第24話 再確認

「全員が無事で何よりだよ。聖夜と雪音は他の守護者とは遭遇しなかった?」


 俺と負華は既に対戦済みだが、この二人はどうだったのだろう。


「僕は直ぐに雪音を探したからね。《マップ》に表示されていた一番近い点がたぶんそうだろうなって」

「聖夜が探しているだろうから、動かずに待っていました。《落とし穴》の中で大人しく」


 雪音はあえて動かずに穴の中に自ら入っていたのか。

 意外な《落とし穴》の使い道だ。蓋の部分は開閉が自由自在だから、閉めてしまえば誰にも見抜けない。


「そうか。こっちは守護者と一戦交えたよ」

「マジで! それで、勝ったの⁉ あっ、お姉ちゃんはいいや。聞くまでもないし」

「要さんの勝敗の行方は? 負華さんはいいです」


 興奮状態の二人が俺に質問を投げかける。

 頬を膨らまして拗ねている負華の視線を背中に浴びながら、二人に合流するまでの経緯を話した。


「そっか。二人とも引き分けなんだ」

「じゃあ、TDSの数は変わってないのですね」

「残念ながら。生き延びるのに必死だったから」


 バイザーに関してはTDSの相性が悪くなかったからなんとかなったが、純粋な遠距離攻撃系のTDSが相手だと分が悪い。

 とはいえ、今は三人がいるのでどんな敵にも対処は可能だ。

 会話が一段落ついたので宝玉を起動させて、ステータスと能力を確認する。


 守護者 肩上わだかみ かなめ

 身長 178 年齢 三十四歳


 レベル  6

 TDP 16

 TDS 《矢印の罠》《デコイ》

 振り分けポイント 残り2


◆(矢印の罠) 

威力 2m 設置コスト 1 発動時間 0s 冷却時間 1s 範囲 1m 設置場所 地面・壁


◆(デコイ)

威力 0 設置コスト 10 発動時間 0s 冷却時間 0s 範囲 視界に入る 設置場所 地面


 改めてみると……成長したもんだ。

 レベルが6に上がり、TDPも増えた。《矢印の罠》だけならTDPの消費は気にしなくていい。

 それに罠自体の能力もかなり上がっている。《デコイ》については……今後に期待か。想像も付かなかった活用方法がある、かも? しれない。望みは薄いけど。


「相変わらずショボいなー。私のTDS、見ちゃう見ちゃう?」


 負華は俺の画面を覗き込んで鼻で笑うと、宝玉から射出されているステータスを俺に押しつけてくる。

 そういや、負華には見える仕様のままだった。

 押しのけたいところだが、正直、負華の能力が気になる。返事もしないで黙ったまま、映し出されたステータスを覗く。


 守護者 草摺くさずり 負華ふか

 身長 155 年齢 二十二歳


 レベル  6

 TDP 16

 TDS 《バリスタ》《鉄球の罠》

 振り分けポイント 残り0


◆(弩砲 バリスタ)

威力 50 設置コスト 8 発動時間 10s 冷却時間 10s 範囲 50m 設置場所 地面


◆(鉄球の罠)

威力 50 設置コスト 8 発動時間 20s 冷却時間 20s 範囲 直径3mの鉄球 設置場所 壁・地面


 レベルは俺と同じ。《バリスタ》は前にも見たので知っているが《鉄球の罠》も扱いづらい能力をしている。

 それよりも気になる点があった。


「負華……」

「なに、なに。あまりの凄さに言葉を失いましたか?」


 強者が弱者を見下す顔の見本にしたいぐらい調子に乗っている。

 負華のウザい顔は無視して、ある一点を指差す。


「振り分けポイントがもうないみたいだけど?」

「はい、使い切りました! こういうの残しておくのって気になりません? あるなら、ぱーっと使わないと!」


 自分が何をやらかしたのか理解してないようで、自慢話が続く。


「まず《鉄球の罠》の設置場所を増やしました! 壁だけだと使い勝手が悪かったから、地面にも置けるようになったんですよ。偉いでしょ!」


 負華は腰に手を当てて胸を張った。

 俺が褒めるのを待っているようで、黙ったまま俺をじっと見つめている。


「その選択は間違ってないと思う。そこは偉いよ。だけど、残りのポイントは?」

「ふっふっふ。そこ訊いちゃいます? 両方の設置コストを二つずつ下げました! これで設置コストがどっちも8になるので、なんと同時に二つ起動可能になっちゃいました!」


 なるほど。TDPが16に成長したから、これで《バリスタ》《鉄球の罠》の同時展開が可能になった、と。

 口には出してないが、表情が「褒めて、褒めて」と主張している。

 いつの間にか俺の後方にきて話を聞いていた双子に視線を向けると、俺と同じように肩をすくめて、大きな大きなため息を吐いた。


「「「はああああぁぁぁぁ」」」

「なんなんですか、そのリアクションは! ここは、負華様は天才! クレオパトラの生まれ変わり! 女として完敗です! って褒め称える場面ですよ。さあ、照れずにやっちゃって!」


 両腕を前に伸ばして、俺たちを手招きするように手首をくいくいっと動かす。

 頭を斜め後方に傾けて口が少し開いているのも、こちらの神経を逆なでしてくれる。


「あのな、普通はいざというときの保険として、ポイントを残しておくもんだ。聖夜も雪音も使い切ってないだろ?」

「常識」

「当たり前です」


 話を振ると真顔で大きく頷く。

 二人はポイントを残す重要性を理解している。


「えっ、えーー。でもでも、宵越しの銭は持たない主義だしぃ」

「……江戸時代が舞台の乙女ゲーやった?」

「なんで知ってるの⁉」


 負華は驚愕して目を見開いている。

 いや、だって、今までの言動からして、そんな言葉を負華が知っているとは思えないから。


「使ったものはしょうがない。次からは少しポイントを残しておいた方がいいよ」

「はい、前向きに善処します」

「……国会議員が出てくる乙女ゲーした?」

「心を読まれている⁉」


 負華との無駄話はこれぐらいにして、四人で新たに今後の方針を決める作戦会議を開くことにした。






「僕は当初の目的だった砦を見に行くべきじゃないかって思ってる」

「私も聖夜に賛成です。あの砦を守った人たちは、あそこに合流してから褒美のTDSを奪い合うつもりみたいなので」


 双子が同意見なのはいつものことだが、砦の連中の行動パターンを把握しているかのような物言いだ。


「雪音ちゃん。奪い合うつもりって、なんで知ったかぶっているの?」


 負華、ちゃんと話を聞いていたのか。良い質問だ。

 俺もそこが疑問だった。


「三日目が始まったとき、山頂に飛ばされたじゃないですか。私と聖夜は情報収集していたのですよ。いくつか固まって会話しているグループがあったので、近くまで行って耳を澄ませていました」

「その会話で砦に戻って褒美の奪い合いついでに、バトルロイヤルで他のTDSも奪う、なんて物騒な話をしている連中がいたからさ」


 本当にできる双子だ。

 俺はその時……負華の相手をしていた。なんて無駄な時間を過ごしていたんだ。猛省しなければ。


「砦の中で大きく二つのグループに分かれていたらしくて、何かあったときの集合場所を砦に決めていたそうです。なんでも、頭のキレるリーダーが二人いるって言ってました」

「リーダーの名前は聞き取れなかったけど、どっちの下につくかで口論になってたよ」


 これはかなり重要な情報だ。

 褒美のTDSは四つしかないから、四人組のグループに分かれていると予想していたが、そうはならなかった。カリスマ性のある者が台頭して、場を仕切ったのか。


「要さん、要さん。ちょっかい出すのヤバくないですか?」

「そうだな。これで各個撃破はかなり困難になったと、思う。だけど……」


 放置するのも危険。

 放っておけば統率力のあるリーダーが仕切る、厄介なチームが生まれてしまう。


「手を出す危険性を考慮しても、放置というわけにはいかない」

「だよね。そこで生き残った方が面倒な存在になるのは目に見えているし」

「戦う戦わないは別としても、様子をうかがって戦況を把握しておく必要があるのでは?」

「よくわかんないけど、皆と同じ意見で!」


 双子も負華も同意してくれたし、話をまとめようか。


「全員一致で取りあえず砦の近くまで移動。そこから状況に応じて対処でいいかな?」


 反論はなかったので、本日の方針が決定した。


「だけど、ここから砦まで結構……っていうか、かなり遠いよね?」

「えっと、場所はここでしたから。今から向かったらいつになるのか……」


 双子が《マップ》を開いて現在地と砦の場所を指差す。

 正確な距離は測れないが、地図上では北東に相当な距離を移動しないとたどり着かない。

 休まずに一日中歩いても、着くかどうかは怪しいところだ。


「移動となると、僕らには足を引っ張る人がいるし」

「あー、そうだな」

「確実に足を引っ張りますよね」


 俺と双子の視線が負華に集まる。


「誰ですか足手まといは! 私がガツンと言ってやりますよ!」


 雄々しく右拳を突き上げ、怒り心頭といった表情だが視線が定まっていない。

 誰も言葉を発しない沈黙がこの場を支配する。

 無言の圧力に負けたのか、負華は右腕に続いて左腕も掲げるとそのまま膝を突き、流れるように土下座した。


「頑張るけど、絶対途中でへこたれると思われます」


 自らをしっかりと省みた、潔い宣言だ。

 そろそろ、助け船を出しておくか。


「移動方法については心配いらないよ。俺の罠を使えば、かなり早く目的地に到達できる」


 地面に《矢印の罠》を設置して、自信ありげに笑う。


「そういや、そうだった。要さんのがあれば、かなり時間短縮できるよね」

「でも、TDPが足りますか?」

「TDPの自動回復は一秒で一ポイント。《矢印の罠》の設置コストは一。問題なく使い続けられる」


 とはいえ、精神的に疲れそうなので途中休憩は挟んでもらう予定だけど。


「はいはい、問題も解決したところで皆さんちゃっちゃと動きますよ」


 手を叩き、急ぐように促す負華。

 この立ち直りと切り替えの早さだけは見習いたい。






 前回潜んでいた崖の上に俺たちはいる。

 バックパックも無事に回収できた。

 全員が地面に這いつくばった状態で、眼下の砦を観察中。

 砦の周辺は真っ暗で、頼りになるのは星明かりだけ。目を凝らしてなんとか確認できる程度の明るさしかない。

 時間は深夜を通り越して、日の出まで三十分を切った。


「結構ギリギリだったな」


 想像以上に距離があったことと《矢印の罠》は移動先に障害物があっても自然に避ける、なんて性能はないので、入り組んだ道や障害物が多い場所では使えなかったのが痛かった。


「でも、砦には灯りもないし、僕たちが一番なんじゃない?」

「誰よりも早く着いたのではないですか」


 手間取ったとはいえ、この力を活用してもこれだけ時間が掛かったんだ。他の連中が歩いてくるなら、もっと時間が必要だ。


「なんなら、ここら辺で待ち伏せして、疲れている相手を襲うとか! って、それは卑怯ですね。さすがに」


 負華は苦笑いを浮かべて恥ずかしそうに頭を掻いている。

 そんな彼女に対して俺たちは。


「それは……ありだな」

「だよね。相手の進路方向に予め罠を張っちゃう?」

「きっと油断しているでしょうから」


 三人で顔を付き合わせると「くっくっく」と含み笑いが漏れる。


「怖っ! この人たちヤバいんですけど!」


 三人の輪から距離を取り一人で怯えている負華を尻目に、今後の作戦を練ることにした。

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