第102話 捨てられ王子、串刺しで痛い
俺はローズパパから教えてもらった道を歩いて冥界の上層から中層に入った。
上層は空気が猛毒だったり、影狼や影巨人が襲ってきたり、とにかく常人ならば生存できないような環境だったと思う。
でも、その反面でどこまでも続く草原だったり、満天の星空が広がっていたり……。
絶景という一言がピッタリな景色だった。
中層にはどんな景色が広がっているのか、俺は少しわくわくしながら入ったのだ。
「地獄やんけ」
目の前に広がるのは灼熱の大地。
地面がヒビ割れた場所から大量のマグマが吹き出しており、空には晴れない黒煙が広がっている。
上層とはまるで違った。
「暑っ……ていうか熱っ!!」
歩くだけで地面の熱がブーツを貫通し、足の裏を問答無用で焼いてくる。
熱すぎる。というかもういっそ痛い。
呼吸する度に肺が燃えるし、身体が自然発火してしまうほどだ。
お陰で完全に服は燃え尽きてしまった。
瞬きする間もなく燃え尽きて糸くず一つ失くなってしまったから『完全再生』でも直せない。
空気が猛毒だった上層と同じく、あるいはそれ以上に『完全再生』がなかったら生存すら困難な環境と言っていいだろう。
驚いたのは……。
「ぽかぽかで気持ちいいね、お兄ちゃん!!」
「な、なんで平気なんだ、ローズ?」
「え? 何が?」
ローズは灼熱地獄の中で平然としていた。
ちょっぴり汗を掻いてはいるが、夏手前の春くらいの汗。
亡者だからあまり熱を感じないのか、あるいは生きていた頃から熱に対する強い耐性を持っているのか。
どちらにせよ存在としての格の違いを感じる。
「……じー」
「ん?」
ふとローズから強い視線を感じた。
その視線を辿ると、ローズの目は真っ直ぐ俺の股間を見つめている。
俺は遅ればせながら前を隠した。
「ローズ、見ちゃいけません」
「お兄ちゃんの赤ちゃんができる魔法の杖、パパのより大きいんだね!!」
ローズパパ、なんちゅー教え方してんだ。
いや、何も知らない子供への説明としては悪くないとは思うけどさ。
それにしても俺の方が大きいのか……。
なんだろう、男としてローズパパのワンランク上に立っているような気がする。
……色々と親切にしてくれた人に対してそんなことを考える時点で、俺は人間としてのランクがローズパパより遥かに下だな。
これ以上考えるのはやめておこう。
「あっ、あそこに何かあるよ!!」
ローズは赤ちゃんを作る魔法の杖からすぐに興味をなくしたらしい。
何かを見つけて走り出した。
「あ、こら!! 一人で行っちゃ危ないでしょ!!」
「わあ、お兄ちゃん!! あれ見て!!」
「ん?」
俺はローズが指差した方を見た。
真っ赤なマグマの海の向こうで何か大きな影が跳ねた。
それはこの世界で初めて見た生物。
前世では俺の好物であり、回転寿司に行った時は毎回食べていた魚。
「マ、マグロ……?」
場所が離れているので正確な大きさは分からないが、十メートルは越えていると思う。
あと何故か羽が生えていた。
飛び魚みたいなヒレが進化したものではなく、鳥の翼が。
「……ちょっとキモい」
「えー? おっきなお魚さん可愛いよ!!」
ローズはあれが気に入ったらしい。
冥界の巨大羽マグロ、ちょっと食べてみたい気はするが……。
今はやるべきことがあるのでやめておく。
「取り合えず、下層に続く道を探そうか」
「はーい!!」
俺はローズを連れて中層を歩いた。
しかし、どこまで歩いても変わり映えしないマグマの景色を眺めるのに疲れてしまったのか。
ローズは俺におんぶをせがんだ。
更にはおんぶされるのにも退屈したようで、いきなり無茶振り迫ってきた。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん!! 暇だから面白い話して!!」
「え? お、面白い話?」
「うん!! 私、恋バナしたい!!」
こ、恋バナ、だと!?
くっ、俺に話せるのはエッチな話くらいだから純粋なローズには聞かせたくないな……。
「そ、そうだ。こ、恋バナより俺が道端の犬の糞を踏みそうになった時の話はどう?」
「えー、きたなーい」
「あ、いや、実際に踏んだわけじゃないよ? 踏みそうだったって話で」
「えー、踏んでないのー? つまんなーい」
「くっ」
子供相手にどう接すればいいのか分からない!!
生まれて一ヶ月で俺に関係を迫るようになったローリエとは全く違う。
何か、何か話題はないものか。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「ちょ、ちょっと待ってて。面白い話を、面白い話を考えてる最中だから!!」
「そうじゃなくて、なんか囲まれてるよ?」
「――え?」
いつの間にか俺たちを囲むように、無数の人影があった。
「ローズ!! 俺の後ろに!!」
「わわっ!!」
俺はローズを守るように引き寄せた。
周囲に目をやると、そこには全身甲冑で武装している者たちが視界に入る。
こいつらは一体何者だろうか。
おそらくはローズパパが言っていたような中層の住民と思われるが、明らかに友好的な雰囲気ではない。
「――ッ!!」
ノイズ音のような理解できない言語を全身甲冑たちが叫び、同時に武器を振るってきた。
明確な攻撃だ。
唯一助かったのは狙いローズではな、俺だったことだろう。
俺はローズを離れた場所に勢いよく突き飛ばし、頭だけを守って全身甲冑たちの攻撃を全身で受け止める。
刹那、身体の至るところが串刺しになった。
「お兄ちゃん!?」
「大、丈夫、だ……ッ!!」
首の半分まで剣が到達しているが、脳そのものにダメージはない。
よくある脱出マジックで箱の中に入ったまま剣を刺しまくるヤツがあるが、あれを種も仕掛けもない状態でやったような気分だ。
めちゃぬちゃ痛い。
しかし、いずれ致命傷ではあるが、即死するような攻撃ではなかった。
ならばモーマンタイ。
俺は非力だから反撃こそできないもの、耐久力には自信があるのだ。
全身甲冑たちが疲弊したところで武器を奪い、一人ずつ確実にトドメを刺す。
今はひたすら耐えまくる時だ。
「――ッ!!」
全身甲冑の一人が焦った様子で更なる追撃を指示したのか、他の全身甲冑たちが何度も俺を斬り裂いてくる。
無駄無駄。でも、ああ、うむ。
「痛いんだって!! まじふざけんなお前ら!!」
「――ッ!!」
「上等だコラ!! 何言ってんのか分かんないけど、耐えてやるよ!! でもお前らが疲れてバテたら絶対に同じことやってやるからな!! ああ、安心しろ!! 死なないようにじっくり丁寧に治療してやるから!!」
と、その時だった。
「――ッ!!!!」
「……ん?」
高価そうな深紅色の騎士甲冑をまとった何者かが遅れてやってきて、何か指示を出した。
すると、全身甲冑たちが攻撃の手を止める。
そして、真紅色の騎士甲冑は俺に話しかけてきた。
「はじめまして、わたしの言葉は分かりますか?」
「!?」
俺にも分かる言語だった。
声からして女性と思われるが、全身甲冑たちの上司だろうか。
警戒しよう。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「ちなみに作者の魔法の杖はピッカピカの新品。誇りすら感じる」
レ「本当にどうでもいい……」
「マグマ……溶岩遊泳……」「羽マグロはキモそう」「その誇りを守れ」と思った方は感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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