第104話 捨てられ王子、悪魔たちを救う




 再三言うが、中層は地獄のような場所だ。


 歩いていたら足の裏が溶けるし、一呼吸するだけで肺が燃え尽きる。


 俺のように『完全再生』で瞬時に間を置かず治療できる術を持っていないと生存すら困難な環境と言っていい。


 そんな場所で文明を築けるか?


 普通なら誰もがその問いを鼻で笑い、ノーと答えるだろう。

 しかし、目の前にはイエスの光景が広がっていた。



「す、すっごー」


「わぁ!! お兄ちゃん見てみて!! すっごく大きなお城だね!!」



 ローズが大はしゃぎしている。


 彼女の言う通り、冥界中層の中心部には巨大な城があった。


 否、城というよりは要塞という言葉が正しいか。


 周囲を十数メートルはあろうかという高い壁に囲まれており、見るからに何かとの戦闘を想定している巨大都市だった。



「クーファさん、これが悪魔族の街なんですか?」



 俺はここまで俺たちを案内してきた女騎士、クーファさんに声をかける。


 名前は道中で教えてもらった。


 全身甲冑には熱を遮断する機能があるらしく、素顔は未だに分からないが、数時間でかなり打ち解けた。


 他の悪魔騎士にも誤解が解けたようで、言葉は通じないながらも仲良くなったと思う。


 俺の問いにクーファさんが答える。



「如何にも。我らは死の熱に晒されながら、ゼロからコツコツと文明を積み上げてきました。その結晶があの城、万魔殿パンデモニウムです!!」



 嬉々として説明するクーファさん。


 悪魔騎士たちもどこから持ってきたのか、燃えない紙のようなものを散らして紙吹雪を演出している。


 仲いいな、この人たち……。と、感心していた時だった。


 万魔殿の方からけたたましい鐘の音が響く。



「な、なんだ!?」


「レイシェル殿!! こちらに!! 爆裂魚の襲撃です!!」


「ば、爆裂魚?」



 その時、大きな影が俺たちの上を横切った。


 上を見上げると、そこには翼を羽ばたかせながら宙を舞うあの巨大マグロの姿があった。



「!?」



 巨大マグロはそのまま万魔殿を囲む壁に突き刺さり、爆発する。

 その威力は地面に軽くクレーターが生じる程で、凄まじいものだった。


 これには俺も驚きすぎて腰を抜かす。


 ローズは爆発する羽マグロ――爆裂魚を見て目を輝かせながら手をパチパチと叩いていた。


 この子、絶対大物になると思う。


 って、そんなこと考えてる場合じゃない!! なんだ今の!?



「あれは中層に生息する生物の中でも一際危険な爆裂魚です。肉は美味いのですが、数日に一度の頻度で群れが意味もなく突撃して壁を破壊するのです」


「何その迷惑すぎる生態!?」



 いや、ツッコミを入れている暇はない。



「怪我人の治療をしなくちゃ!!」


「レ、レイシェル殿!? 危険です!! 早く安全な万魔殿の中に!!」


「ローズだけ連れて行ってくれ!!」



 俺は爆散した壁まで走り、巻き込まれて怪我をしていた悪魔たちに『完全再生』を使う。


 怪我が一瞬で治ったことに悪魔たちは目を瞬かせていたが、俺を見た途端に悲鳴を上げながら万魔殿の方へ逃げて行った。


 ……まあ、今の俺って全裸で走り回っている変態だからな。


 お礼を言われたかったわけではないが、逃げ出した悪魔の反応はある意味当然なので今は切り替える。


 別に気にしてない。気にしてないったら気にしていない。


 と、そのタイミングで再び突撃してくる爆裂魚。


 しかも狙いは一匹目の爆裂魚の爆発で一部分が崩れている壁だった。


 俺は壁に触れて『完全再生』で修繕する。


 咄嗟の修復だったので元の強度を遥かに下回るものだったが、爆裂魚は激突して凄まじい爆発を引き起こした。



「うおお!?」



 吹っ飛んだ瓦礫に巻き込まれるが、頭だけは守ったのでセーフ。


 すぐに身体の怪我を治療して戦線復帰した。



「ギョギョ!!」


「うわ、鳴き声キモイ!!」


「ギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョギョッ!!!!」



 俺の発言が癪に障ったのだろうか。


 爆裂魚は目をギョロギョロさせて俺を見つけると、今度は俺の方に向かってきた。


 直撃はまずい。


 あの威力を正面から食らったら流石に頭を守れる自信がない。


 俺は全速力で逃げようとするが、爆裂魚は鼻先をこちらに向けて追尾してくる。

 追尾機能付きの空飛ぶ爆発する魚ってもうミサイルだよな。



「うおおおおおお!?」



 爆裂魚が直撃しそうになった、その時だった。


 極太の矢のようなものが爆裂魚に突き刺さり、爆発した。


 ご親切に周囲の爆裂魚を誘爆しながら。



「い、今のは……」


「レイシェル殿!! 無事かー!!」



 壁の上の方からクーファの声が聞こえてきた。


 声がした方に視線を向けると、そこには砲台のようなものに搭乗したクーファの姿があった。


 何あれ凄いカッコイイ。


 いや、アガードラムーンにも砲台はあるけど、武骨で機能美を追求するイェローナでは作れない厳ついデザインの砲台だ。



「今のうちに壁の中へ!!」


「は、はい!!」



 俺は慌てて壁の中に逃げ込み、同時に門が閉じられる。



「はあ、はあ、ふぅ。し、死ぬかと思った」


「――ッ!! ――ッ!!」


「え? あ、ど、どうもどうも」



 壁の中に入ると同時に悪魔たちが歓声を上げた。


 言葉までは分からないが、雰囲気で歓迎していると分かる。


 背中をバシバシ叩かれて少し痛い。


 と、ここからどうすればいいのか分からなくて困惑していると、俺の方に駆け寄ってくる小さな影があった。



「お兄ちゃん!!」


「あ、ローズ!!」



 ローズだった。


 勢いよく俺の方に向かってくるので、そのまま抱き上げようとしたら……。


 思ったよりも威力があった。



「へぶっ!?」



 爆裂魚のように突撃してきたローズの頭が鳩尾に直撃し、その場で蹲った。

 しかし、ローズの前なのでカッコ悪いところは見せられない。


 俺はローズに努めて笑顔を見せようとした、ちょうどそのタイミングで。



「上から来るぞ!! 気を付けろ!!」


「え? ぎゃ――」


「お兄ちゃん!?」



 壁を超えて内側にまで侵入してきた爆裂魚が着弾し、俺はその爆発に巻き込まれてしまった。


 ローズは咄嗟に守ったので怪我一つないが、俺は爆発の拍子に飛んできた小石が脳天にクリティカルヒット。


 そのまま気絶してしまうのであった。





 


―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「作者はマグロが好き。色々な意味で」


レ「先生怒らないので意味が分かった人は正直に手を挙げなさい」



「爆発するマグロで草」「まだ全裸なのか」「( ̄∇ ̄)ノ」と思った方は、感想、ブックマーク、☆評価、レビューをよろしくお願いします。


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