第45話 喉輪 惇 理想のオタク像
拙者の両親は教育者で躾が厳しく、アニメ、漫画、ゲームは禁止でした。
毎日、勉強ばかりさせられ、許されている娯楽と言えば文学作品の読書のみ。
子供同士の会話といえば、アニメ、漫画、ゲームの話題が多く、そのすべてに触れてこなかった拙者は会話に入ることができず、クラスで浮いた存在でした。
毎週、漫画雑誌の話で盛り上がるクラスメイトたちが本当に羨ましかったですよ。
小学生時代に一度ぐらい、友達を家に誘ってゲームとかしてみたかった。
そんな環境のまま中学生になり、学力だけはトップクラスであったものの友達はおらず、息苦しい毎日に辟易していたのを今も覚えています。
拙者に転機が訪れたのは中学年の春。父と母の浮気が発覚。あれだけ「規律やルールを重んじて真面目に生きろ」と拙者を叱っていた両親がまさかのダブル不倫。
今まで一度も聞いたことのない、醜い言葉で罵り合う両親。
二人の姿に幻滅して嫌気が差した拙者は、父の両親に引き取られることにしたのです。つまり、祖父母の元で暮らすことになりました。
両親とは違い二人はとても優しく、拙者に強要するような教育は一切なく、そこには望んでいた自由があったのです。
解放された拙者はまず、禁止されていたことに手を出しました。そうです、漫画、アニメ、ゲームといった娯楽に。
そのすべてが楽しく、面白く、最高に輝いていて、完全にはまってしまいました。
ええもう、ずっぽり肩どころか、頭のてっぺんまでオタクの世界にのめり込んだのです。
あまりにも魅力的な世界に入り込んだ私は、特にアニメに熱中しました。そして、お気に入りのアニメの影響で様々な趣味に目覚めることになるのです。
音楽を題材にしたアニメを観てギターを始め、アウトドアを題材にしたアニメを観てキャンプにハマる。
その他にも絵、料理、スポーツ、様々なジャンルに手を出し、趣味は増えていく一方。
中でも一番影響を受けたのが筋トレを題材にしたアニメ。
オタク活動が忙しくインドア派になり、暴飲暴食気味で太り気味だったのですが、筋トレを始めたおかげで体も引き締まり今の体型になりました。
次にファッション関連のアニメを観て、服装や髪型にも気を遣うようになりまして。
おや、どうしていきなり自分語りが始まったのか? 話はまだ続くのか? いつものござるはどうした? ですか。
いえ、過去を語る際にござるを付けると、くどくなるかと思いまして。それに各キャラに焦点が当てられたときは、幼少の頃の過去話を挟むというのが決まりの筈でござる。
そんなのはいらない? 話を進めろ、でござるか。過去話はこれぐらいにしておくでござる。
オタクの悪い癖でござるな。ついつい早口で長話になってしまうでござるよ。
やっぱり、ござるはいらない、ですか。わかりました、戻しますね。
そんな拙者が推していたアニメがソシャゲになりまして、そのゲーム内容がタワーディフェンスだったのですよ。
ここまで聞けばおわかりのように、そこからタワーディフェンスにも興味を持ちまして。様々なゲームをやっている内に、デスパレードTDにたどり着きました。
前振りが長すぎるっちゅうねん、ですか。早よ、本編に入れや、と。
では、砦内で皆様の処遇に関して話し合っていた場面に飛ぶとしましょう。
拙者のチームは一応トップが拙者だったのですが、それを良く思っていない人が何人かいまして。特にナンバー2が拙者を毛嫌いしていました。
そうそう、ちょっと小太り気味でチェック柄の服を着た彼です。神経質ではありましたが、気のいいところもあったのですよ。
それで処遇を決める話し合いで、ナンバー2と仲間たちは皆様を処分することを強く推していました。
彼らの言い分はこうです。
「一時的に強力はしたが、このゲームは対人戦を推奨している。そもそも、最後の一人に残るのが目的だろ。なら、ゲーム的にも今のうちに処分しておくべきだ」
「最終的には殺し合うのだから、今殺しても同じ」
とのことでした。多くの人が賛同していたのですが何人かの女性は拙者の味方でした。
ですが、それが余計にナンバー2たちの怒りを誘ったようで、彼はこう言い放ったのです。
「きっしょい話し方するくせに、爽やかイケメン風な外見と態度でモテやがって! バリバリのオタクのくせに、そういうところがムカつくんだよ! お前だけモテるのおかしいだろ!」
日頃の鬱憤が爆発したナンバー2と男性陣が一斉に拙者を責めました。
どうやら、私怨というか妬みが原因だったようです。
知らぬ間に彼を傷つけ反感を買っていたらしく、それはもう罵倒と愚痴の嵐でした。
彼もオタクで同じアニメの話題で盛り上がったこともあったというのに、残念でなりません。
味方だった方々も圧倒的な数の暴力には勝てず、最終的にはナンバー2側に付きました。
話は皆様の処分でまとまりかけていたのですが、それでも拙者は反論を続けた結果。
「そこまで言うなら、お前は追放だ! このチームはこれから俺が仕切る」
と言い出す始末。
それを聞いて拙者は……歓喜しました!
だって、今まで何度もweb小説や漫画の異世界物で目にしてきた、追放物の定番セリフを実際に聞けるなんて!
まさか、憧れの主人公ポジションに自分がなるとは思いもしませんでしたから!
最高の展開じゃないですか!
……おやおや、皆様、どうして距離を取るので?
頬が引きつっていますが、大丈夫ですか?
怯えることはありませんよ。ただ、お話をしているだけなのですから。
では、続けますね。
ほぼ全員が処分を決定。拙者も追放ということで話がまとまりました。
ならば行きがけの駄賃とばかりに、皆様を逃がそうとして監禁部屋に入ったら、壁に穴を開けて脱走する場面に出くわしまして。
拙者が何か言う前に負華殿が《バリスタ》を発射。TDSでなんとか防げたのですが轟音が響き渡り、他の人にバレてしまい。
……あ、負華殿を責めないであげてください。あの状況なら勘違いして当然です。
ええと、涙目でにじり寄ってこられると怖いのですが。
何々、要殿より優しいし顔もいい。言葉遣いはあれだけど、拙者に乗り換えるのもやぶさかではない、と。
それは丁重にお断りしておきます。拙者は二次元の嫁たちを相手にするので手一杯なので。
また話が脱線してしまいましたね。おやおや、何故に皆様うんざりした顔を?
話はここからですよ。
脱走する皆様を追いかけながら大声で事情を説明したのですが、全然信じてもらえずに廊下にTDSを仕掛けられるわ、矢が飛んでくるわで酷い有様でした。
皆様、どうして目を逸らされるのでしょうか。拙者は怒ってませんよ?
逃走中に拙者の元仲間たちが現れ、皆様へ攻撃を始めたので協力して対抗していると、なし崩し的に逃走する仲間となったわけです。
それで負華殿が「廊下に鉄球置いて進路妨害したらいいんじゃね!」と妙案を思いつき、誰にも相談せずに《鉄球の罠》を設置しました。
結果として相手は廊下を通れずに困っていたのですよ――少しの間だけ。
巨大な置物と化していた鉄球の筈が突如、牙を剥いたのです。
微動だにしなかった鉄球がこちらに向けて転がり始め、拙者たちを追ってきました。
ちなみに元仲間に《バネの罠》を所有している人がいまして、それを鉄球の背後にある壁に貼り付けて起動。
押された鉄球が勢いよく飛び出したようです。
という危機的状況で肩上殿と遭遇した、という流れですね。
ご納得いただけたでしょうか。おや、肩上殿。何かご質問でも?
俺は拙者のTDSを知らない、ですか。確かにお見せしておりませんでしたな。
このTDSの能力に関してもナンバー2は不満だったそうです。そんな役立たずな能力でリーダー面しているのが気に食わないとか、なんとか。
無能に思えた能力が実は最強だった! という展開に期待して欲しかったのですが。
そうそう、拙者のTDSでござるな。もう、説明は終わったのでいつもの口調にして構わぬでござるか。
刮目するでござる。拙者のTDSを!
手のひらの先に光が収束する。それは四角い立方体の形になると具現化した。
一辺一メートルの正六面体。それが拙者の《ブロック》でござる。
色は土色で触れた感触は固く、重さはおそらく二十キロぐらい。
触っても大丈夫でござるよ。ただの塊でしかないので。
物珍しそうに皆でペタペタと触っている。肩上殿以外は逃走中に見ている筈でござるが、マジマジと見る機会がなかったでござるからな。
使い道でござるか。
足場にする、敵の攻撃を防ぐ、といった便利な使い身があるでご……何故にそのような悲しげな目で拙者を見でござるか。
攻撃力はありませぬが、中々に便利で使い勝手は悪くないでござるよ。
消費TDPも少ないので、複数個置くのも可能でござる。
おや、楓殿。いい加減、ござるござるを辞めろ。ウザすぎてゲシュタルト崩壊しそうや、と仰るか。
以前もそう苦言を呈してござったが……ござったもアウトでござるか。
一人称の拙者と殿は許容できるけど、ござるは耳障りすぎる、と。
しかし、これはオタクとしてのアイデンティティなので。極力減らすように心がけるでござ……るようにしますので、何卒ご容赦の程を。
既に個性が強いから、ござる付けなくてもキャラが立ちすぎている、と。
これは嬉しいことを言ってくれるでござる。……褒めてはない、のですか。
拙者の話はここまで。追放された身の上ですので、皆様の仲間に入れてもらえると、とても助かるのでござるが。
おー、受け入れてくださるのか!
感謝感激雨あられでござる!
喉輪惇。不肖未熟の身ではござるが、誠心誠意、皆様のために尽くすでござるよ!
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