第111話 捨てられ王子、幻の世界を出る





「レイシェル、昨晩はどこにいたのだ?」



 翌日。


 自宅のリビングでローズマリーに声を掛けられ、俺はビクッと肩を震わせた。



「あー、えっと、ちょっと野暮用で」


「……私も母上も寂しかったのだぞ」


「ご、ごめん!! ……今日は、しっかり相手するよ」


「ふふっ、そうか。楽しみにしておこう」



 そう言ってローズマリーは早めに自宅を出た。


 すると、俺の着る制服のポケットからライムがぬるっと出てくる。


 ……いつの間に入ったのだろうか。



「マスター、準備は整いましたか?」


「ああ、今日でこの幻の世界を出る」



 俺はこの世界に未練が残っている。


 だからヘクトンの言うように念じるだけでは出られない。


 だから別の手段を取る。


 ライムをポケットに入れて、ローズマリーの後を追うように自宅を出た。



「……この学校とも今日でおさらばだ」



 学校に到着した俺は荷物を教室に置いて、体育館へ向かった。

 今日はアルカリオンにお願いして、急遽全校集会をを開くことになったのだ。


 そこそこの広さがある体育館に生徒たちがぞろぞろと集まってくる。


 あっという間に体育館は人で埋め尽くされ、どこを見ても美少女美女がいる夢のような空間へと変わり果てた。


 ざっと数百人、下手したら千人を優に超えているだろう。


 俺は壇上に立って、彼女らを見下ろす。



「……俺はこの世界から出なくちゃいけない」



 マイクを片手に語り掛ける。


 俺の言葉がトリガーとなって、ローズマリーを含めた全員の目が肉食獣のようなギラギラしたものに変わった。


 やっぱりそうか。


 先日のアルカリオンやローズマリー然り、この世界から出たいという俺の意志を挫こうとして全員のやる気スイッチが入るらしい。


 俺は制服を脱ぎ捨て、すっぽんぽんになる。


 そして、眼下にいる先生や生徒たちに宣戦布告した。



「全員まとめて相手してやる!!」



 真っ裸になった俺は、一番近くにいた女子生徒と戦闘を開始する。

 普段は責められがちな俺だが、やる時はヤるのだ。


 数人、数十人、数百人……。


 むせ返るような濃密な匂いが体育館に充満するが、俺は気にせず戦う。


 途中で押し倒されて身動きを封じられ、沢山の柔らかいおっぱいが戦意を挫こうと全身にのしかかってきた。


 しかし、この程度で負けるものか。


 俺は時間をかけて一人ずつ着実に倒し、何度も頂へと至った。



「坊やは悪い子ですね」


「……アルカリオン」



 俺の前にアルカリオンが立ちはだかる。


 彼女の大きなおっぱいが「どたぷんっ♡」と激しく揺れ、近づいてくる。


 あのおっぱいに包まれたら最後、俺はきっと気絶するまでこってりとアルカリオンに搾り取られてしまうだろう。



「坊や、諦めてください。この場にいるほぼすべての女性を倒したのは見事ですが、すでに相当な体力、精力を消耗しているはず。そして、町中の女性がここを目指して集まっています。坊やに勝ち目はありません」


「それはどうかな?」


「……どういう意味でしょう?」


「こういう意味だ!! ――『完全再生』!!」



 身体の奥底から力が漲ってくる。


 疲れが一瞬で吹き飛び、下半身がエネルギーで満ちてきた。


 ああ、成功だ。


 俺は冥界に来てからずっと完全再生を使いまくっていた。

 その結果、以前は不可能だった精力の回復までできるようになったのだ。


 つまり、俺はいつまでも戦える。


 仮に数日間を過ごしたこの世界の住人が全員集まってきたとしても、余裕で返り討ちにできるはずだ。


 この世界にいるアルカリオンたちは俺の記憶にある彼女たちである。


 成長した俺を倒す術は、彼女たちにはない。



「坊や――ッ」



 俺はこの場で最も強いであろうアルカリオンを倒すことができた。


 現実の彼女ならこうは行かなかっただろう。


 きっとすぐに俺の成長を上回って一滴残らず搾り取ってくるだろうからな。



「レイシェル」


「……ローズマリー」



 いつの間にかすぐ近くにローズマリーが立っていて、話しかけてきた。



「ここはお前にとって、居心地の悪い世界だったか?」


「まさか。制服のローズマリーがかわいくて最高だった」


「ならばここにいればいい。ここはお前の望む世界のはずだ」



 ローズマリーの言葉に俺は首を横に振る。


 たしかにこの世界は居心地がいいし、何かと便利だし、最高の世界だ。



「でも、俺の最高なんて本物のローズマリーたちがいたらすぐ更新されちゃうからさ。どうせならもっと最高な世界で生きたい」


「……そうか。ならば、一つだけ頼みがある」


「なんだ?」


「私を、本物だと思って本気で抱いてくれないか?」



 俺はどこか寂しそうなローズマリーの言葉に笑顔で答える。



「俺はこういう時、手加減したことは一度もないんだ」


「……ふふ、そうか。それはいいことを聞いた」



 こうして俺はローズマリーを抱いた。














「ん? あれ!? どこここ!?」



 いつの間にか俺は真っ暗な場所に立っていた。


 辺りをキョロキョロしていると、背後から声を掛けられる。


 

「……やっと幻の世界を抜け出したのか。まったく、待たせるな」


「あ、ヘクトン!! っとと!?」


「!?」



 ヘクトンの声が聞こえた方に振り向くと、勢い余って俺は転んでしまった。


 ヘクトンも回避できず、押し倒してしまう。



「うっ、す、すまん、ヘクトン」



 むにゅ。もにゅ。ぷるん。


 大きくて柔らかい何かの感触がしっかりと手に伝わってくる。


 こ、これは……。



「わ、悪い!! 今のはわざとじゃないんだ!!」


「……早く手を退けろ」



 俺は慌ててヘクトンのおっぱいから手を離して謝罪した。


 悪くない感触だった。


 しかし、やはり男だと分かっているからかあまり興奮はしない。


 ただ謎の背徳感は感じられる。不思議な感覚だ。



「くそっ、なんでよりによって幻と同じ出来事が起こるんだ……」


「ん? 何か言ったか?」


「何でもない!! さっさと最下層に行け!! くそが!!」



 何故か癇癪を起こしているヘクトン。



「あ、うん。……どっちに行けばいいんだ?」


「あっちだ!! さっさとしろ!!」



 俺はヘクトンが指差した先に光があるのを見つけ、そこを目指して歩き始めた。


 そうして辿り着いた先には――



「ふひっ、ひひひ、いらっしゃい。よく来たね、レイシェル様」



 女神様の妹と思わしき不気味な笑い方をする美女が待っていた。


 俺はその姿を見て、驚愕する。


 何故ならその美女のおっぱいがアルカリオンより大きかったからだ。







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「笑い方が不気味なでっかい女の子っていいよね」


レ「分かる」



「真面目な話してて草」「ヘクトン勝手にメス堕ちしてるやん」「あとがきに全力で同意する」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。

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