは前作のイメージが強くてタワーディフェンスと聞いたらデスパレードTDを連想した。

 だけど、彼女は違う。彼女にとってタワーディフェンスのイメージは、その乙女ゲーが何よりも強かったのか。だから、そのゲームの力が具現化して加護になった、と。

 たぶん、そのゲームはタワーディフェンスでも罠や設置物で戦うものではなく、人を配置して守るゲームシステムだ。

 原作ありきやキャラ重視のゲームは基本こっちのタイプが多い。

 だから人を強化するという特殊なTDSをしているのだろう。


「ちなみにTDSの詳しい能力ってどんな感じなのかな?」


 ステータスを見れば大体はわかるが、細かい仕様も知っておきたい。


「え、えっと。誰かに触れて発動すると、その人のステータスが倍になります。一分間だけですけど身体能力が向上して、TDPも倍になって、TDSのレベルも倍になるぐらいです」


 恐縮して小声で説明しているが、俺たちは驚きのあまり絶句してしまっている。

 深呼吸を繰り返し、なんとか落ち着く。

 雪音も楓も同じようで見合わせた顔は、驚愕で目が大きく見開かれている。

 最後にもう一度大きく息を吸ってから口を開く。


「とんでもなく凄いよ! そのTDS!」


 その力も活用すれば、今回の防衛戦もきっと乗り越えられる!

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