第4話 ルール説明
「では、このゲームについてのルールを説明する前に、注意事項のおさらいを。皆様のことですからメールに書かれていた文章にはすべて目を通していると思いますが」
司会進行役からの問いかけに対して、全員が大きく頷く。
俺なんか楽しみで楽しみで、休憩時間や帰宅時間に何度もメールを確認した。
隣に視線を向けると、舞台からすっと目を逸らしている彼女。
巻き込まれただけだから、そこはしょうがないか。
「このゲームはまだテストプレイの状態ですが中身はほぼ完成しています。ここからはバランス調整や細かいチェックが必要なぐらいですので。選ばれし皆様にはその調整の手伝いをお願いしたいのです」
ゲームのバランス調整はかなり重要で、特にタワーディフェンスだと適度な難しさの調整が大事になってくる。簡単すぎても面白くないし、難しすぎても客が離れる。
「テストプレイの内容をネットやマスコミに漏洩しますと、罰金+我が社のゲームを金輪際プレイ出来なくなります。永久にアカウントを剥奪します」
脳天気に思えるぐらいの明るかった声がすっと低く冷たくなる。
情報の漏洩はどこも気を遣っているので納得はするのだが、罰金はそんなに辛くない。何よりも辛いのは製作会社のゲームが出来なくなることだ。
絶対に情報は漏らさないと心に誓おう!
「って、厳しい話ばかりじゃげんなりしますよね。では、ここで皆様に嬉しいお知らせを。このゲームはキャラや罠の育成、オープンワールド、RPG要素もあるのですが、更にバトルロイヤル要素まで加えています!」
盛りに盛っているな。前作のデスパレードTDも育成要素はあったが、一面ごとをクリアーしていくよくある感じのタワーディフェンスだった。
どんな内容になるのか想像も付かない。だけど、一つに絞らず多くの要素を盛り込んだ作品って失敗例が多い。そこが心配だ。
「えー、盛り込み過ぎじゃね? なんて心配したのではありませんか。ご安心ください、妥協は一切しておりません。タワーディフェンスによるタワーディフェンスの為のゲーム。この言葉に偽りはございません!」
力強く断言している。
そこまで言ってくれるなら期待しかない。
服の裾を引っ張られたので隣に目を向けると、上目遣いでじっと見つめる彼女。
その顔には疑問符が無数に浮かび上がっているように見えた。
「バトルロイヤルってなんですか?」
「そこもわからないのか……」
「すみません。ゲームをあまりやらないので。あっ、恋愛シミュレーションは得意です! 数々のイケメンを手玉に取ってきました!」
胸を張ってドヤ顔で威張っている。
ジャンルは違うがゲーム好きとして、そこはツッコミを入れないでおこう。
「バトルロイヤルはプレイヤー同士が最後の一人になるまで殺し合う仕様だよ」
「あー、お兄ちゃんが銃で撃ち合うので、そんなのやってました」
FPS――本人視点のシューティングゲームではよくあるジャンルだ。
俺もたまに息抜きでやることはある。
「では、この流れでストーリー説明を。ごほんっ……。貴方達はこの荒れ果てた大地に異世界から流れ着いた守護者。ここは多くの魔物が跋扈する狂乱の大地に存在する、否、辛うじて存在している小国。魔物だけではなく隣国との争いに疲弊し、滅びを待つ定め」
説明を聞きながら山頂の縁まで移動して、眼下を観察する。
かなり高さがあるのでハッキリは見えないが、戦乱の痕跡がそこらかしこに見える。あの焼け焦げた跡ばかりの一帯は結構な規模の町だったのだろう。
他にも大地に穿たれた巨大なクレーターや、崩された神殿跡のようなものも見える。
「小国の王は最後の手段として禁断の召喚術を実行。異世界から才ある者を呼び寄せたのです!」
身振り手振りを加えながら熱弁を振るっているが、俺たちの反応は微妙だ。
「この展開アニメで観たことあるな」
「私も」「俺も俺も」
「異世界転生、ってヤツだよな」
「正確には異世界転移じゃね?」
ざわつく周り。俺も全く同じことを思っていた。
「どうせなら、乙女ゲーの世界に転生したかった……」
隣の彼女だけは思考の方向性が違うようだ。
よくあるパターンの話だけど、無駄に凝りすぎてわかりにくい導入よりいい。大事なのはゲーム性なのだから。
「しかし、召喚陣の誤作動で異世界から召喚されし守護者たちは城には現れず、この大地の各地へ転送されてしまったのです! ちなみに皆様プレイヤーのことをこれからは守護者、と呼ばせていただきます。とまあ、それが今の状況です。もちろん、正規版をリリースしたときは壮大なオープニングを用意してありますから、お楽しみにー」
タワーディフェンスに壮大な物語やオープニングを期待しているか、と問われたらNOなんだけど、このゲームは力の入れ具合が半端ないみたいだから、少しだけ楽しみだ。
「では、ここからがお待ちかねのプレイ内容とルールになります。まず、守護者の皆様には一つだけTDS、タワーディフェンススキルが与えられます。誰一人として被ることのない、唯一無二の能力です。ぶっちゃけるとゲーム内で使用できる罠や設置物ですね。皆さんには説明する必要もないでしょう」
常識中の常識。これがないとタワーディフェンスと言えないぐらいの基本。
罠などを設置して敵を撃退するゲームなのだから、それがないと話にならない。
「では、その能力をどうやって決めるのか? それは……こちらをご覧ください!」
司会進行役のヘルムが右手を振るうと、カラフルな色彩とコミカルな音の爆発が起こり、舞台の上に巨大なモノが現れた。
それは上部に透明で巨大な球体があり、その下には四角い箱。そして、そこには排出口らしき穴とマンホールのような大きさのレバーがある。
「そうこれそこが、TDSガチャです!」
「ガチャ要素あるのかよ!」
思わず声を上げてしまったが、他の連中も同じような反応をしている。
ネットが普及してからは当たり前になったゲームの仕様。ようはランダムで何かが手に入る運要素のシステム。
基本無料をうたっているゲームの課金要素でよくある。そして、バカみたいに金を注ぎ込んで後悔するのもよくあるパターン。
「といっても、このガチャは無料ですからご安心を。各自一回、ガチャを回してもらってTDSを一つ手に入れてもらいます」
「ちょっと、質問があるんだけど?」
すっと手を伸ばして意見を口にした人物に視線が集中する。
なんだ、あのイケメンの若者は。金髪碧眼で身長は百七十ちょいぐらいで俺より少し低く見える。すらっとした手足、というか足なっが。
今時の髪型もその容姿に相まって似合いすぎだ。
「はうー。乙女ゲーなら真っ先に攻略する、もろタイプぅ」
と目を輝かせて感嘆のため息を漏らすのは隣の彼女だ。
なんかダメな男にころっと引っ掛かりそうだな、この人。
「はい、構いませんよ。ええと、お名前は本名で登録されているようですが、そのままお呼びしても?」
「ああ、
俺と同じく実名でプレイ派か。
そういや隣で目を輝かせている彼女の名前はなんだろう。
「では、佩楯さん、どのようなご質問でしょうか」
「もらえるTDSはたった一つだけなのかな?」
この佩楯という二十歳手前に見える青年は声までイケメンだ。職業は声優なのかと勘ぐってしまうぐらい、耳障りの良い中性的な澄んだ声をしている。
「はい、そうです。まずは一つのTDSを得てもらいます。ガチャなのでパッとしない能力を引くこともあるでしょう。ですが、落胆するのは早いですよ。TDSは育て強化することが可能です。思いも寄らない進化をするTDSが存在する……かも?」
そこは曖昧なんだ。
しかし、強化に進化か。これはプラスの要素だな。タワーディフェンスの楽しみとしては、どんな罠を選んで設置するか、そこが重要ポイントの一つ。
戦略も罠によって大きく変化する。
「じゃあ、ずっと一つの罠しか使えないというわけでもありません。そこでバトルロイヤル要素が重要となってきます。他の守護者と戦い勝つことで相手のTDSを奪うことが出来るのです!」
おっと、これは予想外だ。
他のプレイヤーたちも意表を突かれたようで、困惑する者が多いようだけど、何人かは期待で口元に笑みが浮かんでいる。
たぶん俺は……後者と同じ表情をしている。
定番のタワーディフェンスはもちろん好きなのだが、何作品もやり込むとさすがにマンネリ化してしまい、最近は飽きてしまうのが早い。
だけど、これは今まで見たことも聞いたこともない要素だ。
「とはいえ、初日から殺し合いも物騒な話なのでTDSの奪い合いが可能になるのは三日目からです」
なるほど。こういう配慮はありがたい。まずは操作に慣れるための時間が必要だから。
「では、説明ばかりではつまらないので、皆様お待ちかねのTDSガチャやってみましょうか! さあ、一番初めにガチャをやりたいという方は挙手を!」
いきなりか。うーん、こういうのは様子を見たいところ。
TDSには強力なものから、使い勝手の悪いものや、外れの能力もあるかもしれない。
運か……。あんまり、自信がない。昔からくじ運とか悪い方だった。
「はい、はい! 私やりたいです!」
誰もが沈黙して辺りをうかがっていると、大きな声を上げて挙手したのは――隣の彼女だった。
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