第4話 葛藤と絆

サンノソの町は、ベーシックインカムの導入から半年が経過し、その影響は一層明確になり始めていた。多くの住民が経済的な安心感を得ていた一方で、町の中には新たな葛藤も芽生えていた。


ジュンは幸運にも新しいIT企業での仕事を得ることができた。彼の新しい職場では、ベーシックインカムのおかげで技術を磨く機会を得た彼のような若者が増えていた。しかし、これには既存の社員からの不安の声もあった。「働かなくても生きていけるなら、私たちの努力は何だったのか」という疑問が、チーム内の空気を重くしていた。


ジュンはこの状況をどうにか改善しようと、チームミーティングで自分の経験を共有することにした。「ベーシックインカムは私たちに安心を与えますが、それは新しいことへの挑戦を支えるためだと私は考えています。働く意欲をなくすのではなく、より創造的で意義ある仕事に集中できるようになるんです。」


マユのカフェ「ハーモニカ」では、地域コミュニティの集まりの場として定着していた。カフェでは週末ごとに文化イベントやワークショップが開催され、人々が自分たちの才能や情熱を共有する場所となっていた。しかし、町外から来る人々によって、地元の商業との間に緊張が生まれ始めていた。地元の商店主たちは、マユの成功がベーシックインカムによるものと見なし、自分たちとの不公平を感じていた。


マユはこの問題に対処するため、地元の商店主たちをカフェに招いて意見交換の会を開くことにした。「私たちの成功は皆さんの支えがあってこそです。カフェを通じて、地元経済にどう貢献できるか一緒に考えましょう。」


その夜、カフェは地元商店主たちでいっぱいになり、マユの提案により、地元商品の販売をカフェで行うことが決定された。この一歩が、地域内の連携を強化するきっかけとなった。


ジュンもまた、職場での自分の立場を利用して、社内の福祉活動に積極的に関わるようになった。彼の努力により、従業員同士の理解と協力が深まり、職場の雰囲気は徐々に改善されていった。

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