第14話 防衛開始

 まずは双子とTDSについての情報共有をすることにした。

 双子もかなり詳しく調べていてくれたので、細かい仕様まで把握できて助かった。俺に任せっぱなしの負華と違って二人は頼りになる。

 新たにわかった事実も加えてTDSについてまとめた内容を反芻しておく。


 一つ、TDSの最大設置数は五プラス、今のレベル。

 つまり、俺で例えるなら現在レベル4なので最大九個の罠を置ける。


 一つ、設置箇所は目視できる場所で十メートル以内。

 見えないところに置くことはできないし、十メートル以上離れた場所には置けない。

 屋上からだと、ギリギリ真下には設置可能なので門前には置けるが、橋の上は範囲外となる。

 ただし、予め設置しておけば十メートル以上離れても消えることはない。


 一つ、TDSの発動回数は十プラス、今のレベル。

 設置数と同じ加算方式らしく、俺だと一つの《矢印の罠》につき十四回は強制移動させられる、ということになる。

 なので、回数を超える前に罠を入れ替えないと消えてしまうから、そこは注意しておこう。


 大事なポイントはこれぐらいか。あとは肝心要の作戦を練らないと。






 屋上から砦の門前に移動。

 一歩進み出て足下の橋を何度も力強く踏みしめる。頑丈で安定性もあって、簡単に壊れる代物ではない。


「TDSを設置する場所は橋の上でいいんだよね?」

「橋の幅はだいたい四メートルですね」


 聖夜の隣に並んだ雪音が長さを断言した。

 おそらく《落とし穴》を横並びで発動して距離を測ったのだろう。こちらからは見えないので憶測でしかないが。

 ……俺の《矢印の罠》は誰にでも見える仕様なのでバレバレなのに《落とし穴》は使用者にのみ見えるって狡くないか?


「橋には欄干がないから罠が生きるのでは?」


 微笑みながら雪音が俺に問いかけてきた。

 俺が何をしようとしているかを既に察知している。


「くっ、目と目で通じ合っている……。あのー、もう少し詳しく説明いただけると、当方としては非常に助かるのですが。あと、重ね重ね申し訳ないのですが欄干って何?」


 両手をもみながら卑屈な態度で接してくる負華。


「欄干は橋の縁にある手すりみたいなものだよ」

「あっ、聞いたことあるかも。あれ欄干って言うんだ、へえー」


 納得してくれたようなので、双子と話を続けて作戦は決まった。

 ちなみに負華は隣で相づちを打つ係とボケとツッコミを担当していたことにも触れておく。






 罠の設置も終え、準備は万端。

 屋上に戻ってから宝玉を起動させて、マップで敵の状況を確認する。


「あと数分で到達か」

「要さん、要さん、見えてきましたよ!」


 負華は何度も俺の肩を激しく叩き、興奮した様子で前方を指差している。

 マップから視線を移すと、まだ点のような大きさだが無数の敵を確認できた。

 目を細めてじっと観察しているが、鉄の鎧を装備した……人間か。それも、西洋風の鎧だ。

 やっぱり、ファンタジー設定といえば中世ヨーロッパ風だよな。ラノベ、漫画、アニメ、ゲームで定番中の定番。

 中世ヨーロッパ風という定義が曖昧だけど、ゲームでそこを気にする人なんて稀だ。なんか、古い海外っぽい、ぐらいの認識。

 そもそもデスパレードTDがそうだったから、続編で世界観がガラッと変わるなんてことはなかったか。


「へー、モンスター相手じゃなくて人間なんだ」

「設定で他国にも攻められている弱小国って説明があったから、今回は敵国からの侵略を防ぐという名目なのですね」


 二人とも理解が早い。


「なんで、人間が攻めてくるんですか? もしかして仲間の増援だったりして!」


 負華は……まあ、うん。そうだよな。ある意味、期待に応えてくれている。


「あれは敵国の兵士だろうな」

「あー、決めつけはいーけないんだー。味方だったらどうするんでちゅか」


 小さい子を注意するような口調は止めろ。

 負華と話していると緊張感が霧散する。


「あのな、相手の掲げている旗の紋章と、この砦に彫られている紋章を見比べたら一目瞭然だろ」


 屋上の縁から身を乗り出して、城壁に彫ってある紋章を確認する負華。

 こちらはドラゴンが描かれた盾のようなデザイン。相手側は交差した二つの剣の背後に薔薇のような花が咲いている。


「あ、本当だ」

「それに向こうの兵士たちは剣を抜いている。あれは何処からどう見ても帰還する姿じゃない」


 かなり距離が縮まってきたので相手をより詳しく観察できる。

 前列の兵士は大きな盾を構え、その後ろにいるのは長い槍を担いだ兵士。

 更に剣と盾を装備した兵士がいて、最後尾にいるのは騎兵。

 兵種の数は均等に分かれている。だいたい二十人ずつか。


「ど、どうします⁉ 《バリスタ》ぶち込んじゃいます⁉」


 戦闘前の静けさと緊張に耐えられなくなったのか、負華が荒ぶっているな。

 興奮状態の彼女に歩み寄ると、背を優しく撫でる。


「どうどう、落ち着いて。《バリスタ》は秘密兵器だから、ここぞという場面まで取っておこう」

「り、了解しました! あと、乙女の身体に許可無く触れるのは犯罪です、よ」


 敬礼した後に表情が緩む。


「そりゃ、悪かった」


 軽口を叩く余裕が出てきたか。

 どうやら、少し調子を取り戻してくれたようだ。


「オジ……要さん、お姉ちゃん、じゃれるのはそれぐらいにしてくれる?」

「橋の近くまで迫ってますよ」


 二人に注意されてしまった。姿勢を正して、敵兵を注意深く観察する。

 全員が足を止めると兵たちが左右に割れた。

 すると、一人の騎兵が進み出てきた。


「あの鎧だけ豪華じゃないですか。なんか白くて縁が金色で」


 負華が言う通り、一人だけ目立つ鎧を着ている。

 白を基調とした鎧、完全に頭を覆っている兜には鳥の羽があしらわれていて、遠目から見てもわかるぐらい目立っていた。


「たぶん、指揮官かな」


 ここまでわかりやすい格好をしていて、ただの一般兵ということはないだろう。


「見るからに地位の高い騎士様って感じだね」

「なんとなくだけど、噛ませ犬臭がするわ」


 ……やっぱり、妹の方が性格キツくないか。

 こちらが暢気に第一印象を語っていると、指揮官らしき人物が誰かを呼び寄せている。

 兵士たちの中から手に剣ではなく、木製の杖のような物を持った女性が駆け足で出てきた。

 鎧は他の兵士と同じに見えるが、なんで杖を持っている?

 その女性に指揮官らしき人物が何か話している。

 何度も小さく頷いていた女性は杖を掲げ、ぐるりと円を描くように動かすとこちらに身体を向けた。


「こちらにおわすお方はトゥヴァイハンダー公爵であらせられる!」


 かなり距離があるのにハッキリと声が聞こえる。

 あの杖に発言前の妙な動作。そこから察するに声を運ぶ魔法か。


「公爵って結構な階級だね」

「王族関係者か権力を持った大貴族に与えられる称号だったような」

「確か、そうだったはず」


 双子の発言に同意していると、横から服を引っ張られた。

 じとっとした視線を感じるのであえて無視していると、何度もしつこく引っ張ってくる。


「なんで、貴族の階級とか知ってるんですか。普通、そんなこと知らないでしょ」

「ゲーマーとしての嗜みだろ」


 俺が言い放つと、双子が大きく頷く。


「乙女ゲー好きなら、貴族とか出てくるファンタジー風の作品なかったか?」

「言われてみれば、悪役令嬢に転生するゲームでなんか言ってたような……」


 そういう設定に触れたことはあるけど覚える気はなかった、と。

 等というどうでもいい会話をしている間に、敵の話は進んでいた。


「大人しく降伏するなら命は助け、奴隷として扱おう、と仰るトゥヴァイハンダー公爵の慈悲にすがりたくば即座に砦を明け渡し――」


 内容は聞く価値もない。

 降伏勧告なのだが、こちらを見下した傲慢な物言い。

 無駄に回りくどい話を略すと「無条件で降伏して土下座しろ。命は助けてやるけど、奴隷な」ということらしい。


「ムカつくな、あの公爵」

「まず、言いたいことがあるなら自分の口で話して欲しいわ」


 双子が腕を組んで、侮蔑の視線を突き刺している。

 俺は腹が立つ、というよりは定番の展開とお決まりのセリフに少し感動していた。

 ゲームとはいえ善人を倒すのは気が引ける。これで遠慮なく容赦なく叩き潰せる。


「これ以上は聞くだけ無駄か。よっし、出番だよ負華。《バリスタ》撃ち込んで」

「えっ、撃っちゃってもいいんですか?」


 戸惑う負華に俺と双子は親指を立てた右手を突きつける。


「開戦の合図だ。ド派手にいこう」

「じゃあ、やっちゃいますよー! 発動!」


 屋上の縁に突如現れた巨大な弓バリスタを見て、敵軍がざわついている。

 能弁を垂れていた女兵士とトゥ……なんとか公爵が慌てて後方へと下がっていく。


「方角良し、距離良し、狙い良し、発射!」


 負華が天高く掲げた両腕を勢いよく振り下ろすと同時に、《バリスタ》から巨大な矢が放たれた。

 橋の少し先に突き刺さった矢は粉塵を巻き上げ、深々と地面に突き刺さっている。

 誰にも当たらなかったようだが、近くにいた兵士たちは腰が抜けたのか地面に尻を突いて呆然としていた。

 後方に下がった公爵は手にした剣を振り回して、ご立腹のようだ。

 直ぐさま体勢を立て直した兵士たちが列をなして、橋へと突っ込んでくる。


 こちらの《バリスタ》を警戒して先頭は大きな盾を構えた兵士のみ。橋の幅が五メートルもないので、横並びで四人が限界。

 橋の半ばに達したところで盾を構えていた兵士たちが――自ら川へ飛び込んでいく。

 一列目は全員が揃って川に落ちて流されていった。


「うまくいったか」


 橋の上に隙間なく横並びに《矢印の罠》を設置したので、第一陣は見事に全員罠にはまった。

 川に向けられた矢印に従って強制移動させられ、自ら落下。

 何が起こったか理解できずに二列目の兵士たちが戸惑っている。

 普通のタワーディフェンスなら敵は何も考えずに猛進して、罠に自ら突っ込むのにこのゲームはさすがだな。キャラクター一人一人に高度なAIを仕込んでいるようだ。

 ここで撤退を選んだとしても、砦を守り切ったことで臨時クエストはクリア扱いになるはず。ゲームとしては物足りないが、報酬がもらえるなら良しとしよう。

 さあ、退却でも構わないし、徹底抗戦なら受けて立つぞ。


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