第3話 新しい挑戦

サンノソの町に春が訪れ、ベーシックインカムの導入から数ヶ月が経過した。町の住民たちはそれぞれの方法で新しい生活を楽しんでいたが、ジュンとマユにとっては、真の挑戦が始まる時期だった。


ジュンはプログラミングのオンラインコースを無事に修了し、新たなスキルを活かした仕事を求めて職探しを始めていた。彼は面接のためにスーツを着て、以前とは違う自信を胸に町のIT企業を訪れた。しかし、職場にはすでに多くの候補者がいたことを目の当たりにし、競争の激しさを改めて実感する。


「こんなにたくさんの人たちが…」ジュンは一瞬落胆したが、すぐに気を取り直した。「だけど、チャンスは等しく与えられている。諦めたらそこで終わりだ。」


一方、マユのカフェ「ハーモニカ」は、ついにオープンを迎えていた。オープニングイベントには多くの地元住民が訪れ、新しい集いの場としてのスタートを飾った。マユはカウンター越しに温かい笑顔を向けながら、自家製のケーキとコーヒーを提供した。カフェ内には歓談の声が満ち、マユの夢が形となって現れた瞬間だった。


「こんなに多くの人に支えられて、本当に幸せです。」マユは感謝の気持ちを込めて、来店客一人一人に挨拶を交わした。


しかし、町には依然としてベーシックインカムに対する賛否が分かれていた。カフェでの会話の中にも、給付金に依存することへの批判や、それが長期的に持続可能かどうかについての懸念が交わされることがあった。マユはそんな会話に耳を傾けながら、自分ができること、カフェが町にとってどういう意味を持つかを考えていた。


「私たちの場所が、みんなが安心して集まれる場所になれば…それだけで意味があると思うんです。」


ジュンもまた、面接を終えた後の帰り道に、これからの自分の役割とベーシックインカムの意義について考え込んでいた。彼にとって、給付金は一時的な救済ではなく、自らを成長させ、社会に貢献するためのステップだった。


「ベーシックインカムがなければ、こんなチャンスもなかったかもしれない。今は自分ができることを最大限に活かす時だ。」


新しい挑戦の中で、ジュンとマユはそれぞれの場所で、ベーシックインカムがもたらす可能性と、それが引き出す人々の力を信じて歩み続けていた。

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