第23話 パーティーメンバー
負華と合流したのはいいが、まだ双子が残っている。
守護者を倒しておけばTDSを奪えたのだが、俺も負華も相手に逃げられてしまった。
だけど、生き残っているだけで上出来。生きていれば……なんとでもなる。
「聖夜と雪音が何処にいるか」
二人を探さないといけないが、探す当てが何もない。
おおよその場所がわかれば、いくらでもやりようがあるけど。
「えっと、ここから北西に二人ともいるみたいですよ?」
「……なんで知ってるんだ?」
俺が問いかけると、ニヤリと笑い目尻の下がった半眼で俺を見ている。
なんだその変顔は。
「あっれー。要さんともあろうお方が気づいてらっしゃらない? えー、マジでー、信じられなーい」
イラッとする物言い。
負華は人の神経を逆なでする才能がある。
文句の一つも言い返したかったが、今は一刻を争う。
「はいはい、で、なんでわかったんだ」
「もうちょっと絡んでくださいよ。仕方ないですね、教えてあげます。ほら」
負華が宝玉を起動させて《マップ》をタップした。
浮かび上がる地図の中心部には寄り添うように二つの点が並んでいる。そこから少し離れた北西にはもう二つ点が並んでいて、そっちは動いているようだ。
「パーティーメンバーの位置はマップで確認できるのです!」
ドヤ顔の負華は無視して、じっと地図を観察する。
バラバラにされてからバイザーと遭遇、直ぐに負華の所へ行ったので一度も地図を確認していなかった。こんな機能もあるのか。
相手の名前は不明だが、パーティーメンバーになるとマップ上に表示される仕様らしい。
「場所がわかればこっちのもんだ。行くよ、負華」
「えっ、ちょっと。褒めてくれないんですか? 偉い、素敵、私の姫、とか褒めちぎる場面ですよ!」
「そこまでの称賛には値しないだろ。って、時間が惜しいんだって。発動」
負華の腕を掴んで引き寄せると、足下に《矢印の罠》を置く。
「ほえっ! ぬおっ! ぎゅほっ!」
罠を踏んで強制移動する度に変な声出すのやめてくれ。
《マップ》で双子の現在地を確認しながら矢印の方向を調整する。
「慣れると気持ちいいー。疾走感っていうんですかね。ひゅんひゅん動く感じがジェットコースターで落ちるときみたい」
奇声を上げなくなった負華が上機嫌で辺りを見回している。
「あっ、でも、景色が急に変わるから……酔いそう」
「吐かないでくれよ」
強さで語るなら《矢印の罠》は最下層だけど、利便性で考えるならかなり優秀なんだよな。
TDPの消費も少なく創意工夫のしがいがあるから、俺向きだとも言える。
「ここら辺だと思うが」
双子を示す点に接近したので足を止める。
《マップ》だと西からこっちに向かって進んでいるように見えるが。
ここは小川の近くで足下には川砂利が敷き詰められている。西と東には森があり、その森を突っ切るように北から南に向かって小川が流れている。
視界も開けているので、合流ポイントとしては理想的。
二人は全力で走っているのか、かなりの速度でこっちに向かっている。
「敵に負われている可能性が高い。負華、《バリスタ》出して構えておいて。あっち側に向けた状態で」
西の森を指差し、警戒するように促す。
「サーイエッサー」
ビシッと敬礼してから《バリスタ》を発動させている。
ここから森の切れ目までは十メートル以上、二十メートル未満といった感じか。
「負華はそこで……待て!」
「はい! って、今の犬に言う感じじゃなかったですか⁉」
文句を言う負華を背に森へ数歩だけ近づく。
ここからなら、ギリギリ届くか?
足を止め、目を凝らして耳を澄ます。
駈けてくる音と微かに聞こえる誰かの声。それが徐々に大きくなっていく。
数秒後、森から飛び出してきたのは聖夜と雪音。
「うわっ、要さん⁉」
「助けてください!」
汗だくで必死な形相の二人が俺を目がけて駆け寄ってくる。
「どうした! 何があ……うん」
説明を求めようとしたが、その必要はなかった。
二人の背後から少し遅れてソレが飛び出てきた。
木々をなぎ倒して飛び出してきたのは、見上げるほどの巨体。体高は五メートルを優に超えている。
鋭い目つきに大きな口からは尖った大きな牙。
毛深く楕円形の体に短く太い四肢。
「ボアボーアかっ!」
前作では体力の多さと直線の移動速度で猛威を振るった、厄介なイノシシ型モンスター。
他の敵キャラよりも体が大きいので、いくつかの罠が無効化されて面倒だったのを覚えている。
「って、驚いている場合か!」
双子を《矢印の罠》で俺の元まで運ぶ。
ボアボーアからひとまず距離は取れた。向こうは急に姿が消えたように見えた双子に戸惑い、足を止めている。
「はあ、はあ、はあああぁ。助かった、ぜ、要さん」
「ふうううぅ。命拾いしました」
二人も弱くはないはずだけど、相性が悪かったか。
《落とし穴》にハマるサイズではないし、《棘の罠》をいくつか踏ませたところで倒すまでには至らなかったのだろう。
ボアボーアの足が黒く焦げて血が流れてはいるが、動くのに支障はないようだ。
「バカみたいに猛スピードで突っ込んでくるし、飛び跳ねるから罠がいくつか間に合わなくてさ」
「《落とし穴》に一度足を取られてから、警戒しているみたいです」
前のデスパレードTDではあり得なかった挙動だ。
辺りを見回していたボアボーアがこっちを見て動きが止まる。
大きく吹き出した鼻息で砂利が飛び散り、前足が地面を何度も掻く。突っ込む気か。
「負華!」
動き始める前の今が絶好のチャンス!
「発射‼」
ちょうど正面に位置する《バリスタ》からの一撃。
最高のタイミングで放たれた矢はボアボーアの額に突き刺さった……ように見えたが、その巨体が上空へと跳んだ。
「ちょっとおおおっ! その巨体で、その跳躍力おかしいでしょ!」
「文句はあと!」
巨体の影に入る俺たち。
このままでは潰されて死亡は確定。
「退避!」
《矢印の罠》で全員を強引に避けさせると、そのままもう一つ発動させて距離を取る。
腹まで響く振動に飛び散る砂利。
結構離れているのに、ここまで風圧が届いている。
あれを食らっていたら、どうなっていたのか。
一気に吹き出た冷や汗で、背中にシャツが張り付く。
バトルロイヤルのことばかりに気を取られていて、モンスターの存在を蔑ろにしていた。この世界には凶悪なモンスターがいることなんて、わかっていたことなのに。
対人戦から頭を切り替えよう。
「俺が《デコイ》を置くから、前に横並びで《落とし穴》を設置して! 穴の中には《火炎放射》も!」
「わ、わかりました」
「聖夜はデコイの周辺に《棘の罠》を! あと、《デコイ》の真下に《電撃床》を!」
「任せて!」
俺の指示に従い手際よくTDSを設置してくれている。
「負華は《バリスタ》の照準を正面に合わせたまま待機!」
「は、はい。待ちます!」
軽口を叩く場ではないという空気は読めたようで、珍しく真剣な顔で言葉数が少ない。
ゆっくりと起き上がったボアボーアは再びこちらに頭を向けると、俺たちとの間にある《デコイ》に向けて全速力で突っ込んできた。
「五、四、三、二……」
あと一歩踏み込めば《落とし穴》に前足がはまって足を取られる。
そこに《バリスタ》を撃ち込めば。勝利を確信した瞬間、ボアボーアは再び大きく跳躍した。
《デコイ》には目もくれず、俺たちを跳ね飛ばすために。
罠を張った一帯の上空をボアボーアの巨体が通り過ぎようとしている。
「負華! 《デコイ》目がけて撃ち込め!」
「ふえっ⁉ わからないけど、わかりました!」
言葉の意味を理解しないまま、《バリスタ》が巨大な矢を放った。
「
「お、おう!」
矢は狙いを違わず《デコイ》の背中に命中。しかし、《デコイ》を破壊することなく矢は起動を変えた。
垂直に真上へと。
同時に起動した《電撃床》の電撃を帯びた矢は、上空へ飛び続ける。
その先にあるのは無防備に晒されているボアボーアの腹。
鏃は腹に突き刺さると、そのまま背中を抜けて飛び出した。
腹と背中から血をまき散らしながら、川砂利の上に墜落するボアボーア。
動かないのを確認してから、大きく息を吐く。
「はあー。なんとか、上手くいったか」
緊張の糸が切れると同時に座り込んでしまう。全身の力が抜けた。
空中に浮いているボアボーアを直接狙う手もあったが、《バリスタ》の照準を切り替えるのには時間がかかり、動揺している負華が咄嗟に対応できるとは思えない。
それ故の策だった。
「なあ、なあ! 今のどうなったんだ⁉ なんで、矢の方向が変わったんだよ!」
「どうやったんですか! 教えてください!」
詰め寄ってきた双子に肩を掴まれて揺さぶられている。
おー、美形が二つ興奮状態で迫ってくる姿は、優越感があって悪くない。
ちらっと負華に目をやると、状況を理解はしていないが倒したのは自分の功績だと思っているようで、自慢げな顔でこっちを見ている。
「仕組みは単純明快。《デコイ》の背中に《矢印の罠》を貼り付けただけ。そこに矢が当たって軌道が変化」
指を矢に見立てて横に移動させた後に、上へ向けて急上昇させる。
この作戦の博打要素は、まず《デコイ》に《矢印の罠》を重ねられるか。これは前回、負華を探す際に設置場所に壁を追加したおかげなのだが《デコイ》の背中が壁判定に入るかは微妙だった。
次に《バリスタ》から放たれた矢にも《矢印の罠》が適用されるのか。これは試したことがなかったので、完全に博打。
なんとかなって、本当によかったよ。
「全員の罠があってこその勝利だ」
《落とし穴》を警戒して跳び《電撃床》の電撃が付与された《バリスタ》の一撃。
誰かが欠けていたら勝つのは難しかった。
「つまり、初めての共同作業ですね」
体をもじもじさせながら気持ちの悪いことを口走る、負華。
「えっ、なんかヤダ」
「負華さんと要さん、ちょっと距離が縮まってません?」
しかめ面の聖夜と目を細めて俺と負華を見つめる雪音。
「無事合流できたのだから、まずは再会を喜ぼうか。おかえり」
立ち上がり仲間に向けて手を差し出すと、三人は顔を見合わせて握り返した。
「「「ただいま」」」
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